たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2013年10月

農産物価格支持政策の逆進的な家計負担

既にあちこちで引用され始めているが、JCER(日本経済研究センター)が今月発表したこの調査報告書はヒット作だ。 経済政策議論にかなり強い影響力を与えるかもしれない。

消費税の逆進性はことあるごとに、消費税引き上げの反対理由に上げられてきたが、農産物の関税を含む価格支持政策が逆進性(低所得家計ほど可処分所得に対する負担比率が高くなる)ことを問題視する議論は、ほとんど見なかった、聞かなかった。


しかし言われてみればその通りだ!
良い論文とは、こうして目から鱗(うろこ)を落とすものだね。

引用:「本分析は、日本の農業保護が価格支持に偏っていることを確認した上で、それが低所得者層ほど食費支出割合が多いというエンゲルの法則とあいまって、家計負担に逆進性をもたらしていることを、実証的に明らかにした」
 
 
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NHKBS、日曜日夜のドラマ、「ハードナッツ、数学 ガールの恋する事件簿」(全8回、2回目終了)が面白くて見ている。 主演の女優はNHK朝ドラ「アマちゃん」でユイちゃん役を演じた橋本愛(役名:難波くるみ)だ。
 
第2回で出てきた数学ネタのひとつは以下の通り。
相手役の若い刑事、伴田が検診の結果、1万人に1人といわれる難病の検査で陽性と出て、再検査の必要を通知される。 検査の精度は99.9%、伴田は助からないと覚悟する。
 
クライマックスで爆弾魔の罠にはまって爆弾を仕掛けられ、動けなくなった伴田は「オレはどのみち死ぬ身だ。オレにかまわずにお前は逃げろ」とくるみに言う。
しかし、くるみは、「あれ~伴田さんが病気で死ぬ確率は・・・約1割でしかないですよ!」と言う。
 
「えっ!そうなの?なんで・・・・?検査の精度は99.9%なんでしょ」と視聴者に思わせて、その場でくるみが説明する。
 
「だって、検査の精度が99.9%ということは、10,000人のうち、0.1%、つまり10人は病気でなくても、検査で陽性と出てしまうということでしょ。でも実際に病気になるのは10,000人に1人だけ。だから~検査で陽性と出た伴田さんが本当に病気だという確率は、約1割でしかないんです!」(愛ちゃん、かわいいなあ・・・(^_^;))
*****
 
これは統計や認知心理学の一般書などで、人間が正しい確率的計算が苦手であることの事例としてよく紹介されるケースだ。 検査の精度が99.9%と言われると、検査で「陽性」と出ると「ほぼ確実に、99.9%の確率で病気だ」と思ってしまう。しかし実際には、検査の適否は検査の精度と当時に現象(ここでは病気、罹患比率)の度合いに依存している。
 
ドラマのこの場面で、一緒に見ていた家族に「今の愛ちゃんの説明、わかった?」と尋ねたら、中学2年生の息子は「わからない・・・」、一方 大学1年生(理系)の娘は「あったりまえのことでしょ」との反応、やはり統計の基礎で習っていないと瞬間的にはわからないよね。
 
以下解説
罹患(病気)比率:0.01%(10,000人に1人)
検査の精度:99.9%(0.1%は誤った結果が出る)
 
非罹患者(問題なし人)9,999人
①うち検査で陰性(病気でない)と出る人数:9989=(9999×0.999)  正しい検査結果
②うち検査で陽性(病気だ)と出る人数:9.999=(9999×0.001)     誤った検査結果
罹患者1人 
③うち検査で陽性(病気だ)と出る人数:0.999=(1×0.999)      正しい検査結果
④うち検査で陰性(病気でない)と出る人数:0.001=(1×0.001)   誤った検査結果
 
検査で陽性と出る②と③の合計は、10.998人
そのうち、本当の罹患者は③の0.999人だけだから、陽性と出た人数のうち、実際に罹患している人の比率(X)は0.999/10.998=0.0908、つまり9.08%となる。
これをドラマでは「約10%」と言ったわけだ。
 
さてこれを一般式にしてみようか。
罹患(病気)比率:a
検査の精度:b
とすると、X=ab/(1-(a+b)+2ab)となる。
 
式の組み立ては自分でやってみてください。 
さて、この一般式を使って検査精度が99.9%の場合に、実際の罹患比率(a)が100%から0.001%まで変化した時の「陽性と出た人数のうち、実際に罹患している人の比率(X)」の変化をグラフにしたのが以下の図だ(縦軸は対数メモリ)。 
 
罹患比率が1%を下回るあたりから、急速に「陽性と出た人数のうち、実際に罹患している人の比率(X)」が低下するのがわかる。 これはある意味で当然のことで、要するに非常に確率的に低い事象(ここでは病気)を発見するためには、その低い確率に見合って検査の精度が上昇しないと誤差が拡大する、つまり「陽性と出た人数のうち、実際に罹患している人の比率(X)」が急激に低下するということを意味している。
 
ありていに言えば、小さなミクロの現象を見るには顕微鏡で見ないとわからないと言っているのと本質的には同じことを言っていることになるね。
 
さて、以上のことの人間の認知能力上の含意だが・・・・本日はここまでにして、次回に回しましょう。
 
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前回のマンション投資の築年数と賃料利回りに関するブログが好評だったので、続けてもうひとつ書いておこうか。 金融・投資について素人の方がほとんどする過ち、あるいはバイアス(判断の歪み)が現金主義的な発想だ。
 
最も典型的には、投資目的でローンでマンションを買う場合、月々のローンの元利金の支払いと賃料の受取額(経費差引後)の合計で若干のプラスにしたい、あるいは最低限受払額をチャラにして自己資金の持ち出しを最小限にしたい、その方が有利だと考えている方々が実に多いことに驚かされる。
 
ローンの期間を長くするほど、月々の元金返済部分の金額が減るので、毎月の元利均等で計算される返済額は小さくなる。したがってローン期間も30年、35年と長くする方が実に多い。
 
また、投資を始める際の自己資金も購入価格の1割以下とか、できれば全額ローンで買いたいと考える方も実に多い。
 
こうした現金の受払いのみで損得を考え、投資期間中の自己資金の持ち出しが少ないほど有利だと考える傾向を「現金主義の誤謬」と呼ぶことにしよう。 金融・投資についてまともな学習、訓練を経た投資家の目から見れば、児戯に等しいような選択だ。
 
そのことがわかるように、以下に2つのケースのキャッシュ・フローと最終的な投資結果がわかる表を添付したので、拡大してご覧頂きたい。
 
ケース1は3000万円のマンションを1000万円の自己資金、2000万円の銀行借入、ローン期間10年で買った場合だ。自己資金に対する借入金の倍率(金融レバレッジ比率)は2倍である。 貸し手の銀行にしてみると、物件価格の3分の2しか貸していないことになる。
 
つまり、もし仮に債務者がローンの支払いができなくなり、担保処分のために物件を売る時でも、購入時の価格の3分の2以上の価格で売却できれば、銀行はローンを全額回収できることになる。返済が進めば購入金額に対するローン残高の比率はさらに下がっていくので、銀行がローン残高を全額回収できなくなる可能性はとても低い。したがって、適用金利は優遇され低い金利を引き出すことができる。例では仮に2.5%とした。
 
しかしローン期間を10年と短めに設定したので、毎年の受払いネットのキャッシュフローは31万円の持ち出し(支払超過)だ。5年目に6か月テナントが入らず空室になったことを想定してある。その年は128万円の持ち出しになる。
 
ケース2は反対に自己資金は100万円のみ、2900万円の銀行借入、ローン期間は35年と最長を選んだ場合だ。上記と反対の理由で銀行にとっては与信リスク(債務者が返済不能になった場合のローン回収不能リスく)が高くなるので、適用金利は高くなる。ここでは3.5%とした。
 
毎月、あるいは毎年の元利均等返済額がどのようになるかは、以下のサイトで簡単に計算できる。
 
さて、双方のケースとも賃料利回り(経費差引後)は195/3000=6.5%と想定してある。そして10年後に売ったとしよう。売却価格は年率2.5%で経年による老朽化で価値が減少したものとして計算すると、2329万円=3000×(1-0.025)^10となる。 ^はエクセルの累乗の記号である。
 
10年後の売却時点で、ケース1はローンの返済が終わっている。一方、ケース2は2394万円の未返済ローン残高が残っているので、売却代金でローンの残りを返済することになる。
 
表でそれぞれカラーをした列が売却までを含めた10年間のネット・キャッシュ・フローだ。
 
ケース1の青色列では10年間のネット・キャッシュ受取が、919万円である。もし買った時と同じ3000万円で売れた場合のネット・キャッシュ受取は1590万円になる。
 
ケース2の黄色列では同様にネット・キャッシュ受取が250万円である。もし買った時と同じ3000万円で売れた場合のネット・キャッシュ受取は921万円になる。
 
最終的なネット・キャッシュ受取額はケース1の方が671万円多くなる。もちろん投資した資金量がケース1の方が大きいのだから、ネットの回収額も大きくなるのは当然だろう。
 
むしろ注目して頂きたいのは、10年たった時点のマンション価格の変動に対する損益分岐点(ここではネット受取額がプラスではなくマイナスになってしまう売却額)が、大きく違うことだ。ケース1でマイナスに転じる価格水準は1409万円、ケース2では2079万円となる。
 
つまり自己資金をより多く投入して、その結果、低い金利で短い期間のローンを組んだ方が、価格下落に対する耐久度がずっと高くなる(損益分岐点がずっと低くなる)ということだ。 投資家の失敗・破綻リスクはケース1の方がずっと低いのである。
 
逆に言うと失敗・破綻事例はほとんどの場合、次のような条件下で生じている。
購入価格の100%ないしはそれに近い比率でローンを長い期間(例では35年)で組む。
したがってローンの適用金利が高い。
投資家に自己資金の余裕が乏しい。
 
これに「新築マンションを業者の売値で買っている」という条件が加わると、投資の失敗はほとんど必然だと断言できる。
 
なお、ネット・キャッシュ・フローのIRR(内部収益率)を比較すると、ケース1では6.0%、ケース2では
41.7%となり、ケース2の方がずっと高くなるが、これはケース2が購入時点で自己資金に対するローン比率が29倍(金融レバレッジ比率29倍)と極端に高いからに他ならない。そしてレバレッジ比率の高さに見合って、リスクも極端に高くなっているということに他ならない。
合理的で賢明な投資家のすることではない。
 
関連論考:「REIT高騰に続くか、マンション投資の鉄則」 トムソン・ロイター社コラム、
 
http://bylines.news.yahoo.co.jp/takenakamasaharu/  Yahooニュース個人
 
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新築マンションの販売、中古マンションの売買、双方とも前年比で目立って増加してきた。新築のマンション販売の増加は、来年4月からの消費税引き上げ前の駆け込みという事情もある(もっとも4月以降利用できる予定の税制の優遇を使うと駆け込む必然性はあまりない)。
 
しかし中古マンションについては仲介ならば消費税はかからないので、景気回復継続期待、アベノミクスによるインフレ期待、東京ではオリンピックに向けた不動産価格の上昇期待など複合的な要因だろうか。
 
9月27日付け日経新聞記事
引用:「不動産経済研究所(東京・新宿)は17日、8月の首都圏の新築マンション発売戸数が前年同月比53.3%増加したと発表した。東京都心の大型物件の供給が全体を押し上げ、戸数は8月としては8年ぶりの高水準となった。」
 
レインズタワー2013年9月レポート(10月10日リリース)
引用:「首都圏中古マンションの成約件数は3,123件(前年同月比12.5%増)で、13カ月連続で前年同月を上回っている。1都3県そろって前年同月を上回っており、東京都は前月に続いて2割を超える増加。成約㎡単価は首都圏平均で40.95万円(前年同月比8.7%上昇、前月比2.3%上昇)で2カ月連続の上昇」
 
市場が動いているので、仲介業者の動きも活発になっている。中古については基本的には売り物件を求める動きが強かったが、ここにきて価格の上昇をうけて売り物件の供給が増え始めた感じだ。
 
景気の波が現在のように上がり始めているが、まだ一方向に傾いていない状況では、中古マンション市場も強気弱気や売り買いが交錯するようだ。
 
私に関していうと、2000年に中古で坪単価200万円で買ったマンション(1999年完成、都心)を
坪単価187万円で売ることになった。ローンは2007年に完済しているから、3000万円ほど現金ができる。 (坪単価とは価格を専有面積(坪)で割ったもの。)
 
普通預金に積み上げていても運用にならないので、「良さげな投資物件があれば現金で買いますよ」と3社ほどに声をかけておいた。もちろん売った物件以上のリターンが期待できるものでなければ買う意味はない。
 
1か月ほど物色していたら、良さげなものが出てきた。築5年、坪単価201万円だ。単利のネット利回り(管理費・修繕積立金、資産管理手数料差し引き後)6.0%だ。 買うことにした。まだ契約までは至っていないが、これが買えればうまい具合に「高く売って、安く買う」の資産入れ替え大成功だ。
 
「おいおい、ちょっと待てよ。売った価格は坪単価187万円、買う価格は同201万円、これのどこが高く売って、安く買うだ? 逆になっているじゃないか?」
 
そう思われた方は、不動産、マンション投資のイロハがわかっていない。私が近著「稼ぐ経済学」で、あるいは2008年の「資産運用のセオリー」の中で強調して説明している「資産価値は収益還元法
(discount cash flow)で計算しなさい」を知らない、あるいは理解できていない方だ。
 
価格は収益還元法で現在価値を求めて算出する。投資のリターンはIRR(内部収益率)で計算する。
エクセルで簡単に計算できるし、私のホームページにもすぐ使える計算フォームを張り付けてあるのだが、これを実践している個人投資家は稀だ。
 
私の売った物件のIRR(内部収益率)は現行家賃をベースにすると4.0%だ(ネット家賃利回りを価格で割った単利では5.4%)。一方、これから買おうとしている物件のIRRはやはり現行家賃をベースにすると5.4%(同単利では6.0%)になる。 これが「高く売って、安く買う」の意味だ。 ちなみに現行家賃は市況比いずれも平均的な水準である。
 
こう言ってもわからない方は、決してマンション投資に手を出してはいけない。まずは弊著「稼ぐ経済学」を読まれてからにした方が良いだろう。
 
discount cash flowの使い方がわからない方でも、「年間家賃/購入価格=表面利回り」で単利の利回りを計算している方は多い。 業者もそれをベースに薦めてくる。 ただし収益になる家賃から経費(管理費、修繕積立金、管理手数料、税金その他)を引いたNOI(net operating income)で計算すべきである。 税金部分が事前にわからない場合は、それ以外の経費だけでも差し引いてネット家賃利回りを計算しよう。
 
さらに多少投資に手を染めた方なら、築年数の経過とともに求めるべきNOIのリターンは引き上げるべきことを知っているはずだ。 しかし築年数の経過に合わせてどの程度上げるのが合理的だろうか?この点もやはり収益還元法とIRRを使えば計算できるが、これをきちんと考えてやってる個人投資家はやはり稀だ。
 
そこで築年数とNOIリターンの関係をひとつの目安として以下に例示しておこう。
試算の前提条件は以下の通り。
新築マンションの寿命: 48年(日本のコンクリート建物の法定耐用年数)
寿命到来時の価値: ゼロ(実際は建物の価値はゼロでも土地の価値が残るが、解体コストもかかるの  で相殺してゼロと想定)
専有面積: 50平米
ネット賃料: 月額15万円(実際は物価変動がなくても老朽化によって賃料は下がると考えるべきかもし
 れないが、ちゃんと補修され装備も更新されている都心部のマンション賃料は価格と異なり、築年数 
 が古くなってもあまり下がらないようなので、賃料不変の想定)
空室リスク: 考慮しない最大リターン
実現すべきIRR(内部収益率): 5.0%(一番需要な項目がこの水準設定)
 
以下の掲載図表は、図表の築年数に対応したNOIリターンで買えば、上記の想定の下に5.0%のIRRが実現できることを示している。
ただし築年数0、すなわち新築でNOIリターンが5.5%の物件なんて、特殊な事情の例外を除くとありえない。それは価格に新築プレミアムがのっているからだ。でも築10年で6.0%前後の物件ならチャンスはある。新築プレミアムが剥げ落ちているからだ。
 
また、これはあくまでも単純化した想定の下でのめど値であり、築15年以上は物件の補修やら装備の更新などのコストも増えてくるので、図表が示すNOIリターンよりもさらに0.5~1.0%程度高くした方が良いだろう。
 
今回のようにほぼ同時に(売買に時間がかかるマンション投資の場合、1か月程度の時間差はほぼ同時と言える)高く売って、安く買う入れ替えができるのは、ラッキーなケースだと思う。それに税金や仲介手数料もかかる(仲介手数料は概ね価格の3%)ので、最終投資家には株式のように短期の売買は無理だ。したがって、著作のなかで強調している通り、長期保有を前提に不況時に安く買って、好況時に高く売るのが基本方針だ。
 
関連ブログ:来たる東京ミニバブルへの合理的な選択とは?
 
 
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以前から気になっていることなのだが、なぜか目立った議論にならない問題を紹介しよう。
日本や米国、欧州主要国の公的年金は、世代間扶養、賦課方式とよばれ、積立方式とは区別されている。 
要するにその時の年金受取り世代の年金給付をその時の現役世代が負担する方式だ。反対に民間の年金システムはほとんど積立方式で、自分(自分達)が積み立てた年金積立金を引退すると取り崩して給付を受ける。
世代間扶養の賦課方式が、少子高齢化の結果、長期的に持続困難なるのは当然で、そういう指摘もはるか昔から繰り返されてきた。
 
ただし日本の公的年金制度は完全な賦課方式かというとそうではないようで、120兆円に及ぶ年金積立金が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)で運用されている。 GPIFはこの点をホームページで以下の様に説明している。
 
引用:「日本の公的年金制度(厚生年金保険及び国民年金)は、基本的には、サラリーマン、自営業者などの現役世代が保険料を支払い、その保険料で高齢者世代に年金を給付するという「世代間扶養」の仕組みとなっています。
つまり、現在働いている世代の人達が受け取る年金は、その子ども達の世代が負担することになります(自分が積み立てた保険料が将来年金として戻ってくる仕組みではありません。)」
 
「しかしながら、日本は、少子高齢化が急激に進んでいます。現在働いている世代の人達の保険料のみで年金を給付すると、将来世代の負担が大きくなってしまいます。そこで、保険料のうち年金の支払い等に充てられなかったものを年金積立金として積み立てています。
 
この積立金を市場で運用し、その運用収入を年金給付に活用することによって、将来世代の保険料負担が大きくならないようにしています。なお、年金積立金の運用にあたっては、「長期的な観点から安全かつ効率的に運用」することを心がけています。」
 
つまり現在の120兆円余りの年金積立金は、賦課方式制度の下での少子高齢化に対応するための一種の補完であるということになる。もっとも、それでも現行の積立残高は予想される少子高齢化による年金の負担と給付の世代間格差を相殺するには十分でなく、後世代ほど負担増・給付減にならざるを得ないことは繰り返し指摘されている通りだ。
 
現行の積立金では不足であることはともかく、積立金は本当に世代間の負担と給付格差の補完になるのだろうか? これが私の疑問だ。というのは以下のGPIFのサイトで示されている通り、積立金の60%は日本政府の国債で運用されているからだ。
 
これは日本に限ったことではなく、米国では公的年金としてのSocial Security Systemの余剰金はすべてそのために発行されている連邦政府債の購入に向けられている。
 
しかし、よく考えてみよう。自分個人や一企業の年金ならば現在の余剰金を国債に投じて積立て、将来取り崩す(国債を売る)ことは何の問題もない。 しかし一国の公的年金はそれでOKと考えるのは合成の誤謬ではなかろうか?
 
将来の国債の償還コストは誰が払うのか? それは将来の現役世代が税金で負担するしかないだろう。とすると・・・・積立金なしの完全な賦課方式で将来の引退世代の給付金を将来の現役世代が全部負担するのも、積立金を国債で運用してそれを将来の引退世代の給付金の支払いにあてるのも、将来の現役世代が負担するという点では同じではないか?! 違うのは将来の現役世代の負担の仕方が、年金の徴収の形をとるか、国債償還のための増税の形をとるかというだけだ。
 
従って国債で運用されている積立金部分は、世代間格差の補完としては何の役にもたたないのだ。そう結論するのが論理的ではなかろうか。つまり金庫は空(カラ)ということだ。
 
このような問題が生じるのは、政府の国債には何の資産サイドの裏付けもないからだ。ここで言っているのは赤字国債のことであるが、企業の株式や社債と異なって、政府の赤字国債には付加価値を生み出す何の資産サイドの見合いもない。返済原資は将来の現役世代の納税(増税)だけだ。
 
この問題を回避する方法もある。年金積立金の運用を内外の民間企業の株式、社債、並びに外国の政府債に限定することだ。 民間企業の社債、株式ならば付加価値を生み出す資産の見合いがある。外国政府の債券ならば、その将来の返済原資は将来の外国の納税者のおさめる税金だ。
したがって、こうした運用ならば金庫はカラではない。
 
しかし、この問題は表立って議論されることなく、財政学者なども正面から取り上げていないように思うのだが・・・・それを言ったら年金制度のへの信頼を含め、これまで積み立てて来たものが全て崩壊するからだろうか? しかし崩壊して消し飛ぶのは積立金という幻想に過ぎない。
幻想にすがるよりも、はやく目を覚ました方が良いのではないか。
 
関連ブログ:「低成長と財政赤字の関係」
 
参考に以下のJCERの愛宕さんの短いコラムもつけておこうか。
私は世代間会計に基づいた論文などを読んで知っていたことなので、今さら驚かないが、
まじに考えるほど「戦慄すべき事実」である。
 
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筆者はグローバルな金融・資本市場のリスク度を表す指数として「世界市場変動リスク指数」(IIMA Global Market Volatility Index:略称IIMA-GMVI)を考案し、国際通貨研究所と共同で同研究所のホームページにて週次(毎月曜日公表)で公表することにした。
 
この指数は、世界の主要国の株式市場、債券市場、外国為替市場の日々の相場の動き(日次変化率)に基づいて世界の金融・資本市場の相場変動率のヒストリカル・ボラティリティ(historical volatility)を算出、合成し、(1)短期・中期の相場動向の解析、(2)投資リスクの判断材料、(3)市場の平時から危機への移行判断に役立つ客観的な指標を提供することを目的にしている。
 
例えるならば、人間の心身のストレス度は脈拍や血圧の変化に表れるように、世界の金融・資本市場のストレス度は市場相場の安定・不安定度(変動性の高低)で計測できるという考えに基づくものである。
 
詳細は同研究所ホームページ掲載のレポート、ならびに図とデータをご覧頂きたいが、ここにはIIMA-GMVIの推移グラフを掲載した。アジア通貨危機(1997-98)やリーマンショック(2008)など大小の危機イベントの発生に合わせて、同指数の値が跳ね上がっているのがわかるだろう。
 
IIMA-GMVIの長期的な平均値は3.0になるように設定されており、90年代後半以降の経験に基づく限り、概括的に次のように局面分類ができる。
 
IIMA-GMVIが、
3.0以下 :ブルーレンジ、世界金融・資本市場の安定局面
一般に投資家のリスクオンの姿勢が強まる楽観局面
 
3.0~4.0:イエローレンジ、小波乱局面
一般に投資家のリスクオンからリスクオフへの転換が起こる局面
 
4.0~5.0:オレンジレンジ、中波乱局面
地域的な金融・通貨危機起こる可能性が高まる局面
 
5.0以上 :レッドレンジ、大波乱局面
グローバルな伝染性をもった金融・通貨危機が起こる局面
 
9月27日現在の値は2.99であり、長期平均値とほぼ同じであるが、米国連邦政府の財政問題をめぐる一部政府機関の停止、連邦政府債務上限の引き上げに関する議会交渉の難航などが先行きの不透明感を増しており、同指数の変化が注目される。
 
今後、同指数を利用した各種の市場変動に関する研究、投資判断への実践的な応用例を同研究所のサイトで発表して行く予定である。
 
IIMA-GMVIに関するロイター社サイトでの論考(10月17日掲載)↓
 
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