たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2013年11月

さて、慌ただしく11月も終わり、明日から師走月ですね。
今年1年間の私の相場コメントをレビューして来年への方針を考えます。
 
1、日本株
言うまでもなく2009年以来の水面下(評価損)でのナンピン買いがついに報われた急浮上の1年でした。私の年初1月の予想は以下のロイターコラムの通りでした。
 
引用:「今年の世界経済が再び景気後退に逆戻りするようなことがない限り、日本株の上昇余地は大きい。目先1―2年では東証株価指数(TOPIX)で1100(1月11日終値898)、日経平均で1万3000円台(1月11日終値1万0801円)、中期的にはその水準からさらに10―20%程度の上昇余地があるだろう。」
 
日経平均1万3500円をベースに10~20%は、14,850円~16,200円ですから、まずまずの予想でしたね。もっとも私が「中期的」と言う場合は1年~3年程度の期間を想定しているので、今年の5月に1万5000円台まで一気に急騰した日本株は、テンポ速過ぎでしたね。 こんな短期の変化は事前に予想可能な範囲ではありません。
 
またその後6月にかけての高値から約20%の反落を経て、企業収益の回復を背景に再度1万5000円台まで上がって来たことは、5月と違って違和感はありません。
 
ただし目先のリスクは軒並みヘッジファンドが、日本株、円売りで持高を膨らましているという情報です。メディアでも報道されているし、金融機関の市場部門の方々からも同じことを耳にします。
この点は後述します。
 
2、円相場
まず以下の5月22日付ロイターコラムで、100円越えのドル円相場が実質相場指数で見て、「ドル高・円安のラフ」への突っ込みであることを指摘して、「ここから先のドル高はハイリスク・ローリターン」と指摘しました。
引用:「行き過ぎるのも相場なので、目先105―110円の円安・ドル高もあるかもしれないが、長期的にはこの水準からのドル投資は「降雨確率80%」にもかかわらず傘を持たずに外出するのと同じだ。」
 
他のマーケット・エコノミストやストラテジストが中期の予想を軒並み110円とか120円とかドル高円安に変更する中で、この予想は光りましたね(^。^)
 
実際、6月にドル円相場は93円台までのドル反落でした。もっともこの時も、こんな短期の変動は事前に予想不能、私は相場の行き過ぎを指摘しただけです。でも、行き過ぎ相場の後追いをしなければ、短期的な反落で大きく損失するリスクも回避できる。これが肝心でしょう。
 
そしてドル相場が高値103円台から大きく下落した6月の局面で次の論考をロイターに出しました。
(6月20日「米国経済は尻上がりに改善、ドル再び100円台も」)
引用:「おそらく来年にかけて米国経済は尻上がりに良くなる。もしも米国経済が今年失速すれば、世界経済全体に再び暗雲がたれ込むことになる。そのようなリスクはゼロではないが、杞憂に終わる公算が高い。
・・・・ドル円相場について言えば、前回のコラム「この先のドル買いはハイリスク・ローリターン」で警鐘を鳴らしたが・・・・今年の後半には再度100円前後の円安・ドル高のチャンスがあるかもしれない
 
6月以降のドル円相場はいったん101円台まで7月に上がりましたが、その後は90円台後半での膠着でした。そして11月に入って来年の米国景気見通しが強気になるに従って100円台に乗って来ました。従って、この6月の予想もほぼ的確だったと言って良いかな。
 
ただしひとつ外したかもしれません。「今年の米国実質GDPは2%を超える」と上記のコラムで書いていますが、どうやら(まだ第4半期が出ていません)通年で1%台後半の水準になりそうです。
 
3、REITと不動産
2月のロイターコラム「REITバブル再来の可能性」で次のように指摘しました。
引用:「投資家にとって気になるのは、目先どこまで割高方向に上昇するかだ。むろん、そんな予測は、地震の予知以上に原理的に困難である。それに、REIT価格のミニバブル的な高騰とその後の崩壊を経験した日本の投資家だけならば、投資家層の記憶力と学習能力がよほど貧困でないかぎり、07年のような割高水準までの高騰は期待しない方が良いだろうと筆者は考えていた。
 
ところが、この点で注目すべき変化が起こっているかもしれない。アジアでの新興REIT投資家層の登場だ。アジアではシンガポールのREIT指数であるSTREIT指数が12 年に45%(米ドルベース)上昇し、香港のハンセンREIT指数も36%上昇するなど、REIT市場の活況が日本より一足先に起こっている。
REIT市場は株や債券市場に比べれば狭隘(きょうあい)な市場だ。中国を含むアジアの新興投資家のマネーが日本でもREITの新たな買手に加われば(すでに流入しているのかもしれない)、「のど元過ぎれば熱さを忘れる」の例え通り、日本のREIT市場が再びミニバブル的な高騰を起こす可能性が高くなるだろう。割安圏でREITを購入できた投資家には、楽しみな局面となってきた。」
 
さらにREITの高騰が顕著になった4月に(高値は5月)に、やはりロイターコラムで以下のように書きました。「REIT高騰に続くか、マンション投資の鉄則
 
引用:「 前回のコラムで日本の不動産投資信託(REIT)市場が再びミニバブル的な高騰を起こす可能性を指摘したが、まさにその通りの展開になってきた。
3月以降のREIT相場は賃料収入との比較、予定配当利回り、あるいはP/NAV指標(投資口価格/1口当たりの純資産額)など、いずれの指標でみても、ますます割高になっており、その割高度は2007年の前回ピーク時に匹敵するか、それ以上だ。
 
一方で、個別の商業ビルやマンションなどの現物の不動産物件の価格は、統計データで見る限り昨年の水準と比較して今のところ目立った上昇は示していない。たとえば、東京都区部の中古マンション価格指数(IPD・リクルート住宅価格指数)は12年12月時点で底を打ったものの、13年2月時点では底値から0.2%の上昇にとどまっている。
 
実体経済の景気回復が持続する限り、今後数カ月のうちに現物不動産価格の上昇がデータでも明瞭に確認できるものになるだろう。結論として、今の局面で合理的な投資選択は、すでに著しく割高になったREITから、まだ相対的に割安に放置されている個別不動産物件にシフトすることだろう。」
 
実際にREIT相場は5月が高値になりましたね。現在もその時の高値を更新できていません。
 
一方、春時点ではまだ目立って上昇していなかった東京の現物不動産は、中古マンションで見ると東京都心5区の平均平米単価は今年8月-10月では前年同期比11%の上昇です(^。^)
私のポートフォリオの比重では、やはりマンションが一番大きいので、これが一番嬉しいですね。
 
以上、レビューすると、私の今年の投資予想コメントは、株、円相場、不動産の3面で「神的」な的中率でした(自画自賛にて失礼)。 もちろん、私は「卓上エコノミスト」ではありませんので、自分自身のポートフォリオも上記判断に従って操作しています。
 
私の場合、短期的な収益マグニチュードではドル円や株の変化が大きいですが、中期長期的には一番大きいのはやはり、REIT&不動産(マンション)です。
 
4、現下の相場動向「ヘッジファンド相場」との付き合い方
現在の円安&日本株上昇相場の特徴はひと言で言うと「ヘッジファンド相場」だということです。連中は様々な手口でやっていますが、時々「美人投票」の意見が一致する時があるんですね。
 
「おい、ここはひとつ『日本美人』で勝負してみようぜ、アベノミクスなんて言っているしさ」
「そうだな、『BRICS美人』はもう当分見込み薄だし、『ゴールド美人』も凋落やしな・・・」
「てなこと言っていたら、東京オリンピックなんて風まで吹き出したぞ」
「俺も乗るわ。今期は儲けイマイチなんで、クリスマス前でも稼がないと、とびそうだしね」
 
まあ、こんな雰囲気じゃないでしょうか。報道記事をひとつだけ引用すると
日経新聞記事11月26日
「25日の市場ではこんな声が聞かれた。「今年まだ稼げていないヘッジファンドが日本株買い・円売りを中心に仕掛けている」。緩和マネーが米欧の株式相場を下支えするという安心感がある。」
「「株高をけん引してきたのは海外ヘッジファンドなど短期筋の円売り・株買い」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の芳賀沼千里チーフストラテジスト)とされる。一方で、相場の短期的な過熱を警戒する声も増えている。」
 
ヘッジファンド相場は、1990年代に銀行で通貨オプションのチーフディーラーだった時から幾度か大きな波を経験してきました。
 
例えば1995年の1ドル80円からの円安・ドル高を起こした主因(すくなくともそのひとつ)はヘッジファンドの円売りキャリートレードの流行でした。97年前半までは円安・日本株高のトレンドでしたが、タイバーツの相場急落、タイ中銀介入ギブアップで始まったアジア通貨危機(97年7月)以降は、円安・日本株売りに転換して行きましたね。
そして98年秋にLTCMの事実上の破綻と円相場急騰・ドル急落の超大荒れ相場で終わりました。
 
最近では、09年の危機底打ちから10年までの新興国急回復相場もヘッジファンドの動きによるところが大きかったと思います。やはり10年に新興国の株も通貨相場も下落して終わりました。
 
今年の5月の日本株反落(高値から約20%)、円相場急騰・ドル急反落(ドル高値から約10円)もやはり、連中のポジション巻き戻しが大きかったと思います。
 
連中は基本的には数カ月から1年程度のサイクルで利食い、あるいは手仕舞を入れてきますので、いつまでもトレンドに乗っていると最後に手痛く振り落とされます。過熱感が出てきたら(その判断が微妙ですが)、売り上がって利益を現金化しておくことが肝心です。
 
もちろん、高値のタイミング、その水準なんて合理的な予想はできないでしょう。
むしろ自分の「欲望とリスク耐久度」で判断した方が良いでしょう。
 
ちなみに、私はドル建て金融資産の為替ヘッジ率(ドル建て金融に対するFXによるドル売り持高の比率)を今回の100円越えで55%まで上げました。また日本株は、今回の1万5000円台で更に売って、昨年暮れに持っていた日本株投資残高の約半分を現金化しました。
 
ドルも日本株もまだ上がれば分割して売り上がります。まあ、現状ではこの程度のヘッジ率、あるいは現金化率を持っていれば、5月のような反落局面があっても、また反落をテイクチャンスした買いをする余裕が持てるという判断によるものです。
 
直感的には来年春頃までに目立った反落場面がある気がします(合理的な根拠はないです)。どのくらいの深さになるかは、これもわかりませんが、直近高値から10%~15%でしょうかねえ(?_?)
 
追記:
私は短期の予想はしません。
そんな猫の目のように変わるもの、わかりませんからね。
その代わり、中長期の視点で「割安・割高」という判断を基調にしています。

従って、その正否は中長期の時間を経てからでないと判定できないのですが、
今年は割安・割高の判断が短期的なタイムスパンで実現してしまった。

その結果、短期的にも予想が的中した様に見える結果となった。
これが自己点検レビューの本当のところです。
 
追記:本日12月2日の日経新聞記事
「「ヘッジファンドで最初に動いたのは(先物投資中心の)CTA (商品投資顧問)。次いでグローバルマクロなどが追随した」。BNPパリバ証券の丸山俊チーフ・ストラテジストはそう話す。「米緩和策が長期化しても、米国の景気が堅調ならば円高にはならない」という理屈で、高値更新を続ける米国株に比べて出遅れていた日本株を買い、割高だった円を売るポジションを一気に積み上げたという」
 
金融緩和の長期化⇔米国景気の堅調、どう考えても中長期に併存が持続する関係じゃないだろ。
どうも短期的な薄気味悪さがただよう。 日本株もドルも、もう少し売っておこうかな。
 
追記:12月4日 WSJ(日本語版、12月3日付)
引用:「現在の米国株市場では、弱気のポジションを取っていると認める主要投資家などほとんど見られない。実際、各種の調査によると、投資顧問や個人投資家の間で、強気筋に対する弱気筋の割合がここまで低くなったことはほとんどなかった。
これは昔からよくある逆張り投資のシグナルだ。
 
追記:Can the U.S. Economy Recover Without Asset Bubbles?
 

週末のWSJ記事
高値更新を続ける米国株式、先週末の雇用統計が良かったので再び先行きの景気への強気の見通しが強まっている。私も米国の実体経済は来年は今年よりさらに上向くと思っている。
しかし株価はそういう事態を既に相場に織り込んで上がってきた。
この記事が示唆する投資方針に私は賛成だ。
 
「相場が上がり続ける限り、キャピタルゲインを追いたい」「全額高値圏で売り抜けたい」 
そもそもそういう様に欲の皮を突っ張らせるから、チキンレースに巻き込まれて、いつかまた来る急落・暴落局面でパニックになったり、茫然自失となるんだよな。

実際、私の米国株の持高(S&P500連動ファンド)も核になる長期保有分(約6割)を残して、4割は売ってキャッシュにしている。

quote:“The stock market is near record highs. More money came into U.S. stock mutual funds
the week of Oct. 23 than during any other week since 2007. Initial public offerings like Twitter
TWTR -7.24% are booming.

So have you considered keeping more of your assets in cash?
At first, the question sounds crazy.

But cash doesn’t earn its keep on yield alone. All investors should realize that cash can be
priceless, even when its yield after inflation is negative. Cash “is an option on the future,”・・・・
Having a cushion of cash can help you stay invested when stocks tumble — as they surely will
sooner or later. And a cushion can enable you to do what cash-poor investors find almost
impossible: Buy stocks and other assets as bear markets turn them into bargains.”
***
 
追記:11月15日米株、世界的な株高を巻き込みながら高値更新
ヘッジ ファンド連中が再度株買いで動き出しているようだから、まだ上がって行きそうな雰囲気ではありますが、以前から紹介しているShiller PER Ratioは25を超えて上がって来た点、留意しておきましょう。
 
追記:WSJ Nov.23
 
追記:日経新聞11月26日
「25日の市場ではこんな声が聞かれた。「今年まだ稼げていないヘッジファンドが日本株買い・円売りを中心に仕掛けている」。緩和マネーが米欧の株式相場を下支えするという安心感がある。」(^_^;)
 
「「株高をけん引してきたのは海外ヘッジファンドなど短期筋の円売り・株買い」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の芳賀沼千里チーフストラテジスト)とされる。一方で、相場の短期的な過熱を警戒する声も増えている。」
 
追記:11月26日夜 今ちょっと忙しいので、週末にでも改めて書きますが、円安日本株高も含めて今の相場は「ヘッジファンド相場」です。したがって、高値圏でしっかりと売り抜くことが大切。来年の春までに今年の5月過ぎの様な短期的な反落調整局面(ドル円相場も株も)がある可能性が高いと思います。
「どこが高値圏か?」 それぞれにご判断ください。
***
 
http://bylines.news.yahoo.co.jp/takenakamasaharu/  Yahooニュース個人
 

Yahooニュース(個人)に以下掲載しました。
 
アベノミクスと日銀黒田総裁の大胆な量的金融緩和を背景に株価は上昇、円高は修正され、企業収益は大きく改善している。実体経済も穏やかな回復基調にある。しかし量的金融緩和だけではそれがいかに規模的に巨大でも、デフレ脱却、マイルドインフレ達成(消費者物価指数が消費税引上げによる分を除いて対前年比で2%になること)は実現困難であろう。その実証的な根拠を以下に説明しよう。
 
現在日銀は毎月平均約7兆円もの国債を購入することで、マネタリーベースを急増させている。マネタリーベースとは銀行が日銀に置いている当座預金と日銀券の発行残高の合計である。民間銀行からの国債購入で日銀が直接増やせるのは、この銀行が日銀においている当座預金残高だけだ。
 
一方、通貨供給量(マネーストック)とは企業や個人が銀行に置いている流動性預金と日銀券発行残高の合計である。したがって、商品の供給量が一定である場合に、通貨供給量を増やせば物価の上昇が起こるはずだ(マネーの回転速度一定の想定)という単純な貨幣数量説を前提にしても、日銀による銀行からの国債購入だけではそもそも通貨供給量の増加は起こらない。
 
日銀の量的金融緩和が通貨供給量の増加につながるためには、銀行貸出が増加してそれに伴って預金残高が増えるか、あるいは銀行が非銀行部門(個人や企業など)から国債を買うことで売り手の預金残高が増えるか、このいずれかが起こることが必要である。
 
さらに、実際にマネタリーベース、あるいは通貨供給量の変化(対前年同期比)と消費者物価指数(除く食品とエネルギー、以下同様)(対前年同期比)の相関関係を見ると、実はほとんど相関関係が確認できない。 90年代以降、日本では両者の関係(マネタリーな要因に対する消費者物価の感応度が著しく低下していること)は、既存の研究論文で確認されている事実である。
 
では、90年代以降の消費者物価指数の変化と関係性の高い要因は何か? 筆者が検証する限り、(1)GDPギャップ、(2)現金給与総額の変化である。図表は、消費者物価指数(対前年同期比)(被説明変数)を(1)GDPギャップ、(2)現金給与総額の2つの変数で回帰分析した結果とその推計値である(データは四半期ベース)。
 
補注:GDPギャップ=(実際のGDP-潜在GDP)/(潜在GDP)
潜在GDPは完全雇用下で実現できるGDPの水準であり、GDPギャップがマイナス値である場合は、マクロ的な需要不足・供給力超過、  プラスの値である場合は、需要超過・供給力不足を意味する。日本では90年代以降GDPギャップがマイナスとなる傾向が強くみられ   る。 GDPギャップの推計値は1991~2006年についてはOECD、2007年以降は内閣府の開示しているものを使用した。
 
回帰結果は有意であり(変数間の関係が偶然ではないことを意味する)、説明度を示す決定係数は0.56とかなり高い。これは消費者物価指数の変化の56%はGDPギャップと現金給与総額の変化で説明できることを意味する。
 
また、得られた回帰式(推計式)で将来予想をすると、消費者物価指数が(消費税引上げ効果を除いたベースで)2015年第1四半期までに対前年比で2%に達するためには、例えばGDPギャップはプラス2%、現金給与総額は前年同期比で2%の伸びを実現する必要がある。これは90年代初頭の水準であり、かなり高いハードルである(もっとも回帰結果による予想は確率的な振れ幅を伴う点に注意)。
 
以上の事実に基づく限り、景気回復の持続とデフレ脱却(マイルドインフレの達成)のためには、賃金増加→消費増加→GDPギャップの改善(マイナスからプラスへの変化)という連鎖が働くことが不可欠だと言えるだろう。ちなみに現在のGDPギャップは-1.5%(2013年第2四半期、内閣府)、現金給与総額は対前年同期比+0.1%(2013年第2四半期)である。
 
それではマネタリーベースの増加には直接的に物価を押上げる効果が全く見られないにもかかわらず、アベノミクスと日銀黒田総裁の大胆な量的緩和が機能しているように見えるのはなぜだろうか? 「幻想におどらされているだけだ。今に幻滅するぞ」と主張される方々もいるが、筆者はそうは考えていない。
 
アベノミクスと黒田総裁の大胆な量的緩和は、そのタイミングと規模的な大胆さによって、それまで「デフレ、円高、株安予想」に傾斜していた市場参加者の将来期待を「もしかしたらインフレ、円安、株高」に転換することに成功したのだ。これが「最初の一撃」となって、市場参加者のポジションが円買いから円売り、日本株買いに転換したことで、期待の自己実現的な円安、株価回復が起こったと言えるだろう。
 
そしてその相場の変化が、企業収益の回復(←円安)、消費回復(←株価回復による正の資産効果)を起こし、実体経済の穏やかな回復を後押ししているのだろう。ただし繰り返しになるが、この変化が持続的なものになるためには、賃金増加→消費増加→GDPギャップの改善(マイナスからプラスへの変化)という連鎖が働くことが不可欠だ。
 
企業利益の大幅な改善と安倍内閣から財界に対する異例の賃上げ要請などを背景に、ようやく賃上げを前向きに検討する企業が出始めてるようであるが、それが来年にかけてトレンドになるかどうかに、景気回復の持続性とデフレ脱却の成否がかかっていると言えよう。
 
さあ、利益の回復した企業経営者のみなさん、「また悪くなるかもしれない」などといつまでもビビッておらずに、ど~んと賃金アップに動きましょう! 長年苦しめられたデフレは、正にそのことによって、その時にこそ、終焉するのですから。
 
追記:11月10日日経新聞、「賃金増に3つの関門」
 
追記:11月11日 伊藤元重 ダイヤモンドオンライン
「「賃金上昇」→「デフレ脱却」という好循環を実現できる政策とは?」
私の論考とあまりにも趣旨とタイミングが一致しているので、「一瞬パクられた?」と思いましたが(^_^;)
決してそんなことはないはずです。
むしろ「まともな経済学者・エコノミストにとっては共有できる正論」ということでしょう(^^)v
 
引用:「持続的な物価上昇が実現するためには、賃金の上昇がカギとなる。賃金が上昇していくことで、それが物価にも反映され、そして物価が上昇していくことがまた賃金上昇へつながる――そうした連鎖が生まれて、初めてデフレからの完全な脱却が可能となるのだ。
残念ながら、まだ賃金には十分な上昇圧力が働いていない。長年厳しい経営を続けてきた企業にとって、安易に賃金を引き上げる気持ちにはなりにくいのかもしれない。
だからこそ、政府も躍起になって賃金を引き上げる環境をつくろうとしている。政労使で協議の場を設け、賃金上昇こそが日本をデフレから脱却させるためのカギとなると訴えるのは、納得のいく政策である。」
 
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イメージ 1
 

前々回に話題にした確率的な判断の続きをしよう。
 
病気の検査で「陽性」と出た場合に実際に病気である確率(X)は次の式で示されることを話した。
罹患(病気)比率:a
検査の精度:b
とすると、X=ab/(1-(a+b)+2ab)となる。
 
ここでのポイントは、非常に確率的に低い事象(ここでは病気)を発見するためには、その低い確率に見合って検査の精度が上昇しないと誤差が拡大する、つまり「陽性と出た人数のうち、実際に罹患している人の比率(X)」が急激に低下するということを意味している。
 
この含意は大切だ。一般化して言うと、ある事象の判断の可否(ここでは病気発症の有無)は、判断の精度自体(b)とその事象の発生頻度(a)の双方に依存していることになる。

例えば数十年から数百年に1回か起こらないような稀な現象、大地震、大津波、大洪水などのような自然現象から、原発の大事故や市場での大きなバブル崩壊と金融危機のような人間活動による現象まで、仮にこうした事象の予測がある程度可能だと仮定しても、これらのような頻度的に稀なケースは極めて高い判断精度がないと実際に役立つような確率での予測、予知は不可能だということを意味する。

これを別の例で考えてみよう。エコノミストの景気予想能力についてはかなり懐疑的な議論がある。とりわけ景気の転換局面では判断が分かれ、大雑把に言って景気強気派と弱気派に半々程度にわかれる。言い換えると半分程度のエコノミストは判断を誤るわけだ。それでも仮に80%の精度で1年先の景気を正しく判断できるエコノミストがいたとしよう。
 
景気後退の兆候が少し出始め、先行きに関する見方が強気派と弱気派で分かれた局面で、1年先の事態が20回に1回の様な大景気後退になるかどうかを問うたとしてこのエコノミストは、「イエス」と答えたとしよう。このエコノミストの判断はどの程度信頼できるだろうか。
 
予想する対象は20年に1回の大景気後退であるから、頻度確率は5%だ。エコノミストの判断精度は80%だから、上記と同じ計算で彼の大不況予測が当る確率は17.4%に過ぎない。つまり6回中約5回は外れるのだ。
 
英国のエリザベス女王はリーマンショックの金融危機が起こった後で、「なぜ経済学者らはこのような事態を予見できなかったのですか?」と問うたというが、経済学の精度では何十年に一度というような稀な景気後退や金融危機を予見することは原理的に不可能なのですと女王様にお答えするのが正しかったのではなかろうか。
 
実際の予測には、さらにもうひとつの困難がある。 上記の計算は問題となる事象の頻度がわかっていることが前提となっているが、大地震や大不況のような稀な現象は、それが稀である故にサンプル数が少ない。そのためにその発生頻度を十分な確からしさで計測することができない場合がほとんどである。
 
病気の例にもどって言うと、数十万ケースのサンプル数があってはじめて、「この病気は10,000人にひとりである」と確からしさをもって言えるわけだ。サンプル数が100しかない場合には、たまたまその中に1名の罹患者が発見されたからと言って、病気の発生確率を1%ということはできない。
 
ヒックス粒子を発見する実験でも、極めて稀な現象の観測が行なわれたわけだが、実験は極めて高い精度が要求されたと同時に、実験は非常に多数の回数を繰り返すことで、検証を確かなものにするという手続きが厳密に行なわれたはずだ。
 
ところが経済現象では実験を繰り返すことはできないし、過去の類似の現象(例えば不況や金融危機)の観測回数も限られている。自然科学でも大地震や大津波のようなマクロ現象は実験することができない。 その結果、判断の正否の確率を特定するために必要な事象の発生頻度自体を特定することが困難であるという問題にぶちあたるわけだ。
 
だから、景気の先行き判断についても、景気の転換点をあまり遅れずに判断する程度のことは期待しても良いだろうが、景気後退や回復の兆候が出た時にそれが最終的に稀な大不況になるか、あるいは大好況になるかについて十分に信頼できる予想など不可能と思った方が良いだろう。
 
それにもかかわらず、「かつてない大不況になる」とか「大好況になる」とか超大胆な予想を述べる方がいれば、まあ、はったりに過ぎないと受けとめるのが妥当だろう。もちろん、10回はったりをかませば、1回ぐらいはあたるかもしれないし、10人はったりをかます人がいれば、1人ぐらいは当たる人もいるかもしれない。それもまた確率的に自然な結果ということだ。 
 
はったりの一例 ↓ (^_^;)
 
追記:
認知心理学の実験が示すところでは、人間は非常に稀な事象を過大評価したり、過少評価したりして、確率に応じた合理的な反応はできない。人間が直感的に概ね合理的な反応ができるのは、中程度の確率的事象だそうだ。参考図書としては例えば「ファスト&スロー」ダニエル・カーネマン著
 
なぜそうなのか? 以上のことからだいたいわかった気がする。人間の直感的な判断力(カーネマンの言うファスト思考)は長い進化の過程で自然淘汰で形成されてきた能力だ。日常を生き延びずに、稀な事態を生き延びる生き物はいない。 
 
人類が進化の過程で日常に遭遇してきた多くの事象頻度(天候の変化、食物の獲得や捕食動物の危険に関することなど)は中程度である(確率的に数パーセントから確実な100%まで)。そうした中程度の確率事象に対しては、「十中八、九こうなるだろう」という判断精度で、絶対ではないが確率的に安定的な判断ができる。進化の過程で身についた能力はそういうものだったのだろう。
 
反対に確率的に厳密な論理的分析的な思考方法(カーネマンのいうスロー思考)は、遡ってもせいぜい3000年~4000年、短く考えると過去100年程度の現代的な教育の産物でしかない。そして人間は多くの場合、現代でも通常は本能的にビルトインされている直感的なファスト思考で判断し、現代的な学習でしか習得できない集中力を必要とする分析的論理的思考は限定的にしか利用していないということなのだろう。 
 
http://bylines.news.yahoo.co.jp/takenakamasaharu/  Yahooニュース個人
 
 
 

 

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