まず、ちょっと小ずるい(?)今朝の日経新聞一面の記事
気付いている方は少なくないかもしれませんが、一般に賃上げ率(%)=定期昇給部分の変化(%)+ベースアップの変化(%)です。
気付いている方は少なくないかもしれませんが、一般に賃上げ率(%)=定期昇給部分の変化(%)+ベースアップの変化(%)です。
以下の記事、カッコで(賃金改善と定期昇給を反映した月例給与の上昇率)とことわりは入れていますが、賃金全体が前年度比で2.12%増えたような印象を与えますよね。
従業員の年齢構成が変わらない場合、定期昇給部分は賃金全体の変化はもたらしません。ベースアップ部分のみが賃金全体の変化を示します。
その内訳が記載されていませんが、ベースアップ部分はおそらく1.0%以下、定昇部分が1%台、合計で2.12%のはずです。
引用:「日本経済新聞社が27日まとめた2014年の賃金動向調査(1次集計、4月14日現在)で、主要企業の賃上げ率(賃金改善と定期昇給を反映した月例給与の上昇率)は2.12%と、15年ぶりに2%台を記録した。基本給を底上げするベースアップ(ベア)実施企業は半数近くに上った」
「日経新聞は事実を歪めて安倍内閣の御先棒を担いでいる」みたいな批判をする方々がいるから、こう点はきちんと書いておいた方が良いですよね。新聞社が特定の政策や政権の支持や不支持の方針を表明することは、私は悪いとは全然思っていないけど、「事実を歪めて」と言われたら報道機関としてのこけんに関わりますから。
ただし私はこの記事より、労働需給に関する経済面の記事が気になりました。失業率は原理的に景気循環的な要因による部分と需給のミスマッチによる構造的要因による部分に分けられます。
記事に引用された分析によると、既に景気循環的な要因による部分はほぼゼロ%で、現状の失業率3.6%はほとんど需給ミスマッチによる構造要因です。労働者不足は、建設、介護、流通が3大分野。
ミスマッチの解消は短期では起こらない。職業再訓練、雇用条件の改善など中長期的な時間がかかる過程が必要です。
つまり、現状の日本経済の成長速度は平均して1.0%前後でしょうから、なんと日本経済はわずか1%程度の経済成長率で(少なく元)短期的には完全雇用の壁にぶつかっていることになります。
この事実から短期と長期で2つの含意を引き出せると思います。
短期: 賃金は労働需給の引き締まりを反映して上昇する方向にある。
長期: 職業再訓練、労働参加率の引き上げ、労働不足分野(介護など)での賃金(規制)の見直し、産業構造の適応的変化を促進する規制改革、労働生産性の上昇など、長期的に時間のかかる諸施策(つまり成長戦略)が成功しないと経済成長率の趨勢的な引き上げはできない。
つまり需要不足局面から労働供給ボトルネック局面に日本経済は短期・長期の双方で局面シフトしているということでしょう。
ここから先、賃金増⇒消費需要増⇒設備投資増⇒生産増&生産性上昇⇒賃金増という好循環につながれば良いのですが。
以下2図はいずれも上記日経新聞に掲載されたものです。
追記(5月5日日経新聞記事):「日本企業の設備の老朽化が、人手不足と並ぶ「成長の天井」となるリスクが出てきた。設備の更新が遅れて供給能力が落ちているためだ。日本の製造業の設備の価値は5年で約6兆円分も目減りし、使用期間は16.4年と過去で最も長くなった。供給能力の低下は輸出伸び悩みの一因でもある。生産設備が需要に応えられなければ、成長機会を逃しかねない。
供給力も落ちている。製造業が自らの設備を使ってどのくらいモノを生産できるかを示す生産能力指数は、2月時点で前年同月比1.9%低下して28カ月連続でマイナスだ。リーマン危機後に低下に転じ、08年末の直近ピーク比では6%縮んだ。業種別でみると輸送機械が6%低下したほか、情報通信は24%、化学工業も2%それぞれ低下した。過剰設備は減ったが、円安でも輸出が伸びないのはこうした生産能力の低下が背景にある。」
この先、企業の国内設備投資が回復すれば、供給力を増加させながら上記の好循環を実現できるチャンスもあるということでしょう。
近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日
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