たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2014年09月

先日このブログで歴史学者、秦郁彦氏の「慰安婦と戦場の性」(新潮選書、1999年)をタイトルだけ紹介したが、ようやく同書を読み始めた。
 
440ページと分厚いが、わかりやすく、文献、資料の引用も実に丁寧で包括的だ。この本を読んでいれば、慰安婦問題に関する隣国政治家の妄言にも、日本の左翼運動家の扇動にも惑わされることもないだろう。
ちなみに秦氏の学歴、経歴は以下のwikiを参照、歴史学者として一流のアカデミズムの学歴、実績を有する方だ。
 
まだ前半の章を読んでいる段階だが、言論プラットフォーム、アゴラによくまとまっている書評を見つけたので、以下に紹介しておこう。 評者は石井孝明氏
 
引用(一部省略):本では軍と占領地の治安を担当した憲兵(軍警察部門)の詳細な記述が残されている。日本人が朝鮮から女性を狩り集めたという嘘の証言をした吉田清治が、それを嘘と認めた電話インタビューも掲載されている。

韓国の人々は「数十万人の朝鮮人女性が軍と警察によって拉致、もしくは挺身隊の名目で連れ去られ、戦地に連行され、売春婦にさせられた」と思い込んでいるらしい。日本でこの問題を90年代から騒ぐ人も、このような情報を吹聴した。
ところがこの本によれば、事実はまったく違う。
 
・太平洋戦争中、1万人から2万人の人が慰安婦として働いた。約半数が日本人で、2割程度が朝鮮人だった。
 
・慰安婦は二等兵(最下級の兵)の給料が月10円程度(戦地の加俸なし)のところ、月300円程度の収入があった例もある。
 
・軍や政府が、強制的に女性を集めた証拠はない。業者を前線近くで治安上保護し、また性病を避けるため衛生管理などをした例はある。
 
・女性が騙された例は多くあった。当時はいわゆる前借金を渡され返済するという形で事実上の人身売買が行われた。最初は親など肉親が娘を売る例が多いものの、女性に他の仕事がないために、そこから抜けられなくなることが多かった。
 
・女性が学校や職場などの単位でグループをつくり、工場などで強制的に働かされる女子挺身隊という制度があった。内地では半強制的に行われたが、朝鮮では大規模に実施されなかった。これと慰安婦との混同がある。

喜んで売春を仕事にする女性はほとんどいないだろう。しかも、それが騙されて行われた場合は大変気の毒だ。しかし一世紀近く経って、今の日本、そして私たちの世代が事実と異なる問題で責任を引き受ける必要はまったくない。

秦氏は、一部の活動家の事実に反した主張が、朝日新聞などの報道、そして左派系の政治勢力によって問題が拡大し、問題がこじれたことを中立的な視点で検証する。そして次のようにまとめた。

「(慰安婦問題は)少なくとも正義・人道を基調とする単純な動機から発したものではないようだ。おらくは内外の反体制運動体がかかえていた政治的課題にからむ、複合した思惑の産物であっただろう。それを誰よりも敏感に感じ取っていたのは、一人も名乗りをあげなかった日本人の元慰安婦たちだったと思われる。

だが一度火のついた政治キャンペーンを消火するほど、至難なことはない。煽られたマスコミやNGOは熱に浮かれたように興奮した。その熱気に押されて、日本政府は謝罪と反省を乱発した。」
***
 
ちなみに、私も対談や寄稿をしている雑誌「公研」の今年9月号で、秦氏の「歴史認識と歴史戦争、河野談話以後の日本とアジア」と題した講演録が掲載されている。その一部を引用しておこう。
 
引用:「慰安婦は、数から言えば日本人が一番多いのです。しかし日本のマスコミは、日本人の慰安婦には興味がないのですよ。私はまだ慰安所や慰安婦の実態がわからない頃に、新聞社の人に『あなた方は支局網があるのだから、探せばすぐに日本人の慰安婦がみつかる。そうすれば、いろいろなことがわかるはずだ』と言いました。しかし、『日本人ですかあ・・・・』という感じで新聞記者は全く興味や関心を示さなかった。  
 
結局、日本人の元慰安婦で名乗り出た人は一人もいませんでした。考えてみるとヘンな話なんですよ。日本人慰安婦は、一切論議の対象になっていない。」
***
 
なぜ社民党の元党首や朝日新聞などは、韓国まで元慰安婦を求めて出向いているのに、足元の日本の元慰安婦については関心も調査もしてこなかったんだろうか? もし左派の倫理観が本当に普遍的な人権尊重の立場に立脚するのであれば、自国の元慰安婦問題こそ一番に関心を向け、調査するのが自然だろう。
 
これは私の推測で、秦氏も同様の示唆をしているが、様々なケースがあったにせよ、慰安婦の実態は、隣国と日本の左翼の方々が喧伝した「性奴隷」という表現とはかなり乖離したものだったからだろう。これは秦氏の著作のなかで明らかにされている。
 
隣国では奇妙なナショナリズムの激高でエキセントリックに日本政府を弾劾し、賠償を求める元慰安婦の「発見」に一部マスコミは成功し、それを政府批判の政治的な材料に使うことができたわけだ。 ところが日本ではそうした元慰安婦に遭遇できず、政治的な攻撃の材料に使えない。政治的な攻撃に使えないどころか、自らが広めた「性奴隷」という表記とはかなり違う慰安婦の実態が明らかになってしまう。従って関心も向けなかった。そういうことではなかろうか。
 
また、慰安婦制度を有さず、その代わりに日本人、中国人、朝鮮人の見境なく侵攻地でレイプの限りを尽くしたソ連軍の問題は追及されるべきだし、日本の慰安婦の実態はドイツや英米軍の有様とも比較して論じられるべきだろう(秦氏の著作は第5章「諸外国に見る戦場の性」でそれやっている)。ところが日本の朝日新聞など左派メディアはそうした当然のことをほとんでやらず、関心も向けてこなかった。これも上記の事情を想定すれば、納得できることだ。
 
最後に蛇足だが、秦氏の講演録が掲載されている雑誌「公研」9月号、偶然ながら私も「予測の限界と適応戦略」と題したショートエッセイを掲載している。 同誌同号の掲載お隣の論者は、佐々木毅(東大名誉教授)と上田隆之氏(資源エネルギー庁長官)、アラララ、随分と立派な方々と並んでしまった(^_^;)
http://www.koken-seminar.jp/new.htm (←公研のサイト)
 
追記:ワシントンDC 古森さんの論考
 
 
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毎度のトムソン・ロイター社のコラムです。ただ今掲載されました。↓
 
本ブログのリピーターの皆様方には、これまでも書いてきたことですがね。今回はロイター社のコラムの最後の部分で、それまでの分析トーンからガラリと転換して、実践的トーンで書いてみました。
 
個人的なブログ上ではともかく、ウエッブにしろ紙媒体にしろ、大手のメディアでこういう書き方するエコノミスト、ストラテジストってほとんどいませんよね。 「かくかくしかじか、したがって上がる(下がる)」とは言うけど、「じゃあ、あなたはどうしているんですか?まさか銀行預金90%じゃないよね?」なんて感じる時もあります。 エコノミストみなさんの資産運用って、実態はどうなんだろう。
 
金融機関のアナリストなどはインサイダー情報管理・規制の観点から個別株の売買は一般に許されていないはずです。でも株価指数ETFなどならインサイダー情報上の問題はないはずだから、自分の予想に自信があれば、がんがんやったら良いと思うんだけどね。
 
もっとも、「自分でポジションを持つと、その当たり外れで心にバイアスは生じて、ポジション・トークをするなど認知上の歪みや曇りが生じる危険があるので、私はリスク・ポジションは持ちません」なんてポリシーの方もいるだろうな。 
 
でも、それは私が志向する「実践知」ではない。自分自身の実践に役立たない認識・分析なんて「知恵」の名に値しないでしょ。
 
引用:「高値更新を続ける米国株だが、量的金融緩和後に米連邦準備理事会(FRB)が金利引き上げに転じるタイミング、その後の金利上昇テンポをめぐる思惑で相場は揺れ動いてきた。
 
『これまでの株価上昇は長きにわたった超金融緩和によるバブルだ。超金融緩和の終了に伴い暴落必至』と語る株価ベア(弱気)な論者も少なくない。
 
そこで今回は金利と株価の関係について考えてみよう。結論から言うと、景気回復過程の金融緩和から利上げへの転換で株価が反落するのはよくあることだ。ただし、下落は一時的で中長期的にはむしろ買いの好機である。悲観論者の見通しは大幅に割り引いて聞いたほうが良いだろう。
 
(中略)
 
以上のような経済と株価の見通しに立った場合、長期投資としてどのようなポートフォリオ操作が望ましいだろうか。私自身はリーマンショック後に買った米国株式(S&P500連動ETF)は2013年前半のドル相場上昇を伴った上げ局面で利益を確定して手仕舞った。
 
現在まで維持している持高はやはりS&P500連動ETFだが、中核的持高として長年維持してきた部分だ。これは持値が低いので10%ぐらい株価指数が下がってもなんともないのだが、目立った反落局面があれば、そこは損失(評価損)をセーブしながら買い増したいというせこい思惑もある。そこでダウ平均が1万7000の大台に絡み始めた今年夏からダウ平均指数の先物売りを組み込んだETN(東証上場銘柄)を買って、現物株式の25%程度をヘッジすることにした。
 
来年にかけて直近高値から5―10%程度の反落場面があれば、このヘッジ持高を手仕舞い、ヘッジ益を稼ぐつもりだ。もし幸運にもブラックマンデーのように30%も下落するような大暴落に遭遇したら、その時は手持ちのキャッシュをぶち込んで盛大になんぴんしようか」
***
 
http://bylines.news.yahoo.co.jp/takenakamasaharu/  Yahooニュース個人
↑New!YouTube(ダイビング動画)(^^)v
 
 
 
 

安倍内閣が「地方創生」の施策を強調し始めたが、これまでの旧い自民党が繰り返してきた施策とどれほど質的に違うことができるのか、危惧の念をもって見ている。
 
結局、過去の自民党の施策は、地方への公共事業を含む各種のバラマキ系施策で終わり、根本的な改革につながって来なかった。
 
1970年代の田中角栄による地方への公共事業バラマキ政策に始まり、最たるものはやはり1987年のいわゆる「リゾート法」と呼ばれる「総合保養地域整備法」だろう。 地方自治体は地域振興を掲げてリゾート・ブームに踊ったが、結局、不動産・建設バブルを地方に拡散しただけだ。90年代に入ってから、第3セクター方式でつくられたこうした各種の事業が赤字を抱えて立ちいかなくなったことは、みなさんご承知のことだ。
 
90年代以降、景気がちょっと回復過程に入ると必ず出回る言説が、「好調なのは東京など都市部だけだ。地方は景気回復から取り残され、地域格差が拡大している」というものだ。 そうした流れの中で、政治家は次の選挙のことを意識しながら、「地方再生」「地域振興」のためのバラマキ施策に走るという構図の繰り返し。
 
そういう風潮に一石を投じようと、2007年に日経ビジネスオンラインに以下のような論考を寄稿したら、「大炎上」だった(^_^;)
 
地域間格差拡大論のウソ
格差縮小をマクロ指標はなぜ無視されるのか?
 
今日の日経新聞にも気になる記事が出ている。
消費の格差鮮明 
都市復調、賃金増え高額品堅調 地方低迷、ガソリン高が足引っ張る
  9月23日朝刊
引用:「
消費増税後の個人消費を巡り、復調する都市と低迷する地方の格差が鮮明になってきた。22日発表の食品スーパーの8月の販売統計では、首都圏を含む関東が4%超伸びた一方、中国・四国や近畿は減少が続いた。大都市部では高額品も売れ始めた。ボーナス増などが消費増につながる都市部と、ガソリン高が家計を圧迫する地方の違いが、消費の二極化を引き起こしている。」
***
本記事のデータは以下のサイトで見ることができる。
 
引用されているスーパー販売動向自体は事実なんだが、この記事を見て「やはり地方は景気回復から取り残されている」と単純に結論しないで欲しいね。 他の事も同じだけど、経済というのは多面的な実態だから、たったひとつのデータで結論できるものじゃない。逆にいうと、例えばゾウのしっぽをつかんで「ほらみろ、ゾウというのは蛇のように細い動物なんだ」なんていう主張が簡単にできてしまうんだ。
 
別の面として雇用データを見てみよう。掲載図上段は地域ごとの有効求人倍率とその前年同期比の変化だ。 上記のスーパー販売販売統計では中国・四国地方の不振、関東の好調が強調されているが、有効求人倍率とその変化を見ると、中国・四国は関東圏とそん色がないか、あるいは若干上回っている。
 
下段の図は都道府県別の失業率だ。失業率を低い順に並べて、東京は全国平均よりも少し高いが、順位ではほぼ中位の水準でしかない。中国地方の県は東京より失業率が低い。また大阪や京都など大都市をかかえる府県でも全国平均より失業率は高い。
 
所得については都道府県別の2013年度の県民総生産がまだ出ないので、安倍内閣後の変化を検証できないが、公表されたら、上記の2007年の論考でやったように長期の格差拡大トレンドが検証できるかどうかやってみよう。
 
「地方」という時、いったいどこのことを言っているんだろうか。それをきちんと特定しないまま、地方=景気回復立ち後れ⇒地方経済テコ入れのための財政バラマキという構図の繰り返しはやめて欲しい。
 
小峰先生(元内閣府、法政大教授)が、どこかで次のような趣旨のことを書いていた。
「日本の政治は『弱者』を特定して、必要な支援を提供する術が実に下手で、結局支援すべき相手を限定・特定しないまま、『地方』とか『高齢者』とか実に曖昧・不正確な広いカテゴリーを対象に財政資金をばらまいてしまう」(記憶で書いているので文章は私の文章です)。
 
実に的を得た指摘だと思う。
 
追記:小峰先生の文章が見つかったので、以下引用しておきます。
「高齢化対策、中小企業問題、農林水産業振興策などを見ていると、日本の政策は「弱者を絞り込む」のが苦手で、どうしても同じ条件の対象を平等に助けようとし、その結果、支援が広く薄くなってしまい、政策的効果が発揮できないことが多い。地域振興にも似たようなところがあり、これがバラマキの土壌になる可能性がある。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

塩野七生の 「朝日新聞の“告白”を越えて」文芸春秋
 
朝日叩きの特集でにぎわっている週刊新潮も文春も私は読まないのだが、文芸春秋に塩野七生さんが「朝日新聞の“告白”を越えて」と題した論考を寄せているので、これは買って読んでみた。
 
さすがに塩野さんの切れ味はいい。以下印象的な部分を引用しておこう。
 
引用:「それでも朝日は、『女性たちが本人の意に反して慰安婦にされる強制性があった』とする線はゆずらず・・・・だが、私は、考え込んでしまった。
元慰安婦たちの聴き取り調査を行なったということだが、当事者本人の証言といえども頭から信じることはできないという人間性の現実を、調査しそれを基にして記事を書いた人は考えなかったのであろうか、と。
 
人間には、恥ずかしいことをしたとか悪いことをしたとか感じた場合には、しばしば、強制されたのでやむをえずやった、と言い張る性向がある。しかも、それをくり返して口にしているうちに、自分でも信じ切ってしまうようになるのだ。
 
だからこそ厳たる証拠が必要なのだが・・・・「裏付け調査などを行なわなかった」では済まないのである。 対象に寄り添う暖かい感情を持つと同時に、一方では、離れた視点に立つクールさも合わせ持っていないと、言論では生きていく資格はない。」
 
さらに当時オランダの植民地だったインドネシアでの慰安婦問題について、政府と朝日新聞に対して有意義な具体的調査提案をしているが、省略するので、ご関心のある方は、同誌を読んで頂きたい。
 
「朝日の正義はなぜいつも軽薄なのか」 
同誌は続けて平川祐弘東京大学名誉教授の「朝日の正義はなぜいつも軽薄なのか」を掲載している。これも興味深かったので、一部引用しておこう。
 
引用:「私も当時(1950年代前半まで)論壇主流と同じ考えに染まっていた。社会主義の資本主義に対する優位を信じていた・・・・
私が朝日・岩波系知識人の世界認識からはっきり離れたのは、1956年ハンガリアでソ連支配に対する暴動が起きても、彼らが社会主義賛美を止めなかったからである。
 
親ソ派の大内兵衛(東大教授)は『ハンガリアはあまり着実に進歩している国ではない。あるいはデモクラシーが発達している国ではない。元来は百姓国ですからね。ハンガリアの民衆の判断自体は自分の小さい立場というものにとらわれて、ハンガリアの政治的な地位を理解していなかったと考えていい』(「世界」1957年4月号)とソ連軍の介入を公然と正当化した。」
 
「私見では、戦前の一国ナショナリズムのあらわれである日本の絶対不敗の信念と、戦後の日本の『諸国民の公正と信義に信頼する』するという絶対平和の信仰とは、1つのコインの表裏で、ともに幼稚な発想に変わりはない。世界の中の日本の位置と実力を見つめようとしないからである。」
 
「徹底した実証主義で知られる近現代史家の秦郁彦は『朝日新聞』の報道で吉田の存在を知り、怪しいと直感して出版社に電話すると『あれは小説ですよ』と返事をした。済州島の土地の人も否定した。吉田本人も週刊誌記者に問いつめられてそのことを認め 『事実を隠し、自分の主張を混ぜて書くのは新聞だってやっていることじゃないか』と開き直った。 
 
虚言癖の人の証言が大新聞によって世界的に報道され、吉田の本は韓国語、英語に翻訳され、国連報告書にも採用され、日本は性奴隷の国という汚名をかぶせられた。その経緯は秦郁彦『慰安婦と戦場の性』(新潮選書)に詳しい。」
 
「韓国でもかなりの人は慰安婦が自国の業者によって斡旋されたことは知っていた。それを他国の軍によって強制的に連行されたといい、吉田清治が職業的詐話師であると薄々わかった後も、その発言を引用し、慰安婦の数を多く増やして述べれば述べるほど純粋な愛国韓国人とみなされると信じるのは、憎日主義的愛国主義がもたらした倒錯症状である。」
***
 
というわけで、早速、秦郁彦氏の著作を注文した。
さらにこの論考に続いて、「『慰安婦検証記事』朝日OBはこう読んだ」と題して3名の元主筆、元編集委員、販売事業会社の元社長が、それそれの思いを述べている。
 
日本の戦後左派の思想潮流をふり返る
問題は上記の平川氏が述べているように、日本の戦後左派の思想潮流を見直すところまで広がるのが自然だと思う。その点では近年読んだ本で私自身アマゾンでレビューも書いた以下の2書を紹介しておきたい。Max-Tの名前で書いているのが私のレビューである。
 
当事者の時代」佐々木俊尚、光文社新書、2012年
私のレビューからの引用:「(著者は)敗戦から1960年代前半頃までは論壇を含む国民一般の戦争体験に関する意識は濃厚な被害者意識だったと総括する。要するに無垢な国民は、軍部独裁の下で事実から目を塞がれ、無謀で悲惨な戦争に徴兵され、大空襲で焼かれ、そして2つの原爆を落とされた被害者だったという意識だ。

そうした思潮が60年代の小田実の「被害者=加害者論」を契機に転換し、日本人は中国人、朝鮮人、アジアに対して同時に加害者でもあったという視点が登場した。それが戦争問題に止まらず、社会的なマイノリティー弱者、被差別者の視点から捉えるマイノリティー視点へと広がった。

そのこと自体は視点の拡大として意味があるはずだったのだが、思わぬ思想的な副作用を生み、「薬物の過剰摂取のように、人々は被害者=加害者論を過剰に受け入れ、踏み越えてしまった」(p278)と言う。 

言うまでもなく、これは右派系論者から「自虐史観」と批判されるようになる左派系論者の歴史観や思潮に顕著に見られる傾向となったわけだが、著者の本論はメディアもそうした視点にどっぷり漬かってしまったことだ。

そこから、虐げられたマイノリティーに憑依することで絶対的な批判者の視点に立とうとする様々な論調が論壇でもメディアでも横溢するようになってしまった・・・・(←正に朝日新聞が代表する流れですね)

特に次のような手法が日本のメディアに蔓延したと指摘する。 「弱者を描け。それによって今の日本の社会問題が逆照射されるんだ。」(p393) 物書きとしてはセンセーショナルな記事が欲しい。そこで「矛盾を指摘するためには、矛盾を拡大して見せなければならない。だからこそマイノリティー憑依し、それによって矛盾を大幅にフレームアップしてしまうことで、記事の正当性を高めてしまおうとする。」(p398)
***
この著作は2012年の出版だが、今回の慰安婦記事問題での朝日新聞に代表される左派的思考法の歪みの本質にスポットを当てたものとなっていると思う。
 
もう一冊は「革新幻想の戦後史」竹内洋、中央公論新社、2011年
やはり私自身のレビューから引用しておこう。
引用:「類稀な戦後思想史だ。戦後の論壇、アカデミズム、教育界を覆ってきた左翼思想的なバイアスを論考の対象にしているのだが、著者自身の思索・思想の遍歴と重ね合わせながら展開している点に惹かれる。

著者は1942年生まれ、京大を卒業して一時ビジネスに就職したが、大学に戻り、社会学を専門にした教授になった。 人生も終盤に差し掛かった著者が自身の思想的な遍歴を総括する意味も込めて書かれている。

著者自身が学生時代には、当時の大学、知識人(あるいはその予備軍としての大学生)の思想的雰囲気を反映して、左翼的な思潮に染まるが、やがて懐疑、再考→「革新幻想から覚醒」のプロセスを歩む。

私は著者より一世代若いので大学生時代は1975-79年であり、既に時代は左翼的思潮の後退、衰退期に入っていたが、私自身は左派的な思潮に染まったほとんど最後のグループだったと思う。既存の大人社会をそのまますんなりと肯定的に受け入れることができない若者の常として(常だよね?)、既存の体制をラディカルに批判する体系としては、マルクス主義を軸にしたものしか同時なかったので、自然と傾倒したのだ。だから私はマルクス経済学を中心に左派の文献をかなりマジに勉強した。

そのため著者自身の思想的な遍歴は、私自身にも共通する部分があるので、共感著しい。著者が学生時代に読んだ代表的な文献も私自身の読書経験と重なる部分が多い・・・・
***
 
「慰安婦問題検証記事」に端を発した議論、これまで溜まっていたものが吹き上げてくるような勢いがあり、まだまだ続くというか、上記の塩野氏や平川氏が指摘、提起するような調査と国際的な情報発信が展開して欲しい。
 
そういう意味では、今回の発端となった朝日新聞の「慰安婦検証記事」は、問題の封を切ったという位置づけができる。 もちろん、その後の怒涛のような展開は、木村社長が意図していたこととは正反対であろうがね。
 
 

さて、ドルの対円相場が100円台前半の膠着を抜けて107円台まで上がって来たので、実質ドル円相場指数を更新しました。ホームページの更新は月に1回なので、更新が遅れますが、とりあえずこのブログに掲載しておきます(以下添付)。ボールはドル割高のラフにしっかりと飛び出してきました。
 
10年物米国債で見たドルの長期金利が2.5%を中心としたレンジからなかなか上に上がらないので、以前ロイターで書いたように110円近辺の相場は来年年明けかな・・・と思っていましたが、そういう感じでもなくなってきましたね。 やっぱり相場の短期的な予想なんかコメントするんじゃなかった(^_^;)
 
新たに対円でドル買いが急に強まった背景には次の2つがあると思います。
 
1、GPIFの運用改革で日本株だけじゃなく、外貨投資(株と債券)の比率も増える→円売り、という思惑。塩崎氏が安倍内閣改造で厚生労働省の大臣になったので、一気にこの思惑が強くなったようですね。
 
2、米国の利上げタイミングの時期が来年に少し早められるのではないかという思惑。
実際、円のみでなくドルは対ユーロでも上がっていますからね。
金曜日の以下のCNBCニュースがそうした米国の雰囲気の変化を伝えています。
quote: Wall Street appears to increasingly expect the Fed to send a more hawkish message when
it meets next week.
Bank of America Merrill Lynch economists said they now anticipate the first Fed rate hikes in
June 2015, instead of September, and they expect the central bank Wednesday to drop
language in its statement, saying it expects to keep rates low for a "considerable time."
The Wall Street consensus for the first rate hike has been mostly around midyear and third
quarter, 2015. But it appears to be shifting to the midyear mark.
 
10年物米国債も8月下旬の利回り2.3%近辺から9月に入って2.6%まで上がって来ました。
金利引き上げのタイミングとその後の引き上げのテンポに対する市場の雰囲気は、昨年から猫の目のようにくるくる変わってきましたから、目先どうなるかわかりませんがね。
 
仮に現在の市場の支配的な雰囲気のまましばらく推移するとすると、米国株は高値圏もみ合い、反落もあり、日本株はドル金利上昇とGPIF期待で、米株が高値圏もみ合いなら日本株じり高、ドル相場も堅調・・・ということになりそうです。 でもやはり米国株の反落の度合いが大きければ(例えば直近高値から5%前後かそれ以上の反落)、日本株もしっかりと売られるんでしょう。
 
一気に110円がらみまでドル上昇?
わかりませんね。シカゴIMMの非商業筋の円ショート持高も急速に積み上がって来ていますので、あまり相場の目先の動きに惑わされないようにお気をつけください。
 
まあ、いずれにせよ私の方針は不変です。為替ではドルヘッジをじわりじわりと積み上げます。106円台で少しドル売り増して、ヘッジ率を65%から70%に上げました。
米国株のヘッジでは、7月に入ってから始めたダウ先物ショートのETNでヘッジ率25%、これをキープ。
 
補足:今回、図中に赤い細い線で示したのは消費税引き上げによる日本の企業物価上昇分を調整した(その分を物価指数から除いた)実質相場指数ベースです。
 
実質相場指数は図中の計算式が示す通り、PPPが分母になります。しかし消費税率引き上げによる物価上昇分は、円の対外的な購買力とは関係ないはずですから、PPPを計算する場合は消費税率引き上げ効果を除いたベースで計算するのが本来的には正しいのでは・・・・という思いがあるので。
 
ただし消費税率分がすべて価格転嫁されているわけでもないので、そこは大雑把に8割価格転嫁とみなして、今回の3%引き上げなら、企業物価の2.4%上昇分が消費税率引き上げによるものとして調整しました。1989年、97、2004年の消費税率分を全部同様に調整してます。
 
調整後は日本の企業物価が下がります →PPPが円高方向にシフト →PPPを分母にした実質相場指数は円安方向にシフトとなります。
 

昨日から読み始めた本「ブラックスワンの経営学」(井上達彦、日経BP社、2014年7月)が、なかなか面白く、共感する点が多い。 著者は早稲田大学の経営学の教授、まだ40歳台。
 
引用(p51-51):「将来を切り開く力(前例が少なくても有効な仮説を導く)
 
アナロジーの発想をうまく活用して、事例研究を適切に行なえば、前例が少なくても有効な仮説を導くことができるというのは確かだと思います。
 
アナロジーとは、『既知の世界(ベース)と未知の世界(ターゲット)の間に構造的な類似性を見出し、理解や発想を促す方法」のことです。
 
アナロジーは検証の方法ではなく、発見の方法です。ある世界で成り立つことが別の世界で成り立つ保証はないので、科学の世界では『確かでない推論』として敬遠されがちです。しかし、未知の領域で仮説を導くには役立ちます。」
 
上のような視点、あるいはアプローチを典型的な経済学分野の研究者が、強調したのを聞いたことも、読んだこともない。 
 
なにしろ、経済学で理論系の方々は単純化、抽象化された仮定の上に論理的に整合した理論モデルを構築することには熱心だけど、それでどれだけ現実の現象を説明できるのか、その点については熱意が欠けている傾向があるしね。
 
一方、実証分析系の方々(私も一応こちらに分類されるんだが)は、経済統計データをベースにした回帰分析など確率的な技法による分析の精緻化(私は技法的には「素朴」ですが(^_^;))と、それによる検証に熱心なんだけど、これは上記引用でいう前例(十分なカバレッジがある統計データ)が得られない場合は、手も足もでない。
 
しかし現実の世界は、前例も乏しいし、十分な期間の過去データが蓄積するのを待てずに判断、選択しなければならないことが多い。そういう不確実な状況の中でも、ある程度の有効性、合理性を発揮できるアプローチやそれに基づいた知恵でなければ、実際にはあまり役に立たないだろう。事業も、投資も、政策の発動だって、十分な検証はできないという制約のなかで決断されるものだからね。
 
そもそも私達が「わかる」ということはどういことか? 私も以前から「有効なアナロジーを発見することだ」と考えてきた。
 
例えば、ニュートンの万有引力の法則の発見、それまで天界の現象(天体の動き)と地上の現象は全く別の原理に支配されている・・・と考えられていた伝統的な世界観に対して、りんごが木から地上に落下するのも(既知の世界)、月が地球の周りを回転するのも(未知の世界)も、実は同じ原理で説明できるんじゃなかろうか、というアナロジーの発想から生まれたものだろう。
 
演繹法と帰納法、帰納法のベースにあるのは、やはりこのアナロジーの発想だろう。科学だから検証にこだわるのは当然だが、十分な検証できないからと言って切り捨ての発想ばかりしていると、新しい発見の芽を殺してしまうということだね。
 
そしてなんらかの知恵で成功するということは、十分な検証ができない状況で、数少ない前例や観察を手掛かりに、それでもある程度の有効性のある認識、判断に依って決断するしかない。十分な検証で有効性が実証できる頃には、みなその知恵を利用しているから、その知恵による超過利得もたいてい消えてしまっているからね。だから、この本の著者が小見出しに「将来を切り開く力」とつけたのは、実に適切だ。
 
 
 
 
 
 
 

4月の消費税率引き上げ後、個人消費の減少が「想定の範囲」よりもやや深く長引いているなど悲観的なデータがずっと出ていましたが・・・・
でも株価再び上昇基調、円安と日本株価変動の相関関係も一度失われていたが、ここにきて戻ってきたみたい。
 
足元の株価の上昇について、景気先行き悲観のアナリスト、エコノミスト達は内心首を傾げているはずです。
こういう局面は、よ~く考えてみる価値があります。
「GPIFが日本株や外貨証券投資を増やすことを当てこんだ一時的な投機的な動きではないのか」 そういう見方もありますね。
 
それとも見過ごしていた変化が生じているのか?
ふり返れば2012年10-12月期は「景気なんか回復するもんか。デフレは続くよ~」が支配的なムードでしたが、そこが景気回復の起点だったわけですからね。
 
足元のデータで確認できる限り、良い兆候は給与増加のテンポが速まっていることです。昨日公表された厚生労働省の現金給与総額(一人当たり名目指数)、5人以上企業では前年同月比+2.6%、30人以上企業では+4.1%と上昇幅が上がっています。 
 
7月の賞与が伸びた影響もありますが、「所定内給与」「きまって支給する給与」も前年同月比で増加率が上がってきています(添付筆者作成図ご参照)。
厚生労働省の当該サイト
 
8月のロイター社コラムで私が書いた以下のような好循環が始まる兆しかも・・・・(^^)v
 
引用:「結論から言うと、日本経済はデフレを抜け出し、長期にわたる景気拡大につながる好位置に立ったと筆者は見ている。労働需給のひっ迫は今後、労賃の上昇、家計所得の増加、最終消費需要の増加、生産と設備投資の増加という好循環が始まる可能性を意味している。」(8月11日ロイター社コラム)
 
ちょっとわくわくして見守りましょうか。でも日本株は少しだけ売ろうかな~?(?_?)
 
追記:雇用者報酬と現金給与総額を重ねた図表を追加しました。
現金給与総額は上に記載した通り、一人当たり名目ベースの指数です。
雇用者報酬は国民所得統計のデータで、雇用者全体の名目報酬の総額です。
雇用者報酬は四半期データですので、今年の4-6月までの実績です。
 
景気回復時には雇用者総数が増えるので、変化比で見ると雇用者報酬の伸び率が現金給与総額指数を上回る傾向がみられます。
今回もそうなっていますね。
 
追記(9月4日):日経新聞朝刊記事
引用:「日経平均株価が7カ月ぶりの高値を回復した3日の東京株式市場でヘッジファンドの一角が活発に動いた。グローバルマクロ系のファンドたちだ。きっかけは第2次安倍政権の内閣改造人事。公的年金の運用改革を見越して「円売り・日本株買い」を膨らませた。
 
今回相場が動くきっかけは外国人投資家が「ジーピフ」と発音する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を巡る思惑だ。 「塩崎恭久議員の厚生労働相就任が最大の材料。公的年金改革に積極的な人がトップになってGPIFが本当に動くという確信が広がり、従来の売りポジションの巻き戻しも含めて過去48時間はマクロ系ファンドが活発に動いた」。3日引け後、米系証券幹部はこう明かした。」
 
 
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