たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2015年05月

日本共産党はなぜポツダム宣言を絶対視するのだろうか?
 
「歴史」は多くの場合、勝者の語るストーリー・記録が、圧倒的な影響力を持つが、歴史の実相は勝者と敗者双方の主張・記録を見てみないとわからない。こんなことは常識だと思うが、日本共産党は第2次世界大戦の勝者の「宣言」を歴史認識の上で絶対視しているようだ。
 
以下は今週話題になった国会での共産党志位委員長による首相質問場面の動画である。 
 
要するに、日本はポツダム宣言を受け入れて降伏した。そのポツダム宣言では今次の戦争は日本とドイツの結託による世界征服のための戦争だったと書かれている。したがって首相もそれを歴史認識として受け入れるべきだという論旨である。
 
ポツダム宣言、第6条項:「日本の人民を欺きかつ誤らせ世界征服に赴かせた、影響勢力及び権威・権力は永久に排除されなければならない。」
 
しかし、こうした政治外交文書の記述は歴史認識の上で重要な資料であるが、それは当時の連合国側が日独伊同盟国側を「世界征服を目的に戦争を起こした」と主張していたという事実を示すにとどまるものだろう。 その文書自体が歴史認識となるべきと出張するなら、歴史認識は全て勝者の記録のみで足りるということになってしまう。
 
ちなみに、私自身は日本の対中国戦争は侵略的な性質を持っていたし、対英米の太平洋戦争も回避すべき戦争だったと(その意味で誤った戦争だった)と考えているが、当時の日本政府・軍部の意図が世界征服だったとはとうてい認識できないと思う。
 
なぜ共産党はポツダム宣言の記載を絶対視するのか? 共産党の綱領を読んだら、その理由がわかった気がした。(以下)
 
日本共産党綱領から抜粋引用(太字は筆者の強調):「日本帝国主義は敗北し、日本政府はポツダム宣言を受諾した。反ファッショ連合国によるこの宣言は、軍国主義の除去と民主主義の確立を基本的な内容としたもので、日本の国民的な活路は、平和で民主的な日本の実現にこそあることをしめした。
 
第二次世界大戦における日独伊侵略ブロックの敗北、反ファッショ連合国と世界民主勢力の勝利は、日本人民の解放のための内外の諸条件を大きくかえ、天皇制の支配のもとに苦しんでいたわが国人民がたちあがる道をひらいた。

戦後公然と活動を開始した日本共産党は、ポツダム宣言の完全実施と民主主義的変革を徹底してなしとげることを主張し、天皇制の廃止、軍国主義の一掃、国民の立場にたった国の復興のために、民主勢力の先頭にたってたたかった。党が、「人民共和国憲法草案」を発表したのは、この立場からであった。
 
わが国を占領した連合軍の主力が、原爆を武器として対ソ戦争の計画をもち新しい世界支配をねらうアメリカであったことは、日本国民の運命を、外国帝国主義への従属という歴史上かつてない状態にみちびく第一歩となった。
 
世界の民主勢力と日本人民の圧力のもとに一連の「民主化」措置がとられたが、アメリカは、これをかれらの対日支配に必要な範囲にかぎり、民主主義革命を流産させようとした。
 
現行憲法は、このような状況のもとでつくられたものであり、主権在民の立場にたった民主的平和的な条項をもつと同時に、天皇条項などの反動的なものを残している。天皇制は絶対主義的な性格を失ったが、ブルジョア君主制の一種として温存され、アメリカ帝国主義と日本独占資本の政治的思想的支配と軍国主義復活の道具とされた。

アメリカ帝国主義は、世界支配の野望を実現するために、ポツダム宣言をふみにじって日本を事実上かれらの単独支配のもとにおき、日本を軍事基地としてかためながら、日本独占資本を目したの同盟者として復活させる政策をすすめ、日本人民の解放闘争を弾圧した。
***
 
というわけで、ポツダム宣言が単なる勝者の主張ではなく、日本共産党にとって金科玉条になり得るのは、それが「反ファッショ連合国と世界民主勢力」の勝利の成果と位置付けているからである。一方で、それは戦後直後に、世界支配の野望を抱く米国の手によって捻じ曲げられた、という歴史解釈を共産党はしているわけだ。
 
しかしながら、「米国の世界支配の野望」が事実なら、それは1945年以降突然生じたわけではないだろう。 同時に連合国の中で米国は軍事力も政治力も圧倒的な存在だった。そうすると連合国側から「世界支配の野望を抱く米国」を除いた「反ファッショ連合国と世界民主勢力」というのは、いったいどこの国、どの勢力だったんだろうか?
 
ソ連だろうか?中国共産党? 
ソ連については、綱領の後段で次の様に記載されている。
 
引用:「ソ連では、レーニンの死後、スターリンを中心とした指導部が、科学的社会主義の原則を投げすてて、対外的には覇権主義、国内的には官僚主義・専制主義の誤った道をすすみ・・・」
 
第2次世界大戦中は既にスターリンの独裁支配が確立していたから、このように規定される国が
「反ファッショ連合国と世界民主勢力」だったとは言えないだろう。
 
中国共産党との関係については綱領にはほとんど記述がないが、1950年に日本共産党が各派に分裂し、1951年に当時の主流派は、中国共産党の強い影響下で、反米武装闘争の方針を決定し、中国共産党の抗日戦術を模倣したことがある。
 
当時の非主流派の国際派(これが今日まで続く現存派)は、この当時の武装派を「間違った路線」「中国盲従派」と否定し、長きにわたり中国共産党と日本共産党は相互に批判し合う関係だった。
 
要するに、ポツダム宣言をそれほど高く評価する根拠としての「反ファッショ連合国と世界民主勢力」というピカピカに健全な勢力なんてものが、そもそも存在していたのか、ということだ。
 
私の意図はポツダム宣言の内容を否定することではない。むしろ以下の様な当時としては先進的な条項を含んでいたことを評価したい。
 
第10項目:「われわれは、日本を人種として奴隷化するつもりもなければ国民として絶滅させるつもりもない。しかし、われわれの捕虜を虐待したものを含めて、すべての戦争犯罪人に対しては断固たる正義を付与するものである。日本政府は、日本の人民の間に民主主義的風潮を強化しあるいは復活するにあたって障害となるものはこれを排除するものとする。言論、宗教、思想の自由及び基本的人権の尊重はこれを確立するものとする。」
 
第12項目:「連合国占領軍は、その目的達成後そして日本人民の自由なる意志に従って、平和的傾向を帯びかつ責任ある政府が樹立されるに置いては、直ちに日本より撤退するものとする。」
 
しかしながら、それでも同宣言は、米英ソ連を中心にした連合国側の政治的な主張、認識に拠ったものであり、同宣言を金科玉条にして、「日本の戦争の動機は世界征服だったのであり、それを認めないのは当該戦争を正当化するのものだ」という志位委員長の論法は、控えめに言ってもかなり奇妙な議論だと思う。
 
補足追記:ポツダム宣言についてwikiから引用しておきます。
ナチス・ドイツ降伏後の1945年(昭和20年)7月17日から8月2日にかけ、ベルリン郊外ポツダムにおいて、米国、英国、ソ連の3カ国の首脳(アメリカ合衆国大統領ハリー・S・トルーマンイギリスの首相ウィンストン・チャーチルソビエト連邦共産党書記長ヨシフ・スターリン)が集まり、第二次世界大戦の戦後処理について話し合われた(ポツダム会談)。
 
ポツダム宣言は、この会談の期間中、米国のトルーマン大統領、イギリスのチャーチル首相と中華民国の蒋介石国民政府主席の共同声明として発表されたものである。ただし宣言文の大部分はアメリカによって作成され、イギリスが若干の修正を行なったものであり、中華民国を含む他の連合国は内容に関与していない。
 
英国代表として会談に出席していたチャーチル首相は当時帰国しており、蒋介石を含む中華民国のメンバーはそもそも会談に参加していなかったため、トルーマンが自身を含めた3人分の署名を行った(蒋介石とは無線で了承を得て署名した)。」
***
以上wikiではポツダム宣言は「宣言文の大部分はアメリカによって作成され、イギリスが若干の修正を行なったもの」と書かれています。  
 
そのアメリカについて日本共産党の綱領では 「わが国を占領した連合軍の主力が、原爆を武器として対ソ戦争の計画をもち新しい世界支配をねらうアメリカであったことは、日本国民の運命を、外国帝国主義への従属という歴史上かつてない状態にみちびく第一歩となった」と書かれています。   
 
wikiの指摘が正しいとすると、日本共産党は、同時代のアメリカを一方では「反ファッショ連合国と世界民主勢力」の代表として、同時に「世界支配の野望を抱く国」とも位置付けているわけで、なかなか興味深い矛盾を呈していると言えます。 
 
 
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実質国民総所得(GDI)の高成長

3月のブログで2015年の日本経済は実質国民所得(GNI)ベースで3%を超える高成長となると書いた。
2015年1-3月期の国民経済計算結果(速報値)が5月20日に発表され、その通りの方向に進んでいることが確認できたので、報告しておこう。

前回説明したことだが、各カテゴリーは以下の通りである。
実質GDP:実質国内総生産 一年間に国内で生産される付加価値の実質総額
実質GDI:実質国内総所得 GDPから交易条件の変化で生じる交易利得(あるいは損失)を加減  
      したもの
実質GNI:実質国民総所得 上記GDI に対外的な所得(主に配当と利息)の受取と支払のネット(つま   
      り国際収支上の所得収支)を加えたもの (昔はこれがGNPと呼ばれていた)

図は実質国民所得(GNI)と実質GDPの前比年率の成長率だ。2015年1-3月の実質GDP成長率はメディアでも報じられている通り+2.4%だった。 一方GNIは+3.7%とGDP伸び率を1.3%超えるものとなった。これは3月のブログで指摘した通り、交易条件が原油価格などの急落で5.9兆円(年換算)改善したことが主因だ。

また2014年10-12月期のGNIは6.1%とさらに高い成長率だった。この期は交易条件の改善はまだほとんどなかったが、一段の円安が進んだことで所得収支(国際収支表の経常収支の一部で海外からの受取利息や配当から支払い分を差し引いた収支)の円建てベースの黒字額が前期比5.6兆円増加した影響が主因である。

内閣府は全てのデータを公表しているのだが、メディアの報道がGDPのみに集中しているのは、私には奇妙なバイアスに思える。GDPに注目するのが国際的に一般化しているとは言え、それは一種の慣習に過ぎない。

経済は複合的多面的現象なのだから、もっと複眼的な視点があってしかるべきなのだが。

在庫変動要因の正しい見方

また実質GDP成長率+2.4%(前期比年率)について、明らかに早とちり、あるいはミスリーディングなコメントがメディアに流れているので、指摘しておこう。

データ公表日の5月20日の日経新聞夕刊では、成長率としては予想平均(+1.5%前後)を上回る数字だが、在庫の増加が大きく(寄与度で+2.0%)、内容的に良くないというエコノミストらのコメントが目立っている(以下参照)。大丈夫かな、この方たち、後からちゃんとデータ見て「しまった!」と思っているんじゃないかな?
 
20日の日経新聞夕刊、引用:「野村証券の木下智夫チーフエコノミスト
1~3月期の実質国内総生産(GDP)が2四半期連続のプラス成長となったのは、民間消費と在庫の伸びが主な要因だ。民間消費は実力をやや上回った数字で、在庫も市場予測を大きく上回った。」

 「BNPパリバ証券チーフエコノミスト 河野龍太郎氏
1~3月の実質GDP成長率の押し上げに大きく寄与したのは在庫の増加で、これを除くと緩やかな回復にとどまった。」
 

以下が在庫変化の実数だ(単位:10億円)。
2014/1-3    -5,150
2014/4-6      +1,074
2014/7-9      -2,131
2014/10-12  -3,229
2015/1-3        -970

在庫の増加はGDPにプラスに寄与するが、それが意図せざる在庫の積み上がりならば、景気の悪化を示唆する。

2014年1-3月は消費税率引き上げ前の売り上げの伸びで在庫は5.1兆円減少、しかし4-6月には1兆円の増加となり、これは売上減少、景気悪化による在庫増だった。その後、在庫の圧縮が起こり、2.1兆円減少、3.2兆円減少と続き、2015年1-3月に減少幅は0.97兆円に減った。

GDPに与える変化としては「在庫減少額の減少=在庫の増加」であり、GDPにプラスに寄与している。しかしそれは2014年4月以降に生じた意図せざる在庫増とは反対で、在庫の圧縮が進み、在庫減少額が小さくなった結果として生じている。

つまりこの在庫変化のデータが正しい限り、景気判断的にはむしろ良い変化を示唆していると考えるのが妥当だろう。(もっともGDP1次速報値の在庫は推計値ですので、改訂値でどう変更されるか、不確実な面は残っている。)

さすがに日経新聞は翌日の朝刊(5月21日)では、その点を報じているが、以下のさらりとし過ぎた解説では、読者は十分に理解できないだろう。

21日の日経新聞朝刊、引用:「在庫は1~3月期も10~12月期も前の期に比べ減ったが、減少幅は1~3月期の方が小さかった。これがGDPの伸び率を高める方向に働いた。」また

また今回から内閣府は在庫変化の内訳も公表するようになった(以下のサイトの最下段)。
「在庫変動の振れがGDPの変化に与える影響が大きくて、四半期予想が難しい。在庫変化の内訳も公表してくれ」という趣旨の要望があったらしい。

4月以降の注目点

さて、今後4月以降のデータで注目は、実質賃金の変化だ。昨年度は名目賃金伸び率が消費税率増税による消費者物価指数の上昇に追いつかず、実質賃金は下がり、これが野党やアンチ・リフレ派のエコノミストらによってアベノミクス批判の材料になった。

今年4月以降のデータは一転、実質賃金の増加(前年同月比)となるだろう。これも以前のブログで予想済みだ(以下参照)。

もっとも消費者は前年同月比の変化に反応するわけではない。変化への反応はもっと短い時間で生じるだろう。実際に、消費者態度指数や景気ウオッチャー調査では既に緩やかな改善傾向が始まっていることが観測できる。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2015/0513watcher/bassui.html (景気ウオッチャー調査)

2015年はやはり日本経済順風の年になりそうだな。
それを素直に喜ぶことのできない民主党など野党の皆様方、アンチ・アベノミクスのエコノミストの皆様方、ご愁傷様です。


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日経平均2万円の水準を付けた後、日本株はやや弱含みだが、見通しは総じて強気の見方が多いようだ。長期的な視点から、2万円の水準の妥当性(割高?)を考えてみよう。
 
この種のテーマのレポートは既に証券会社などからかなり出回っているが、「プロフェッショナルな楽観論者」の見解には興味がない。 この点、日本経済新聞の「経済教室」(4月27日)で川北英隆教授(京大)が以下のように述べていることが目にとまった。(川北教授も市場ビジネスの経歴を経て大学に移られた方だ。)
 
***
引用:「中長期的な株価水準は企業の収益力に左右される。では、何をもって企業の収益力を測ればよいのか。筆者は営業利益が最も適当だと考える。
 
経常利益や税引き後利益の場合、負債に対する利払いが短中期的には固定費として働くので、好況と不況の波を増幅してしまう。いわゆる財務レバレッジ(テコの原理)効果が生じるため、あまり適切な指標ではない。これに対して、営業利益は企業の財務体質に左右されず、企業の収益力を端的に表す。
図は、各年度の営業利益ベースでの増減益率と、各年度末時点において営業利益(確定値)の何倍まで上場企業が買われたのかを示す値について推移を示している図から判明するのは、12年度以降の増益基調が株価上昇を支えてきたことである。増益基調を背景に、時価総額・営業利益倍率も高まってきた
増益基調が株価水準を高めたことは、中長期的な株価水準が企業実態を反映していることを意味する。「株価とは、将来において企業が株主のために生み出すであろうキャッシュフロー額を現時点での価値(現在価値)に換算したものである」との理論に則している。」
***
 
なんとなく経常利益の方がよいかなと思っていたが、なるほど企業の趨勢的なグロス収益力を測る指標としては営業利益の方が良さそうだ。 ただし同氏が掲載した図表(上段)は2006年3月期からのもので、データとして短い。 もっと長い時系列で見て、「時価(東証1部)総額/営業利益」が趨勢的な平均値から乖離と回帰を繰り返しながら、平均値に収束することを確認したい。そうでないと、この比率が長期的な割高・割安の指標として妥当かどうか、わからない。
 
そこで自分で長い時系列データを用意しようとしたんだが、これが簡単でないことに気がついた。東証1部上場の企業数は1700社余りだが、その営業利益の総額データがみつからない。1700社余りの企業の営業利益を自分で集計するのは、一人力でやっている私には手間がかかり過ぎる。(この点に限らず、東証のデータ開示は、どうもマクロ系のユーザーには不親切にできているね。)
 
そこでやむなく、内閣府の法人企業統計から資本金10億円以上の企業(除く金融・保険)の四半期データから営業利益をとることにした。このカテゴリーの企業と東証1部上場企業群とはもちろん同じではない。しかし両カテゴリーの利益規模の絶対額は違っても、変化に高い相関性があるだろう。とすれば代替できる。
 
ちなみに法人企業統計は、「金融・保険を含む」全産業データの時系列は古くまで遡れない。昔から「金融・保険を除く」ベースでデータを作ってきているからだ。(なぜか川北氏の図表も「除く金融」になっている。なにかしらのデータ制約があったのだろう)
 
以上の様な制約はあるものの、「暦年末の東証1部時価総額/年間営業利益」を1981年まで遡って表示したのが下段の図だ。2015年の営業利益は、前年比5%増の想定にしてある(ちなみに2014年の営業利益は前年比9.9%増、2013年は35.9%増だった)。

結果は期待通りに時価総額/利益比率(青線)は、長期的な平均値(青色の破線、16.7)からの乖離と回帰を繰り返している。図上には省略したが、近似線もほぼ水平になる。つまり長期的な平均値に対して乖離と回帰を繰り返しながら、平均値に収束する傾向が見られる。赤線は東証1部の時価総額(12月末値)だ。

参考までに営業利益を経常利益や名目GDP総額に換えて、同じことをすると、近似線は水平にならずにトレンドが出てしまう。 営業利益で計測した方が、利益と時価総額の長期的に安定的な関係が確認できると考えて良さそうだ。

特定期間に分けて、もう少し詳細にグラフを見てみよう。

1980年代後半:バブル期には利益は伸びているが、それを上回るテンポで時価総額が増えた結果、比率は上方に突出しており、顕著な株価割高を示している。

1998-2000年:ITバブル期にも時価総額の伸びが利益の伸びを大きく上回っている。

2002-04年:ITバブルの不況から抜け出して利益は回復傾向だったが、時価総額の伸びが遅れ、株価は割安局面だった。

2005-07年:企業利益の伸びが持続し、時価総額は大きく増加したが、利益との比較で割高感はなかった。反省としては、この局面では今回の図表のような指針がなかったので、私はちょっと売るのが早く、期待利益を失う度合いが大きかった。

2008-09年:リーマンショックを契機にした世界不況で、企業利益の落ち込みが著しく、株価も急落したが、利益ほどには時価総額は減少しなかった。

2010-12年:2009年の底から利益は回復したが、時価総額は利益に見合ったほど回復しなかった。つまり株価割安局面。

2013-14年:それまでの株価割安の調整として株価急騰、時価総額急増、企業利益も急増し、13年と2014年末時点の時価/利益比率は、ほぼ長期的な平均値となった。

2015年最後の2015年は営業利益は前年比5%増、時価総額は4月24日587兆円、日経平均
20,020円の水準で描いてある

営業利益は原油価格などの低下による交易条件の改善の順風もあり、2015年も改善が見込まれるが、2014年のように前年比10%というのは楽観的過ぎるかもしれない。 そこでプラス5%の増加にした。 この想定で見ると比率は19.1となり、上記の時価総額、株価はやや割高のレンジに入っていることがわかる。営業利益+10%で計算すると、比率は18.2で、それでも長期平均16.7よりやや高い。

というわけで、日経平均2万円からは、「まだまだ上がる!」という強気は抑制し、高値更新局面は慎重に売り抜け、ポートフォリオに占める株式比率は下げるというスタンス継続で良いだろうと思う。

追記:2016年3月期決算予想、2015年10日、日経新聞記事
「2016年3月期の経常利益は前期比1割程度増え、2期連続で過去最高を更新する見通しだ。」

http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150510&ng=DGKKASGD09H24_Z00C15A5MM8000



 
 
 
 

中国の不動産建設バブルが崩壊現象を呈していることは、様々に報道されている通りだ。しかし崩壊の速度、経済成長率の鈍化の速度がスローだから、ソフトランディングするのではないかという楽観的な見通しも多い。私はむしろ逆で、スローだからこそ実体経済への負の影響は深く、長くなると思っている。この点を考えてみよう。
 
現代の資産バブルに共通するのは、信用の膨張、資産価格の高騰、過剰な固定資本形成、これら3つだ。 そしてバブル崩壊過程では信用の収縮、資産価格の下落、固定資本形成の減少が起こる。したがって「バブルの崩壊」とはそれに先立って起こった3種類の過剰(信用の量 、資産価格の水準、固定資本形成の規模)の調整だと言える。
 
さらに崩壊過程では、資産価格の下落で損失が生じ、負債の返済が困難になる経済主体が損失を隠蔽、粉飾するケースが続出する。
 
急調整型だった米国のケース
このバブル崩壊過程がどの程度の速度で生じるか、それを決めるのは信用収縮の速度だろう。この点で戦後最も急速な信用収縮が起こったのは2007-08年の米国のケースだ。上段の図は、米国のCP発行残高の推移だが、2007年のピーク時から2年間で1.1兆ドル(132兆円)の残高減少、信用収縮が生じている。 そのうち、約70%が証券化商品のファイナンスを担ったAsset-backed CPで生じている。ここではデータは省略するが、MBS(Mortgage-backed Securities)の発行縮小を加えると、信用収縮の速度はもっと急激だった。
 
これは米国のファイナンスが銀行ローンよりも、CP・債券発行市場に圧倒的に傾斜した直接金融主流の構造だったからだ。 投資家の不安心理に火がついて、それが一気に感染爆発を起こすように広がり、証券化市場は機能マヒに陥ったわけだ。
 
スロー調整型だった日本のケース
米国のケースに比べて、銀行貸出中心の信用膨張に依存した日本のバブルは、その崩壊過程がずっとスローだった。 2段目の図は、日本国内銀行の総貸出、不動産業界向け貸出、建設業界向け貸出の残高推移である。
 
不動産価格で見るとバブルのピークは1991年だったが、その後も貸出残高が増えている。これは当時よく言われたように、事実上行き詰っている不動産会社やリース・ノンバンクに対する「追貸」が横行したからだ。銀行としては一気に破綻処理して莫大な損失を計上するよりも、追貸して延命すれば不動産市況がまた回復して損失を縮小できると考えたからだろう。
 
しかしそのような市況の好転は起こらず、97-98年のアジア通貨危機の飛び火で、銀行不良債権危機に至った。貸出残高が目に見えて減少するのは、この90年代後半からだ。 91年以降の不動産価格の急落過程で、各種の損失隠ぺい、「損失飛ばし」が横行したことも様々に指摘されてきた。
 
その後、銀行の不良債権処理が一気に進んだのは2003年3月決算であり、誰の目にも危機が終わったことが分かるようになったのは、2004年頃だった。
 
ただいま進行中、超スロー調整型の中国不動産建設バブルの崩壊過程
 日本のケースに比べて、更に超スローに「調整」が進行しているのが中国だろう。
本日5月2日の日経新聞朝刊の記事が次のように伝えている。
 
引用:「約4兆3千億元(約82兆円)。中国の地方政府が2014年に国有地の使用権を不動産開発業者に売って得た収入だ。土地が国有の中国では、地方政府が使用権を売りに出す。地方政府はこの土地譲渡収入で歳入全体の約3割を稼いだ。
 
地方政府にとっては「打ち出の小づち」だが、異変が起きている。14年の土地譲渡収入は前年比3%増と、4割も増えた13年から伸びが急激に鈍った。四半期ごとにみると、14年1~3月は前年同期比4割増だったのが、同10~12月に2割減に転じ、さらに今年1~3月は36%減に落ち込んだ。住宅市況が冷え込み、不動産投資の伸びが一気に鈍ったためだ。
 
 「たこが自分の足を食う」ような事例もある。住宅の過剰供給で知られる江蘇省常州市が14年に使用権を売却した約70件の土地の資料をみると、買い手の約8割が同市傘下の投資会社「融資平台」とみられる企業だった。見かけの市の収入は増えても、実態は市政府の内部で資金をやり繰りしているようなものだ。」 下段掲載は記事図表。
***
 
日本や米国のバブル崩壊過程で生じたこと、信用の縮小、資産価格の下落、固定資本形成の減少、損失隠蔽・粉飾、飛ばしなど全て共通することが中国でも起こっている。
 
ただし違いは、それが超スローモーションで進んでいることだ。中国のファイナンスの中核は国有銀行であり、最大の融資対象セクターが地方政府とその事実上の関連会社、関連機関のはずである。
 
米国のように不安を感じた投資家が一斉にファイナンスから撤退するようなことは起こらない。さらに日本の銀行融資よりはるかに中央政府の貸出維持のコントロールが効いている。だからバブルの調整は超スローモーションである。
 
しかしバブル期の過剰に対する調整に要する規模、例えばGDPに占める固定資産形成の比率の異常な高さの調整(固定資本形成⇒消費へのシフト)などは、日本や米国の比ではない。結果として、長期にわたって成長鈍化の傾向が持続するようなプロセスに入ったのであろう。もちろん、損失の隠蔽・粉飾、飛ばしも横行しているはずであり、その損失処理も超スローモーションで進むのであろう。
 
直近発表された中国の今年第1四半期の実質GDP成長率(前年同月比)は7.0%だったが、それを額面通りに受け止めるエコノミストは中国外では少ない。
 
また、人口動態上の変化が経済成長にプラスに寄与する局面から、マイナスに寄与する局面、つまり人口ボーナスから人口オーナスへの転換点(日本は1990年前後、米国は2000年代後半に転換した)は、中国の場合まさに2015年、今年なのだ。
 
そして、これが最後のポイントだが、そのような長期にわたって引き延ばされた経済的な痛みに、中国の社会・政治システムが果たして耐えられるかどうか、それがこらから問われることになるだろう。

追報:ジャーナリストの取材した現地の実情

追報2:現地取材のジャーナリストの表現がこれまでと変わって切迫感が濃くなってきた。
引用:「筆者は、年金生活を送っているある上海人男性を訪問した。“知識人”であるこの男性は将来を悲観してこう語る。「汚職官僚を捕まえなければ国は終わるが、捕まえても国は終わる。汚職だけ叩いていても限界がある。中国の政治の機能不全は、突き詰めれば突き詰めるほど根深い問題で、もはや手が付けようがない

追報3:「中所得国のわな」「新常態」は成長鈍化の言い換えに過ぎない
 
 近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日
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