東証に占める外人(非居住者)の売買比率は6~7割と言われ、とにかく外人投資家が買い越すか、売り越すかで日本株は上げも下げも左右されていることは、ご承知の通りだ。しかし、外人投資家の投資パフォーマンス、良いのだろうか? 当然、成功している連中も、失敗している連中も双方いるわけだが、外人投資家層マクロで見て、どうなのか?
そこで大胆に推計してみた。外人投資家の日本株の売買については、財務省の対内証券投資データを用いる。売買価格については、日経平均の月間高値と安値の平均値を採用する。
つまりある月の外人投資家の日本株売買が、ネット買い越し5000億円なら、その月の日経平均の高値・安値の平均値で5000億円買い越したとして、月間データで累積投資額を計算する。
もちろん、個別には高値圏で買っている投資家から安値圏で買っている投資家まで分布しているわけだが、全体としては平均値近辺で売買していると見て、想定としては妥当だろう。また株式のポートフォリオ内訳も投資家ごとに異なるが、全体としては日経平均に近いポートフォリオ構成となっていると想定するわけだ。
2005年1月から16年12月までの累計投資結果が上段の図である。2016年12月末時点での時価資産総額/累積投資額は1.22倍(配当含まず)、累積投資額は34.8兆円、評価益は7.8兆円である。
果たしてこの投資結果は良いのか、悪いのか?
比較参照として、同じ期間毎月定額を日経平均に投資した場合の計算をしてみよう。2005年1月から毎月2400億円定額で同様に日経平均に投資した場合が下段の図である。累積投資額は34.6兆円で上記とほぼ同じ、評価益は13.7兆円、時価資産総額/累積投資額は1.40倍であり、上記の外人投資家の投資リターンより高い。
(定額積立投資の場合、月間の高値安値は事前にはわからないので、通常は「月末で買う」という想定をするが、ここでは比較のために外人投資家と同じ想定にした。)
外人投資家層全体の投資パフォーマンスは、定額積立投資に劣る! いや、この段階でそう判断するのは早すぎる。外人投資家層はその売買によってポートフォリオのリスクを定額積立投資の場合よりも低下させているかもしれない。それであれば、リターンが低くなることにも合理性があり得る。
そこで双方の時価資産総額/累積投資額の月次のデータの標準偏差を計算した。この値が高いほどポートフォリオのリターンの変動性、つまりリスクは高いことになる。
外人投資家のリスク:0.2937
定額積立投資のリスク:0.2586
ははは、定額積立投資の方がリスク(標準偏差)が低い。
結論として、外人投資家層全体の上記期間の日本株投資のパフォーマンスは、機械的な定額積立投資の場合よりもリスクが高く、リターンが低いということになる。つまり外人投資家は定額積立投資に比べて、安値で売って、高値で買っている部分があり、その分だけ投資のパフォーマンスが低下している。労多くして益少なしということだ。
まあ、これは外人投資家層に限ったことではないだろう。他のセクターでも似たような結果になるのではなかろうか。後日改めて、投資家セクター別のデータを使ってやってみようか。
追報(2017年2月7日)
東証の投資主体別売買の週間データで2005年から全く同様の試算をやってみた。ただし今度はTOPIXを使用している。結果は月間とほぼ同じで、海外投資家の評価損益は7.1兆円(1月20日時点)、時価資産総額/累積投資額比率は1.18倍。一方、週間で定額積立投資した場合の評価損益は14.7兆円、時価資産総額/累積投資額比率は1.37倍となり、海外投資家の方が収益、収益率で劣後している。
また時価資産総額/累積投資額の標準偏差で測ったリスク量も海外投資家が0.275、定額積立投資が0.257となり、前者の方がリスクが高い。
以下、図表を下段に追加しておく。
追記(2017年3月13日)
日経新聞で田村正之さん(編集委員)が、本件について取り上げてくれました。
本件についての論考は、時事通信社の「金融経済ビジネス」2017年3月9日号に掲載されています。
私のホームーページに近日pdfで掲載します。
追記(2017年3月17日)
本件に関する論考、時事通信社の「金融経済ビジネス」2017年3月9日号に掲載されたものをホームページに掲載しました。↓
近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日


追加図

