失業率と自殺率の非常に高い正の相関関係
自殺の発生件数と景気動向には相関関係があると前から思っていたが、実際に確認してみて驚いた。実に高い関係性があるのだ。図表1は1970年以降の失業率と自殺率(人口10万人当りに対する1年間の自殺件数)の推移である。山と谷の波がかなり重なっていることがわかる。
これを見ると、自殺率が急騰したのは1998年、銀行の不良債権危機で戦後最悪の不況になり、失業率も跳ね上がった年だ。そして1998年から2009年まで自殺率は高止まりする。失業率は2002年から07年までの景気の回復で低下するが、自殺率はこの時の失業率の低下にはあまり反応していない。
その後、自殺率は2009年以降の景気の回復、失業率の低下に伴って下がり始める。特に12年以降の低下が目立っている。
図表2はこれを散布図にしたものだ。決定係数は0.80、相関係数は0.895と非常に高い(いずれも最大値は1で、その時は完全な比例関係になる)。これは失業率上昇(に表される景気状況の悪化)→自殺増加(逆は逆)という因果関係が正しいとした場合、、自殺率の変化の80%は失業率の変化で説明できることを意味する。
また、2012年以降は線形近似線が示す趨勢的な傾向から下方に乖離する形で自殺率の低下が起こっている。 自殺率と言うのは不幸な人の発生率を示すひとつの指標であるから、過去数年、顕著に下がっていることは喜ばしい変化だ。
自殺の原因・動機別内訳
失業率の変化との関係性が非常に高いので、自殺に占める原因・動機で経済的・生活的要因によるものが高いかというと実はそうでもない。図表3は2016年の自殺の原因・動機別内訳である。最も多い原因・動機は健康問題で約半分(49.9%)を占める。次が経済・生活問題(15.9%)、勤務問題(9.0%)である。
ただしこの原因・動機内訳がどれほど実態を反映しているかについては留意が必要だろう。人間は自分の本当の動機を意識していない場合も少なくないし、死んだ後に遺族などの関係者の話に基づいて警察が行う分類がどの程度正しいかについては、当然留保が必要だろう。
ただし自殺の発生について、どういうマクロ的な経済事情の下でも発生する底積み的な部分と、失業率の示す景気の変化に応じて、経済的原因・動機の自殺数が大きく変化するという循環的・的変動的な部分があると考えられる。それを見るために直近の失業率と自殺率のピークだった2009年と16年を比べたのが図表4である。
これを見ると2009年と比較して、自殺総件数は約3万4000人から2万2000人に1万2000人減少している。減少のうち、経済・生活問題の自殺減少は、健康問題の自殺の減少とほぼ同じで41%を占める。
失業率と健康問題の自殺の間に関係性があるかのかどうかは不明だが(その可能性はある。なぜなら経済的困窮とその人の健康状態にはある程度相関関係があるだろう)、経済・生活問題の自殺の発生が失業率の変化が示す景気動向に強く依存しており、過去数年、失業率の低下に伴って大きく減少してきたことは、間違いないだろう。
先行研究論文:
近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日
図表1
図表2
図表3
図表4