たけなかまさはるブログ

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2017年09月

失業率と自殺率の非常に高い正の相関関係

自殺の発生件数と景気動向には相関関係があると前から思っていたが、実際に確認してみて驚いた。実に高い関係性があるのだ。図表1は1970年以降の失業率と自殺率(人口10万人当りに対する1年間の自殺件数)の推移である。山と谷の波がかなり重なっていることがわかる。

これを見ると、自殺率が急騰したのは1998年、銀行の不良債権危機で戦後最悪の不況になり、失業率も跳ね上がった年だ。そして1998年から2009年まで自殺率は高止まりする。失業率は2002年から07年までの景気の回復で低下するが、自殺率はこの時の失業率の低下にはあまり反応していない。

その後、自殺率は2009年以降の景気の回復、失業率の低下に伴って下がり始める。特に12年以降の低下が目立っている。

図表2はこれを散布図にしたものだ。決定係数は0.80、相関係数は0.895と非常に高い(いずれも最大値は1で、その時は完全な比例関係になる)。これは失業率上昇(に表される景気状況の悪化)→自殺増加(逆は逆)という因果関係が正しいとした場合、、自殺率の変化の80%は失業率の変化で説明できることを意味する。

また、2012年以降は線形近似線が示す趨勢的な傾向から下方に乖離する形で自殺率の低下が起こっている。 自殺率と言うのは不幸な人の発生率を示すひとつの指標であるから、過去数年、顕著に下がっていることは喜ばしい変化だ。

自殺の原因・動機別内訳

失業率の変化との関係性が非常に高いので、自殺に占める原因・動機で経済的・生活的要因によるものが高いかというと実はそうでもない。図表3は2016年の自殺の原因・動機別内訳である。最も多い原因・動機は健康問題で約半分(49.9%)を占める。次が経済・生活問題(15.9%)、勤務問題(9.0%)である。

ただしこの原因・動機内訳がどれほど実態を反映しているかについては留意が必要だろう。人間は自分の本当の動機を意識していない場合も少なくないし、死んだ後に遺族などの関係者の話に基づいて警察が行う分類がどの程度正しいかについては、当然留保が必要だろう。

ただし自殺の発生について、どういうマクロ的な経済事情の下でも発生する底積み的な部分と、失業率の示す景気の変化に応じて、経済的原因・動機の自殺数が大きく変化するという循環的・的変動的な部分があると考えられる。それを見るために直近の失業率と自殺率のピークだった2009年と16年を比べたのが図表4である。

これを見ると2009年と比較して、自殺総件数は約3万4000人から2万2000人に1万2000人減少している。減少のうち、経済・生活問題の自殺減少は、健康問題の自殺の減少とほぼ同じで41%を占める。

失業率と健康問題の自殺の間に関係性があるかのかどうかは不明だが(その可能性はある。なぜなら経済的困窮とその人の健康状態にはある程度相関関係があるだろう)、経済・生活問題の自殺の発生が失業率の変化が示す景気動向に強く依存しており、過去数年、失業率の低下に伴って大きく減少してきたことは、間違いないだろう。

先行研究論文:


図表1
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図表2
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図表3
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図表4
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今年4-6月期の実質GDP伸び率は2.5%となり、比較的高い伸び率となったが、賃金の伸び率は名目も実質も引き続き低調で、ちょっと上向いている消費もじきに息切れしてしまうのではないかという悲観的な見方もある。 

しかし、希望が持てるのは昨年後半から実質ベースの純輸出(=輸出-輸入)が伸びており、GDPの押し上げ要因となっていることだ。

上段の図は日銀が公表している実質輸出入である(直近データ8月)。実質というのは物価調整後の意味である。2016年後半から輸出が輸入を上回るようになってきた。下段の図は、その前年同月比の変化を示したもので、輸出の伸びが輸入のそれを2016年後半から上回るようになって来ていることがわかる。(このデータは輸出も輸入も2015年度を100とした指数なので、輸出と輸入の落差が国際収支の貿易収支と一致するわけではない点、ご注意ください)。

これは日本経済にとっても、安倍内閣にとっても順風だろう。円安にならないと輸出の伸びが落ちるのではないかと思う人もいるだろうが、そうでもない。2000年代以降の円相場と輸出入の動向を見ると、実質輸出入、あるいは数量ベースの輸出の増減と円相場の変化とはほとんど関係がなく、輸出の増減は海外景気動向(外需)の動きとの相関関係が高い。2016年後半以降、輸出が伸びているのも2015年に不安定化した世界経済が、2016年後半から穏かながら上向いているからだろう。

一方、為替相場との関係では輸出企業を中心に企業利益との関係性が高い。大雑把に言うと、円安では輸出企業は外貨建て価格を下げずに利益率を向上させる。一方、輸入企業は輸入仕入れ価格(円ベース)が上がるが、ある程度は消費者に転嫁できる。その結果、企業部門全体では利益増加となるわけだ。

さらに実質GDP成長率の項目別寄与度で見てみよう。2002年から07年までの景気回復期では、上段図で見てわかる通り、輸出の伸びが輸入を一貫して上回り、純輸出の寄与度は0.8%もあった。
一方で、2013年1Qから16年2Qまでの純輸出寄与度は0.2%にとどまった。

そのためこの時期は、「円安になったのに輸出が伸びない」と言われたわけだが、その主因は①輸出企業が円安になっても外貨建て価格を下げて輸出数量を拡大するよりも、収益性を向上させるような行動をとった ②中国を含む新興国経済の成長が鈍化、あるいは低迷し、世界的にも貿易量が低調だった ③企業が海外生産シフトを進めた等である。

ところが2016年3Qから17年2Qまでの純輸出寄与度は0.6%に上がってきた。おそらく①の事情は変わらないが、②の海外需要が穏やかな回復基調となったことと、③の海外シフトの動きが一服したからではなかろうか。 ちなみに2017年2Qだけの数字を見ると、純輸出寄与度は前期比でマイナスになっているが、2017年1Q比のブレであり、前年同期比では輸出が伸びる傾向は継続している。

輸出の伸びに加えて、雇用者報酬(実質)は2016年1Q以降平均で+2.3%(各四半期の前期比年率換算の平均)と堅調で、家計消費も同+1.4%と持ち直してきた。

来年にかけて世界景気の穏かな回復基調が継続する限り(そうなりそうな雲行きである)、日本も純輸出が景気を押し上げる効果が加わり、実質GDP+2%程度の景気回復が持続するのではなかろうか。 総選挙結果次第の面はあるが、与党の思惑通り勝ちを実現したら、「憲法9条の自衛隊合憲化改正」のみならず、順風を利用して各種の成長戦略、社会保障制度改革を含む難易度の高い改革を実行してほしい。


毎度のロイターコラムです。本日午前に掲載されました。

冒頭引用:「結論から言うと米国経済は底堅いものの、すでにトランプ政権による減税や大規模インフラ投資で大きな景気の上振れが起こるという今年春先までの期待は剥落している。その結果、円安・ドル高への戻りは限定的だろう。 
一方、円高方向については、目先数カ月では1ドル=100円前後までが変域だろうが、トランプ政権の後半期(2019―20年)には米国経済が次の景気後退に移行するリスクが高まり、再び1ドル=90円から80円の水準を見る可能性が高まるだろう・・・


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