たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2017年10月

「現代ビジネス」への寄稿、掲載です。

労働分配率の低下の問題を扱っています。

メインタイトル「個人消費がどうしても伸びないのはアベノミクス円安が原因だった」は、本文の内容をかなり単純化したものですので、そのようにご理解ください。

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抜粋引用:「アベノミクスの実績評価については、エコノミストの数だけ異なる評価が存在するような状態だ。とりわけ金融・財政政策については議論の対立が先鋭化しているが、本稿ではむしろ消費、雇用、所得配分という実体経済面について、その成果と問題について指摘しておこう・・・

・・・賃金上昇率の鈍さの背景にはこうした構造的な変化があると私は考えている。その結果、起こっていることは、国民所得に占める労働分配率の趨勢的な低下である。この問題は欧米でも見られ、その原因をめぐる内外のエコノミストの議論も盛んだ。次にこの点を考えてみよう

図表1
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図表2
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政権の寿命と景気動向に関係性がありそうなことは以前から感じていた。そこで遊びのような分析だが、戦後日本の内閣の寿命とその期間の日経平均株価指数(以下、「株価」)の騰落率の関係性を見てみたら予想以上に高い正の相関関係があることが分かった。

内閣の寿命は、内閣改造があっても首相が変わらなければ同じ内閣として計算してある。またわずか期間2か月前後で終わった超短命内閣(石橋、宇野、羽田)は、事情が特殊過ぎるので除外した。日経平均株価指数は月末データで、内閣成立月の月末から終焉前月末の比較である。

その結果が上段の散布図である(明細は下段の表)。決定係数0.608(R2)、相関係数0.780であるから、かなり高い正の相関関係だ。 株価指数(あるいはそれに代表される経済状況)→内閣の寿命という因果関係を想定した場合、株価指数の騰落率で政権の寿命は60%説明できることを意味する。

しかし、ちょっと待て。1980年代までは株価は概ね右肩上がりだから、長期政権ほど株価の上昇率も高くなるという逆の因果関係が生じるはずだ。そこで全期間騰落率を年率換算したものが、2段目の散布図である(やはり超短命の3内閣は除いてある)。決定係数(R2)は0.211まで下がるが(相関係数は0.46)、有意な結果が出た。

1989年末までの株価が長期的に右肩上がりだった時代の内閣の寿命と株価の関係は、株価(並びにその基礎となる景気動向)が好調→政権の長期化→全期間で見た株価騰落率アップという循環的な因果関係が働いていたと考えて良いのかもしれない。

ちなみに失業率との関係性も見てみたが、多少変数の設定を工夫してみても、有意な関係性は見いだせなかった。なぜだろうか。

内閣の寿命の要因となる「支持率」は、失業率のような実体経済のファンダメンタルな要素のみでなく、実体経済を基礎にしながらも株価の動向に反映されると思われる「社会の雰囲気(楽観、悲観)」という社会心理的な要因に依存している結果かもしれない。

分布の中でやや特異な存在は、小泉内閣だ。全期間株価騰落率は16%程度に過ぎないが、政権寿命は戦後3番目の長さだった。 ただし小泉内閣では期間中の株価がV字型で大きな変動をしている。2001年4月の内閣発足時から2003年4月まで、世界的なITバブルの崩壊と銀行の不良債権問題などが災いして株価は44%も下落した。

ところが、竹中大臣が最後まで不良債権処理の遅れていたりそな銀行への公的資金注入による事実上の国有化を宣言すると「銀行危機は終焉」との判断から、海外投資家が割安感のあった日本株買いに動き、株価は反転上昇、小泉首相の勇退となった2006年8月末までに株価は03年の底値から106%も上がっている。 実体経済も2003年頃から07年まで輸出の伸びが順風となり景気の回復が続いた。

つまり小泉政権については2001年から03年春まで経済的には難しい環境にあったが、それを乗り切った2003年以降の景気の回復と株価の上昇が政権の長寿化をもたらす順風になったと言えるだろう。

また鳩山一郎、竹下は、小泉とは逆で、期間中の株価の上昇率は高かったが、長期政権にはならなかった。鳩山一郎内閣の事情は私にはよくわからないが、竹下内閣は、リクルート事件で逆風となり、それにも関わらず消費税導入法案を成立させたことが、長寿化せずに支持率低下・政権交代となったのだろう。

さて現在までの第2次安倍内閣の分布上の位置は、株価は全期間上昇率で102%、年率では16.2%、政権期間は52か月と長寿政権の仲間入りとなった。第2次安倍内閣の株価の年率上昇率高度経済成長期の佐藤や吉田と並んでおり、その分布の位置は近似線のやや上である。

株価の動向はご承知の通り、政権発足当初から急上昇トレンドだったが、2015年8月に2万1000円手前で頭を打った後、2016年6月の1万5000円前後まで下落基調だった。ところが、その後再び盛り返してついに2万1000円を超えた(10月13日現在)。

政権の命運を賭けてうって出た10月22日に控えた総選挙も、一時大いに脅威となるかと思われた小池百合子代表の希望の党が失速し、自公与党で安定過半数の議席確保が見えて来た。景気動向も世界景気の回復で2016年以降は輸出が牽引役になっている。

高値を更新した日経平均株価は、安倍内閣の一層の長寿化を暗示しているのかもしれない。そうなれば、「アベ嫌い」の方々には、まことにご愁傷様な結果になりそうだ。



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希望の党が公約に「企業の内部留保への課税」を掲げた。もっとも「この点で修正もあるかもしれない」とも小池代表は語っているそうなので、現時点では真面目に受け止めてもあまり意味がないかもしれない。

日本経済新聞記事:「希望の党は6日発表した公約で、2019年10月の消費増税の凍結を打ち出した。代替財源として「300兆円もの大企業の内部留保の課税を検討する」と明記した。 小池氏は「2%課税すればそれだけで6兆円出てくる」と指摘」 

それでも上記のような記事を読んで、「日本の企業部門は2013年以降、アベノミクスの下で史上最高の企業利益を上げているのに、内部留保にばかり金を回し、現金・預金はじゃぶじゃぶで、投資や賃金には金を回さない。これがアベノミクス下での実感のない景気回復の実態だぁ」というような控えめに言っても、相当単純化された見方が出回っているようなので、本当の実態をデータで示しておこうか。

まず、企業部門のキャッシュフローと設備投資の推移を確認しておこう。以下の内閣府のレポートがわかりやすいだろう。内閣府「今週の指標No.1180」2017年9月26日

このレポートの図表が示す通り、2012年4Qを起点にすると、キャッシュフローは30%余りも増えている。一方、設備投資は同20%程度の伸びにとどまっている。

同レポートはキャッシュ・フローと設備投資の関係性が低下していることに注目しており、以下の様に指摘している。
引用:「大中堅企業の相関がリーマン・ショック後に弱くなっている背景の一つとしては、資金運用面での変化が挙げられる。企業規模別の資産構成の推移をみると、大中堅、中小ともに有形固定資産への比率が低下傾向にある中、大中堅企業は株式の比率が高まっている(図5)。

 資金が設備投資だけでなく、M&A等にも配分されるようになっているため、キャッシュフローと設備投資の相関が弱くなっている可能性があると考えられる。その一方で、中小企業はキャッシュフローの配分が比較的設備投資へ偏るため、キャッシュフローの動きと設備投資の動きが相関しやすいと考えられる。」

まず、キャッシュ・フローが増える一方、相対的に設備投資の伸びが低いならば、設備投資/キャッシュフロー比率は低下しているはずである。手間を省くために、人様のレポートでその点を示す。
以下のレポートをご覧頂きたい。  ニッセイ基礎研究所、斎藤太郎、2017年6月1日

このレポートの設備投資/キャッシュフロー比率の推移を示す図を見ると、同比率は80年代は100%を超えていたが、その後趨勢的に低下し、直近は60%弱程度である。つまり企業部門は債務を増やさずに、キャッシュフローの範囲内でしか設備投資をしなくなっている。

ただし図をよく見るとわかる通り、2010年以降は同比率は60%程度でほぼ水平に推移しており、2013年以降に一段と低下するような変化ではない。

さて、最後に日銀資金循環統計で非金融法人部門の①資産・負債差額/総資産比率(マイナス値は負債の超過を示すので、ここでは以下「負債比率」と呼ぶ)、②現金・預金残高/総資産比率、③保有株式残高/総資産比率の3つをグラフにしたのでご覧頂きたい。

青線の負債比率はマイナス幅を趨勢的に小さくしている。企業部門全体のマネーフローが貯蓄超過で推移している結果である。さらに細かく見ると、2000年から04年頃まで負債比率の急低下(マイナス幅の縮小)があった。これは90年代の負債比率の上昇に対する調整であると同時に、1997-98年不良債権危機でメイン銀行まで貸し渋りに走り、多くの企業が流動性問題に直面したことの反動でもあろう。当時、「債務の大きい企業番付」などが週刊誌で出回り、倒産予備軍のように言われたことが、企業財務を負債圧縮に走らせた面もあろう。

その後いったん負債比率は拡大するが、2008年以降は再びマイナス幅が低下し、2012年以降は現在までほぼマイナス45~50%の水準で安定化している。

増えているのは現金・預金よりも株式保有

一方で、現金・預金/総資産比率は上昇しているだろうか? オレンジ線で示した同比率を見ると、2008年から12年までは25%前後で推移しているが、13年以降は20%強の水準に低下している。つまり、冒頭のようなイメージとは異なり、2013年以降現在までの景気回復過程で現金・預金比率は上昇ではなく、低下しているのである。

(注:ただしこの点で統計により多少違いが見られる。日銀資金循環統計では上記の通りだが、財務省の法人企業統計では中小企業では現金・預金比率は2011年以降概ね横ばいだが、大中堅企業では2~3ポイントの上昇が見られる。ベースの相違がある。日銀資金循環統計はマネーフローを見るために文字通り金融資産・負債の諸項目だけで構成されている点に注意)

現金・預金に代わって顕著に増加している大きな項目は株式保有残高/総資産比率である(緑線)。2012年の18%前後から17年6月末には30%前後まで急上昇している。金額で言うと、2012年12月比で現金・預金残高は60兆円増加、株式保有残高は221兆円の増加である。

もちろん、この増加の一部は株価の上昇によるものだが、同時に内外でのM&Aや各種の他企業への出資(株式取得)が増えているのであり、それは前掲の内閣府のレポートも指摘している通りだ。 もっとも、80年代までのような財閥グループ内の株式持ち合いとは異なる経営戦略的な保有によるもので、近年の日本企業の内外M&Aの増加傾向と平仄が合っている。

最後に言い添えると、そうは言っても国民所得に占める資本・労働分配率は目立って資本分配率の上昇、労働分配率の減少という変化を示している(これは日本のみならず米国を含む先進国共通の傾向)。 これはある程度までは景気の回復過程で見られる循環的な変化であるが、既にそうした循環的な変化を越えているように思える(今回、この点はアバウトな指摘のみで済ませます)。

名目賃金をもっと上げないと消費需要の伸び悩みで実質成長率も高まらないし、望ましい程度の物価上昇も起こらない。この点はロイターの論考などで繰り返し強調して来た通りだ。

追記:やはり小池百合子氏も「内部留保」に関する基礎的な会計的理解ができていないと思わせる報道記事。





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