先日このブログで歴史学者、秦郁彦氏の「慰安婦と戦場の性」(新潮選書、1999年)をタイトルだけ紹介したが、ようやく同書を読み始めた。
440ページと分厚いが、わかりやすく、文献、資料の引用も実に丁寧で包括的だ。この本を読んでいれば、慰安婦問題に関する隣国政治家の妄言にも、日本の左翼運動家の扇動にも惑わされることもないだろう。
ちなみに秦氏の学歴、経歴は以下のwikiを参照、歴史学者として一流のアカデミズムの学歴、実績を有する方だ。
まだ前半の章を読んでいる段階だが、言論プラットフォーム、アゴラによくまとまっている書評を見つけたので、以下に紹介しておこう。 評者は石井孝明氏
引用(一部省略):本では軍と占領地の治安を担当した憲兵(軍警察部門)の詳細な記述が残されている。日本人が朝鮮から女性を狩り集めたという嘘の証言をした吉田清治が、それを嘘と認めた電話インタビューも掲載されている。
韓国の人々は「数十万人の朝鮮人女性が軍と警察によって拉致、もしくは挺身隊の名目で連れ去られ、戦地に連行され、売春婦にさせられた」と思い込んでいるらしい。日本でこの問題を90年代から騒ぐ人も、このような情報を吹聴した。
ところがこの本によれば、事実はまったく違う。
韓国の人々は「数十万人の朝鮮人女性が軍と警察によって拉致、もしくは挺身隊の名目で連れ去られ、戦地に連行され、売春婦にさせられた」と思い込んでいるらしい。日本でこの問題を90年代から騒ぐ人も、このような情報を吹聴した。
ところがこの本によれば、事実はまったく違う。
・太平洋戦争中、1万人から2万人の人が慰安婦として働いた。約半数が日本人で、2割程度が朝鮮人だった。
・慰安婦は二等兵(最下級の兵)の給料が月10円程度(戦地の加俸なし)のところ、月300円程度の収入があった例もある。
・軍や政府が、強制的に女性を集めた証拠はない。業者を前線近くで治安上保護し、また性病を避けるため衛生管理などをした例はある。
・女性が騙された例は多くあった。当時はいわゆる前借金を渡され返済するという形で事実上の人身売買が行われた。最初は親など肉親が娘を売る例が多いものの、女性に他の仕事がないために、そこから抜けられなくなることが多かった。
・女性が学校や職場などの単位でグループをつくり、工場などで強制的に働かされる女子挺身隊という制度があった。内地では半強制的に行われたが、朝鮮では大規模に実施されなかった。これと慰安婦との混同がある。
喜んで売春を仕事にする女性はほとんどいないだろう。しかも、それが騙されて行われた場合は大変気の毒だ。しかし一世紀近く経って、今の日本、そして私たちの世代が事実と異なる問題で責任を引き受ける必要はまったくない。
秦氏は、一部の活動家の事実に反した主張が、朝日新聞などの報道、そして左派系の政治勢力によって問題が拡大し、問題がこじれたことを中立的な視点で検証する。そして次のようにまとめた。
「(慰安婦問題は)少なくとも正義・人道を基調とする単純な動機から発したものではないようだ。おらくは内外の反体制運動体がかかえていた政治的課題にからむ、複合した思惑の産物であっただろう。それを誰よりも敏感に感じ取っていたのは、一人も名乗りをあげなかった日本人の元慰安婦たちだったと思われる。
だが一度火のついた政治キャンペーンを消火するほど、至難なことはない。煽られたマスコミやNGOは熱に浮かれたように興奮した。その熱気に押されて、日本政府は謝罪と反省を乱発した。」
***
ちなみに、私も対談や寄稿をしている雑誌「公研」の今年9月号で、秦氏の「歴史認識と歴史戦争、河野談話以後の日本とアジア」と題した講演録が掲載されている。その一部を引用しておこう。
引用:「慰安婦は、数から言えば日本人が一番多いのです。しかし日本のマスコミは、日本人の慰安婦には興味がないのですよ。私はまだ慰安所や慰安婦の実態がわからない頃に、新聞社の人に『あなた方は支局網があるのだから、探せばすぐに日本人の慰安婦がみつかる。そうすれば、いろいろなことがわかるはずだ』と言いました。しかし、『日本人ですかあ・・・・』という感じで新聞記者は全く興味や関心を示さなかった。
結局、日本人の元慰安婦で名乗り出た人は一人もいませんでした。考えてみるとヘンな話なんですよ。日本人慰安婦は、一切論議の対象になっていない。」
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なぜ社民党の元党首や朝日新聞などは、韓国まで元慰安婦を求めて出向いているのに、足元の日本の元慰安婦については関心も調査もしてこなかったんだろうか? もし左派の倫理観が本当に普遍的な人権尊重の立場に立脚するのであれば、自国の元慰安婦問題こそ一番に関心を向け、調査するのが自然だろう。
これは私の推測で、秦氏も同様の示唆をしているが、様々なケースがあったにせよ、慰安婦の実態は、隣国と日本の左翼の方々が喧伝した「性奴隷」という表現とはかなり乖離したものだったからだろう。これは秦氏の著作のなかで明らかにされている。
隣国では奇妙なナショナリズムの激高でエキセントリックに日本政府を弾劾し、賠償を求める元慰安婦の「発見」に一部マスコミは成功し、それを政府批判の政治的な材料に使うことができたわけだ。 ところが日本ではそうした元慰安婦に遭遇できず、政治的な攻撃の材料に使えない。政治的な攻撃に使えないどころか、自らが広めた「性奴隷」という表記とはかなり違う慰安婦の実態が明らかになってしまう。従って関心も向けなかった。そういうことではなかろうか。
また、慰安婦制度を有さず、その代わりに日本人、中国人、朝鮮人の見境なく侵攻地でレイプの限りを尽くしたソ連軍の問題は追及されるべきだし、日本の慰安婦の実態はドイツや英米軍の有様とも比較して論じられるべきだろう(秦氏の著作は第5章「諸外国に見る戦場の性」でそれやっている)。ところが日本の朝日新聞など左派メディアはそうした当然のことをほとんでやらず、関心も向けてこなかった。これも上記の事情を想定すれば、納得できることだ。
最後に蛇足だが、秦氏の講演録が掲載されている雑誌「公研」9月号、偶然ながら私も「予測の限界と適応戦略」と題したショートエッセイを掲載している。 同誌同号の掲載お隣の論者は、佐々木毅(東大名誉教授)と上田隆之氏(資源エネルギー庁長官)、アラララ、随分と立派な方々と並んでしまった(^_^;)
http://www.koken-seminar.jp/new.htm (←公研のサイト)
追記:ワシントンDC 古森さんの論考
近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日
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