たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

タグ:アメリカ情勢

今回の米国の中間選挙とその結果を通じて、米国の保守とリベラルの政治的二極化は戦後で最も際立ったレベルになった感がある。二極化の傾向は過去幾度も指摘されてきたが、おそらく1970年代頃まで遡るトレンドだろう。

いわゆるpolitical correctnessを破壊しながら当選したトランプ大統領は、そうしたトレンドから生み出された現象であると同時に、二極化・分断を一層煽る政治的な存在として働いている。二極化・分断の原因は一言で表現できるほど簡単ではないが、主因のひとつはアメリカ社会の民族的構成の長期的な変化だ。

民主党にはリベラル派の白人層と非白人層の票が集まり、共和党には保守派の白人層の票が集まる傾向が一層顕著になっている(以下掲載WSJの図、参照、有料サイト)。

リベラル派の人々にとって、アメリカ社会の理想と優位は、多民族、多文化を許容する寛容さにある。
保守派の白人層にとってアメリカは欧州から移民した白人の国であり、中南米からの移民であるラティーノの増加に代表される人口構成の変化は、自分らの社会のアイデンティティを脅かすものと感じている。

米国のセンサス調査では、このまま人口構成の変化が続くと2050年までには、自らを白人と申告する人々は半数割れとなり、少数派になってしまう。 political correctnessが抑制していた「このトレンドを止めろ!」という要望、衝動が噴出して、保守派とリベラル派の白人&非白人層の間でちょっと和解しがたい分断が生じている。

こうした傾向がやがて米国社会のアイデンティティの変容、危機に至る可能性について、保守派の立場から警告した著作としては故ハッチントン氏の「分断されるアメリカ(Who Are We?)」(2003)がある。

また中間的な意見層が細り、二極化した政治は民主主義にとっても危機をもたらす要因となるだろう。その点ではリベラル派の論者によるトランプ政権批判でもあるこの著書が参考になる。「民主主義の死に方(How Democracies Die)」(2018)

さらに関連して、ポールクルーグマンの2008年の著書「格差は作られた(The Conscience of
a Liberal)」では、共和党が経済的な格差拡大政策をとりながらも(あるいは格差拡大を放置しながらも)選挙では大衆的な支持を獲得することに成功しているという「米国戦後政治史上の最大の謎」について、クルーグマンは1960年代の黒人の公民権運動を契機に、白人層にある根強い民族的、人種的偏見を共和党は取り込むことで成功したと説明している。 

当時私はそれを読んで、1970年代、あるいは80年代頃までなら、それでかなり説明できるかもしれないが、2000年代以降の今日までその効果で説明するのは無理ではないかと思ったのだが・・・実はそうでもなかったのかもしれない。  

クルーグマンは必ずしも明示的に書いていないのだが、彼の含意をくみ取ると、90代年以降はラティーノ人口の増加に対する抵抗感、民族的偏見、つまりこのままでは白人社会のアイデティティが脅かされるという保守的な白人層の不安、焦燥感が再強化され、移民増加に否定的な姿勢をとる共和党への支持を維持する要因として働き続けたのかもしれないと、今回考え直すようになった。

2020年の大統領選はどうなるんだろうか?分断の修復を志向する候補が出るだろうか?ますます分断化の傾向を強める政治闘争になるんだろうか。今のままだと、後者の可能性が高いだろう。

以前も書いたが、私は接戦ながらオバマ大統領の再選を予想しているが、その可能性が濃厚になってきたと感じている。
そう感じさせる事情を幾つか示しておこう。
 
1、選挙の世論調査は沢山行なわれているが、調査によってばらつきがあり、ひとつひとつ見ていたのでは撹乱されるばかりだ。以下のサイトは主要な世論調査を網羅して、その分布の平均的な状態を示してくれている。これを見ると8月下旬からオバマのロムニーに対する優位が広がっている。
 
2、ご承知の通り大統領選挙は州別の「選挙人数」の取り合いなので、2000年のブッシュvsゴアの時のように全米での得票数では僅差ながらゴアが勝っても、州別の取り合いの結果、ブッシュが勝ったというようなことが起こりる。
そこで焦点は接戦州の帰趨だ。それでも以下の記事の報じるようにオバマが一歩リードしているようだ。
Obama holds leads in three key states.
 
 
3,JETROのレポート(New American Policy Sept.13)は上記のような情勢を以下のようにまとめている。
「オバマ選挙本部の判断で2012年の選挙でロムニー共和党候補に対してオバマ大統領を有利にしているのは選挙人制度を基盤とする州別の趨勢で、要は次のようである。

オバマ大統領は2008年の選挙で獲得した州のうち、今年はどちらに動くか分からない11州があるが、そのうちフロリダ以外のいくつかの州で勝ちさえすれば、これら州の中で選挙人数が29人で最大のフロリダ州を失っても勝利となる。
逆に、ロムニー候補は仮にフロリダ州を獲得できなければ、残りの10州を全て獲得しなければ勝利が困難になる。」
 
大統領選挙の帰趨を決す最後の勝負は毎度TV討論だ。演説、討議の上手さは私はオバマがロムニーに対して一枚上手だと思っている。TV討論が最後の決め手になるだろう。
 
弊著「ラーメン屋vsマクドナルド」(新潮新書、2008年)に1章当てて書いたことだが、米国で保守派が大統領選挙で勝つ時は、国外の敵の脅威、減税、保守派の価値観(銃、中絶禁止、同性愛忌避)の保守3点セットで求心力が保守派に働くことが大切な条件になる。 
 
しかし今回はそうした情勢にない。ロムニーが価値観では保守と言うよりは中道に近いことも弱点になっている。国外に脅威になる敵もいない。保守派の求心力が固まる情勢ではないね。
 
追記:ロムニー、失言も目立つね↓
 
 
 
竹中正治HP
http://masaharu-takenaka.jp/index.html (←ホームページ、リニューワルしました(^^)v)
最近facebookでの書き込みを活発化しております。本ブログのリピーターの方はfacebookでお友達リクエストをして頂ければ、つながります。
 

日本時間の本日行なわれたオバマ大統領の一般教書演説(State of the Union)は以下のサイトでフル動画とフルテキストを見ることができる。
 
テキストを見ながら演説を動画で視聴すると英語の訓練にも最適だと思う。
アメリカという国を理解する生の素材としても、とても有益だ。
 
やはり国が難しい情勢下にあるときにこう言う風に鼓舞できる政治的なリーダーシップって、日本にも欲しいなあと思う。
 
 
演説の最後の部分からの引用
That dream – that American Dream – is what drove the Allen Brothers to
reinvent their roofing company for a new era. It’s what drove those students at
Forsyth Tech to learn a new skill and work towards the future. And that dream is
the story of a small business owner named Brandon Fisher.
 
Brandon started a company in Berlin, Pennsylvania that specializes in a new kind
of drilling technology. One day last summer, he saw the news that halfway across
the world, 33 men were trapped in a Chilean mine, and no one knew how to save
them.
But Brandon thought his company could help. And so he designed a rescue that
would come to be known as Plan B. His employees worked around the clock to
manufacture the necessary drilling equipment. And Brandon left for Chile.
 
Along with others, he began drilling a 2,000 foot hole into the ground, working
three or four days at a time with no sleep. Thirty-seven days later, Plan B
succeeded, and the miners were rescued. But because he didn’t want all of the
attention, Brandon wasn’t there when the miners emerged. He had already gone
home, back to work on his next project.
 
Later, one of his employees said of the rescue, “We proved that
Center Rock is a little company, but we do big things.”
We do big things.
 
まるでアメリカ版「プロジェクトX」ですねえ。
 
地上にある星を誰も覚えていない♪
人は空ばかり見てる
つばめよ高い空から教えてよ 地上の星を
つばめよ地上の星は今 何処にあるのだろう~♪

 

↑このページのトップヘ