「新幹線とリニア 半世紀の挑戦」(村串栄一、光文社、2012年1月)を読んだ。
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「事故になれば大騒ぎ、何事もなければ報道されず」がこの世(マスコミ)の常だ。

東日本大震災の津波でメルトンダウンを起こした福島原発事故が、日本の高いと思われてきた技術力への不信にまで発展するのも、まあやむを得ない面もある。しかし未曾有の大震災にもかかわらず、最高時速300キロを超える東北新幹線が、脱線もなく、ひとりの死傷者も出さずに済んだことは、実は驚くべき事実ではなかろうか。

本書がスポットを当てるのは、そうした「無事であたりまえ」を実現するために費やされてきた技術陣をはじめとするJRの裏方の努力だ。

海岸に設置された地震の初期微動を感知する地震計からの信号が「5秒早く」列車を自動的に止める仕組み、1964年の新幹線開業前夜から「いかに時速200キロ以上を出すかよりも、非常時にどうやって安全に止めるか」を議論、研究し続け、今では車両は時速420キロでも出せるが、安定的に出せるのは時速360キロまでという技術力を過信しない姿勢などが紹介されている。

「世界一速い高速鉄道を実現する」ことに面子をかけ、多数の死傷者を出す衝突事故を起こした某国との違いが対比される。

大規模な津波を想定せずにメルトダウンを起こしてしまった福島原発と東京電力、一方で「無事」を実現した新幹線システム、その分岐を生み出したのは何だろうか?ハード、ソフトの狭義の「技術力」を超えた「思想」「思考法」にあるのかもしれないと、本書は感じさせる。

次の夢の実現は2027年を目標にしたリニアである(第5章)。リニア技術についてはドイツは先行していたが、事故を起こし、ドイツ国内でのリニア建設計画は放棄されてしまったという。
ぜひ日本で安全で超高速のリニアを実現して欲しい。

竹中正治HP