安倍内閣が「地方創生」の施策を強調し始めたが、これまでの旧い自民党が繰り返してきた施策とどれほど質的に違うことができるのか、危惧の念をもって見ている。
結局、過去の自民党の施策は、地方への公共事業を含む各種のバラマキ系施策で終わり、根本的な改革につながって来なかった。
1970年代の田中角栄による地方への公共事業バラマキ政策に始まり、最たるものはやはり1987年のいわゆる「リゾート法」と呼ばれる「総合保養地域整備法」だろう。 地方自治体は地域振興を掲げてリゾート・ブームに踊ったが、結局、不動産・建設バブルを地方に拡散しただけだ。90年代に入ってから、第3セクター方式でつくられたこうした各種の事業が赤字を抱えて立ちいかなくなったことは、みなさんご承知のことだ。
90年代以降、景気がちょっと回復過程に入ると必ず出回る言説が、「好調なのは東京など都市部だけだ。地方は景気回復から取り残され、地域格差が拡大している」というものだ。 そうした流れの中で、政治家は次の選挙のことを意識しながら、「地方再生」「地域振興」のためのバラマキ施策に走るという構図の繰り返し。
そういう風潮に一石を投じようと、2007年に日経ビジネスオンラインに以下のような論考を寄稿したら、「大炎上」だった(^_^;)
地域間格差拡大論のウソ
格差縮小をマクロ指標はなぜ無視されるのか?
今日の日経新聞にも気になる記事が出ている。
消費の格差鮮明
都市復調、賃金増え高額品堅調 地方低迷、ガソリン高が足引っ張る 9月23日朝刊
引用:「消費増税後の個人消費を巡り、復調する都市と低迷する地方の格差が鮮明になってきた。22日発表の食品スーパーの8月の販売統計では、首都圏を含む関東が4%超伸びた一方、中国・四国や近畿は減少が続いた。大都市部では高額品も売れ始めた。ボーナス増などが消費増につながる都市部と、ガソリン高が家計を圧迫する地方の違いが、消費の二極化を引き起こしている。」
都市復調、賃金増え高額品堅調 地方低迷、ガソリン高が足引っ張る 9月23日朝刊
引用:「消費増税後の個人消費を巡り、復調する都市と低迷する地方の格差が鮮明になってきた。22日発表の食品スーパーの8月の販売統計では、首都圏を含む関東が4%超伸びた一方、中国・四国や近畿は減少が続いた。大都市部では高額品も売れ始めた。ボーナス増などが消費増につながる都市部と、ガソリン高が家計を圧迫する地方の違いが、消費の二極化を引き起こしている。」
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本記事のデータは以下のサイトで見ることができる。
引用されているスーパー販売動向自体は事実なんだが、この記事を見て「やはり地方は景気回復から取り残されている」と単純に結論しないで欲しいね。 他の事も同じだけど、経済というのは多面的な実態だから、たったひとつのデータで結論できるものじゃない。逆にいうと、例えばゾウのしっぽをつかんで「ほらみろ、ゾウというのは蛇のように細い動物なんだ」なんていう主張が簡単にできてしまうんだ。
別の面として雇用データを見てみよう。掲載図上段は地域ごとの有効求人倍率とその前年同期比の変化だ。 上記のスーパー販売販売統計では中国・四国地方の不振、関東の好調が強調されているが、有効求人倍率とその変化を見ると、中国・四国は関東圏とそん色がないか、あるいは若干上回っている。
下段の図は都道府県別の失業率だ。失業率を低い順に並べて、東京は全国平均よりも少し高いが、順位ではほぼ中位の水準でしかない。中国地方の県は東京より失業率が低い。また大阪や京都など大都市をかかえる府県でも全国平均より失業率は高い。
所得については都道府県別の2013年度の県民総生産がまだ出ないので、安倍内閣後の変化を検証できないが、公表されたら、上記の2007年の論考でやったように長期の格差拡大トレンドが検証できるかどうかやってみよう。
「地方」という時、いったいどこのことを言っているんだろうか。それをきちんと特定しないまま、地方=景気回復立ち後れ⇒地方経済テコ入れのための財政バラマキという構図の繰り返しはやめて欲しい。
小峰先生(元内閣府、法政大教授)が、どこかで次のような趣旨のことを書いていた。
「日本の政治は『弱者』を特定して、必要な支援を提供する術が実に下手で、結局支援すべき相手を限定・特定しないまま、『地方』とか『高齢者』とか実に曖昧・不正確な広いカテゴリーを対象に財政資金をばらまいてしまう」(記憶で書いているので文章は私の文章です)。
実に的を得た指摘だと思う。
追記:小峰先生の文章が見つかったので、以下引用しておきます。
「高齢化対策、中小企業問題、農林水産業振興策などを見ていると、日本の政策は「弱者を絞り込む」のが苦手で、どうしても同じ条件の対象を平等に助けようとし、その結果、支援が広く薄くなってしまい、政策的効果が発揮できないことが多い。地域振興にも似たようなところがあり、これがバラマキの土壌になる可能性がある。」