たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

タグ:就職

以下の東洋大の一件については、私はあまり関心がないのだが、問題の学生君が竹中平蔵氏をもの凄く批判する理由について、その発言が引用されている。

引用1:「東洋大学白山キャンパス(東京都文京区)に立て看板を設置し、ビラをまき始めた学生が『退学を勧告された』事件について、当学生の船橋秀人(ふなばし・しゅうと)さん(23)に26日、話を聞いた。」
https://www.data-max.co.jp/article/27769/?fbclid=IwAR0dYLvvaOPHdhvQlr2PG9J79glMW-oCvwsMbnwTMbqSVEORke62akHUtRA
 
引用2:「竹中(平蔵)さんのことは、予備校時代に知った。2003年の労働者派遣法の改正を主導し、非正規雇用の労働者をこれほどまでに増やした。」
 
2003年の労働者派遣法の改正については以下参照。

「小泉政権・竹中平蔵大臣が労働者派遣法の変更で非正規雇用者を大幅に増やした」という批判は、この学生に限らず左翼系の方々の間で広く判を押したように共有されている認識の様だ。しかし控えめに言っても針小棒大な勘違いであり、はっきり言えばどこかの左派政党のアジビラなどをデータの検証もなしに鵜呑みにしている結果だ。
 
竹中平蔵氏は私の兄でもないし、親戚筋でもないが、事実に反するトンデモ論が横行するのは気味が悪いので手短に事実だけ指摘しておこう。
 
事実は以下の通り。

図表1:対象となる労働者派遣事業所の派遣社員数は非正規雇用全体の6%でしかない。
 
図表2:非正規雇用比率の上昇は、1990年代から民主党政権時代を通じて上昇して来た。
  それが上げ止まって37~38%でフラットの推移になったのは安倍政権下2014年以降だ。

図表3:非正規雇用が増える一方、正規雇用は長期的に減る一方のようなイメージを語る人が少なくないが、実は正規雇用総数は長期で見ると3千数百万人前後で比較的安定している。
生産年齢人口の減少にもかかわらず正規雇用が安定しているため、25歳~64歳の人口に対する同年齢の正規雇用者数の比率は上昇している。この点は以下論考参照。
 
図表4:2003年の労働者派遣法の改訂以降(施行は翌年3月から)の非正規雇用者の増加全体に占める派遣社員カテゴリーの増加の寄与度は12%に過ぎない。

また第2次安倍政権期の雇用者の増加は468万人(正規雇用161万人、非正規雇用306万人、増加した非正規の大半は女性と65歳以上高齢層)、一方民主党政権期の雇用者の増加は48万人、しかも正規雇用は50万人の減少、非正規は98万人の増加だ。
 
最近、安倍首相が「民主党政権期の悪夢」と語ったことが話題になった。安倍首相が何をもって悪夢と言ったのかは私にはわからないが、リーマンショック後の景気回復期にスタートした政権であるにもかかわらず、その雇用に関する成果は確かに悪夢だったと言って良いだろう。

なお、非正規雇用の長期的な増加要因は90年代に起こった日本の労働市場の構造変化によるもので、日本の労働経済学者の間で概ね見解の一致があるようだ。私にとっては専門外だが、過去の論考の中で説明して来たことなので、ここでは省略させて頂く。

図表1
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図表2
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図表3
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図表4
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以上


追加図表:一人当たり実質GDP成長率の主要国比較
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雇用形態別雇用者数の12月のデータが出たので、グラフを更新した結果です。

2014年12月の総選挙では民主党をはじめ野党から「安倍内閣は雇用を増やしたというが、増えたのは非正規雇用ばかりだ!」と攻撃されました。しかし2015年から正規雇用も増え始め、結果は図表の通りです。
...
野党諸兄は「安倍内閣が正規雇用制度を損なうような政策をしているからだ」と言うような攻撃しましたが、そのような事実は私には見出せません。

当時の民主党は安倍内閣への当てこすりを意図したのでしょうか、選挙キャンペーンで「夢は正社員」というコピーを流しましたね(下に添付)。夢がかなって来ました。共に喜びを分かち合いましょう!(^_^;)

景気の回復にもかかわらず、なぜ2013年に正規雇用が減り、非正規雇用が増えたのでしょうか? 
これは仮説ですが、2012年から14年は日本の段階の世代(生まれが1947年から49年)が65歳になった年です。つまりそれまで正規雇用でやってきた団塊の世代が65歳で引退し、仕事を続ける場合も非正規雇用のステータスになったことが大きく影響しているのではないでしょうか。

もちろん住宅ローンの返済も子育ても終わった65歳以降世代が仕事をする場合、非正規雇用となって給与が下がっても基本的に問題はないでしょう。大学の教員でも60代後半の定年引退後(私立大の場合)も、講義を担当することがありますが、基本的に非常勤講師です。

この点のきちんとした実証は、労働経済学専攻の研究者にやって頂きたいです。


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今週号のThe Economistsが“What's wrong with America's economy?” 
並びに“Why ever fewer low-skilled American men have jobs"の2つの記事で低スキル労働者の失業が構造的(慢性的)になっている問題を指摘している。 
日本も次第にその傾向が出てきているようなので、とりあげておこう。
 
“Strong productivity growth has been achieved partly through the elimination of many mid-
skilled jobs. America had employment problems long before the recession, particularly
for lesser-skilled men. These were caused not only by sweeping changes from
technology and globalisation, which affect all countries, but also by America’s habit of
locking up large numbers of young black men, which drastically diminishes their future
employment prospects. America has a smaller fraction of prime-age men in work and in the labour force than any other G7 economy. Some 25% of men aged 25-54 with no college degree, 35% of high-school dropouts and almost 70% of black high-school dropouts are not
working”
 
要するに低学歴、低スキルの労働者層を中心に職を得られない状態が恒常化している。そのことの基本的な原因はITを中心にしたテクノロジーの進歩と、経済のグローバル化が進む一方で、要求されるスキル水準を満たせない労働者をアメリカの教育、社会が大量に生み出してしまっているためだと書き手は判断している。 もちろんカレッジ卒(大学卒)なら大丈夫というわけではない。大学卒=高スキルという保証はないからだ。
 
記事はあまり詳細に語っていないが、ITを中心にしたテクノロジーの進歩は、相対的に低スキルのホワイトカラーの仕事を大きく減少させていることが複数の研究で明らかになっている。グローバル化は、製造業だけでなく、一部のサービス業も様々な形で海外にシフトしていくことを念頭において書いているのだろう。
 
もちろんだからと言ってマクロ的に雇用そのものが減少する必然性はないのだが、先進国でビジネスサイドが雇用の条件として要求するスキルの水準と供給される労働者のスキルの水準の間にミスマッチが生じていると書き手は理解しているようだ。
ミドルクラス労働者の2極化が進んでいる状況とも関係している。
 
この点で日本はまだ総じて雇用が守られている方ではある。以下の図表は同記事のものであり、25-54歳の男性の就業率である。色がうまく出ないので分かりにくいが、一番上96%前後の水準にあるのが日本、一番したの90%割れそうな黒い実線が米国だ。しかし下げトレンドにあるのは同じ。
 
どうしたら良いのか? 先進国とし経済的に豊かな水準を維持したければ、労働者全体のスキルを技術進歩に見合った水準に引き上げていくしかない、というのが記事の主張。もちろん、容易なことではない。
  老世代は見捨てて、世の中をイノベートする若い世代が続々と登場してくれるのが一番良いのだが・・・その点ではGoogleやface bookなど新機軸で世界を席巻するビジネスモデルを創出するアメリカにはまだ望みがある。日本はどうかな?
 
追記
NY Timesに関連したこういう記事も出ていると友人がコメントしてくれました。
For U.S. Workers, Global Capitalism Fails to Deliver
関連してこういう論文も(以下)。
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