たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

タグ:景気

毎度のロイターコラムです。
今回は消費者物価指数の回帰分析と推計予測をやってみました。

冒頭引用:「日本経済は4半世紀ぶりの人手不足となった。失業率は2.8%(4月)まで下がり、有効求人倍率は1.48倍(同)といずれも1990年代初頭までさかのぼる水準だ。

ここまで来ると賃金が上がり、消費の増加を伴ってインフレ率が上がっても良さそうだが、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は前年同月比0.3%(4月)にすぎず、低インフレから日本は抜け出せていない。
一方、米国でも2008―09年の大景気後退からの回復過程で低インフレが続いたものの、今や消費者物価上昇率は2%台に乗り、緩やかな金利引き上げに加え、非伝統的金融政策で膨張した米連邦準備理事会(FRB)のバランスシートの正常化が視野に入り始めた。
何が日本の低インフレ脱却を阻んでいるのか、またそれが円相場や株価に意味することを考えてみよう・・・」

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追記:伊藤隆敏先生の日本の物価に関する予想、かなり楽観的です(以下URL)。
恐縮ながら、私の見通しは、伊藤先生のとはかなり違うものになってしまいました。1~2年経ったらレビューしてみましょう。

引用:「それでも、伊藤教授はインフレ圧力の顕在化は近いとみる。教授の分析によれば、失業率と賃金・物価の関係を描いたフィリップス曲線は「日本ではL字型だ」と指摘。80年代から、1)インフレ率が下がっても失業率の上昇は限定的、2)物価が小幅なマイナス圏に停滞する中で失業率が上昇、3)失業率の低下が進んでも物価が上がらない、局面を経てきたが、今や賃金とインフレ率が上がっていく「L字の角に差し掛かりつつある」と言う。
  原油価格がこれ以上大幅に下がらないことと、為替相場が安定的に推移して極端な円高が避けられることを前提に、伊藤教授は「これからは物価が上がるだろうと楽観的に見通すこともできる。黒田総裁はたぶん、それを望んでいる。希望も含め、上がる可能性は高い」と読む。」


本日5月13日の日経新聞記事で報道されていた件、仕組みはシンプルな感じです。

JCER公表サイト↓
 
判断の基礎となる景気動向指数の先行指数CIが、数か月連続して低下し、その下げ幅が大きいほど景気後退確率が急上昇するように作成されていると説明されています。そしてJCER景気後退確率が2か月連続で67%(一標準偏差の変動域)を超えると景気後退の「早期警戒シグナル」が点灯したと見なすようにルール化されています。
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そうやって計算された景気後退確率と、内閣府の研究所で事後的に判断される実際の景気後退の過去の推移を比べると、2つのずれが目につきます。ひとつは2012年に起こったミニ景気後退、この時JCER景気後退確率は67%の早期警戒域よりかなり低い値のままで信号は点灯しませんでした。
もうひとつは2014年4月の消費税率引き上げ後の落ち込みです。 JCER景気後退確率は早期警戒シグナルを点灯させていますが、内閣府は事後的にも景気後退とは判定していません。

この2つのずれは、おそらくJCERでこの指標の作成に関わった人達にとって悩ましいものだったと思います。

もちろん、内閣府の景気循環の判断が絶対正しいというわけでもないでしょうが、内閣府の判断は数か月以上遅れて、全ての経済データが改定値も含めて全部でそろってから事後的に行うものなので、リアルタイムに近い形でシグナルを出すJCERの景気後退確率よりも「最終判断」として尊重すべきでしょう。
 
私の意見としては、2012年は景気変動に遅効的な雇用動向やその水準の低さ、現物不動産価格の下落等々を勘案すると「ミニ景気後退」と考えられます。一方、2014年は先行CIの下落幅は2012年に匹敵しますが、雇用の改善が途切れなかったこと、その水準も12年時よりずっと高かったことなどを勘案すると景気後退と判断しなくて良いのではないかと思います。

以下掲載図は日経新聞記事から

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一般向けの講演などで「竹中先生は、株も不動産も不況の時に買って、好況の時に売りなさいと言いますが、景気の良し悪しは何を見てればわかるんですか?」と尋ねられる時がある。

「最低限、新聞の経済欄を読んでいればわかるだろう」と思うのは、私がエコノミストだからのようだ。

世間には、自分とその周囲の情報だけで景況を判断する「俺の財布が基準派」から、「安倍政権の下での景気回復なんか絶対にあり得ない。認めない」という極度の「政治的色めがね派」等々沢山いるから、「景況がわからない」というのもわからなくはない。しかも日本だけでなく、海外主要国、世界の景況となると「全然わからない」というのはむしろ一般的な景況認知なのだろう。

そんな方に「だったら、これだけ見てなさい」と言えるのがOECD Composite Leading
Indicatorだ。主要国(主に先進国)は自国の景況判断に複数の景気関連統計データを合成して、何かしらの総合景気指標を作成、公表している(日本では内閣府の景気動向指数)。 それらのデータをベースに各国別、地域別に作成されている。グラフ機能も使いやすいので対象国、地域、期間を指定してグラフにできる。

サイトのcustomizeのボックスでcountryやtime&frequencyを指定し、データをグラフにしたり、エクセルにダウンロードしたりできる。

指標は、趨勢的な水準が100になるようにできている。従って次の様に4通りに読み分けるのが妥当だろう。

100を割って下降している:景況水準✖、方向性✖(下げ幅が大きければ景気後退)
100を割っているが上昇している:景況水準✖、方向性〇
100を超えて上がっている:景況水準〇、方向性〇(上げ幅が大きければ好況)
100を超えているが下がっている:景況水準〇、方向性✖
 
より最終的、包括的な景気動向判断(景気後退期、回復期の判断)は内閣府が公表しているが、これは最終的な(確定的な)判断であり、1年前後も遅れて判断、公表されるので、事後確認になるだけである。

そこで現下の日本と世界主要地域の景気動向を同指数で見ると、2016年後半、あるいは第4四半期から揃って上向きの方向になっていることがわかる。米国ではトランプ政権のオバマケア代替法案が連邦議会の承認を得られずに撤回になるなど、株式市場では不安要因も出始めたが、トランプ政権への期待先行が調整される局面を迎えただけであり、実体経済の強さはまだ暫く続きそうである。


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毎度のロイターコラムです。ただ今配信されました。
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冒頭部分引用:「ドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利の直後に私が一番恐れたのは、米国が日本をはじめアジアの同盟国に対する関与を低下させ、それによって生じる地政学的な変化が軍事的な膨張主義を隠そうとしなくなった中国有利に傾くことだった。

しかし、日米関係については安倍晋三首相のアプローチが奏功し、とりあえずは杞憂に終わりそうだ。マティス国防長官に代表される同盟関係を重視する閣僚たちの影響力も、この点でトランプ政権の脱線を食い止める力として働いている。

日本の景気動向も持ち直しの動きが次第に鮮明になってきた。昨年11月に始まった「トランプ相場」と呼ばれるドル高とそれに伴う株価上昇も加わり、日本経済はしばし春の陽気を楽しむ暇ができたと言えるだろう。

ただし、今後4年間を展望すると、2009年を底に始まった米国の景気回復はトランプ政権の後半までには後退局面に転換する可能性が高い。それに伴い日本も再び景気後退と円高・株安となるリスクが高まるだろう。

したがって、私の中期的な投資の基本方針としては、日本株はポートフォリオ上のウエートダウン、ドル建て資産についても為替のヘッジ率の引き上げである。そう考える理由をご説明しよう・・・」

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論考の後半部分の米国経済見通しに関する内容については、2月15日にJCERで行いました講演資料をご参照ください。以下、私のホームページに掲載しました。



黒田緩兵衛殿の意表を突くようなマイナス金利導入の発表で、円高&株安リスクは一服した感じになった。 もちろんマイナス金利と言っても、銀行が日銀においてある当座預金残高に対するこれまでの付利(0.1%)が、今後の残高増分についてマイナス0.1%が適用されるだけだ。

マイナス金利の適用方法については、以下日銀のサイトご参照。

もし既存の230兆円もある銀行の日銀当座預金全体に対して、0.1%の付利からマイナス0.1に変更したら、銀行業界には年間で4600億円の収益減、コスト増(230兆円×0.2%=4600億円)が発生するが、さすがにそのような不測の混乱を引き起こしかねない激変政策は採らなかった。

それでも日銀当座預金での「資金運用増」という手段を抑えられた銀行としては、まだプラスの金利が残っている国債の購入を増やさざるを得ない→国債価格一段の上昇(利回り低下)で8年物利回りまでマイナス領域に入った。↓以下サイト参照

もちろん、私達の銀行預金金利がマイナスになることは想定されていない。もし仮に通常の銀行預金にもマイナス金利が現状のままで導入されると、「金利徴収」を嫌がる企業や個人は銀行預金の現金での引き出しに殺到し、金融緩和どころか銀行の流動性不足→信用の縮小すら起こしかねないからだ。

しかし「現金保有」という手段を廃止してしまえば、通常の銀行預金も含めた全般的なマイナス金利の世界を実現することは可能だ。お金を借りると利息を払うのではなく、逆に利息がもらえる世界、金利プラスの世界に生きて来た私達には反転・倒錯した異次元世界のように感じるが、どういうことになるのか考えてみよう。

まずマイナス金利を回避するために現金での保有を禁止するためには、紙幣とコインを廃止して、支払いは全て銀行預金と連動したキャッシュカード(あるいはクレジットカード)で行うようにすれば良い。これは技術的には全く可能だ。

その上で、銀行の日銀当座預金残高への適用金利を例えばマイナス1%にする。そうすると銀行間のマネーマーケットの金利(コールや現先取引の金利)もマイナス1%になる。また国債利回りも、短期国債はマイナス1%、20年物国債がかろうじてわずかにプラス金利、両者の中間の期間の利回りは期間の長短に応じてマイナス金利のイールドになるだろう。

銀行の短期の資金貸借市場であるマネーマーケットと預金金利の間には、多少なりともプラスの利ザヤが維持されるとすると、例えば普通預金、当座預金の適用金利はマイナス1.5%になる。
-1.0-(-1.5)=+0.5 それで銀行は0.5%の利ザヤが得られるからだ。1年物定期預金金利も例えばマイナス1.0%となる。

既に優遇レートでは1.0を割り込んでいる住宅ローン金利(変動金利)も例えばマイナス0.5%になるかもしれない。 企業向けの短期プライムレートもマイナスになるだろう。銀行は預金から1%~1.5%の利息を得られるので、0.5%の利息を払って融資しても0.5%~1.0%の利ザヤが確保できるからだ。

こういうマイナス金利体系になると、個人も家計も預金で金利を払うぐらいなら、少しでもプラスのリターンがあるもので運用しようとする。その際の選択肢は、不動産、株式、プラス金利の外国の金融資産である。

その結果、マンションなどは買われ、賃料利回りが4%程度だった物件は、賃料利回りが3%、2%と下がる水準まで価格が上昇する。株価は配当利回りが2%だったものは、やはり買われて配当利回りが1%、0%と低下するまで価格が上昇する。海外の金融資産の購入が増えるので、外為市場では円売り・外貨買いで円安が進むことになる。

消費は増えるか? 預金に置いておいても年間1%も減るのであるから、特に耐久消費財などは早めに買っておこうとして購入が増えるかもしれない。また不動産や株価が上昇するので富裕層を中心にプラスの資産効果が働き、消費が増えるだろう。

これまで銀行借り入れや社債発行での資金調達による設備投資に消極的だった企業も、利息収入が手に入る借り入れに積極的になり、得た資金を預金で置いておくと、それ以上に利息を払わなくてはならないので、これまで伸ばし伸ばしにしていた設備の更新投資などを積極的に進めるだろう。

このように考えると、以上の変化は、プラス金利の世界で金利引き下げ(金融緩和)がなされた変化と基本的に同じである。そういうわけで、マイナス金利の世界でも、金利体系全体が整合的に形成されるならば、金融緩和による景気押し上げ効果が期待できると考えて良さそうだ。 その結果、資産価格の上昇だけでなく、インフレ誘導にもなるだろう。

紙幣とコインを廃止して預金にマイナス金利を適用することは、「減価する紙幣」を提唱した19世紀生まれのドイツ人、シルビオ・ゲゼルの考えたことと基本的に同じである。以下参照

それじゃあ、金融政策の4次元の扉を開いて、本格的なマイナス金利の世界に移行してみるか?
ただしこの政策の障害は技術的な壁ではなく、むしろ政治的な壁だろうか。

果たして有権者は銀行預金にマイナス付利が行われることを想定した紙幣とコインの廃止に同意するだろうか? 「ローンをすれば、金利がもらえますよ」と説明しても、ローンもなく、多額の預貯金を保有している日本の富裕高齢者層は預金のマイナス金利に強く抵抗するだろう。彼らにとっては、デフレはむしろ歓迎なんだろうね。



賃金抑制が景気の回復を脆弱にしている

アベノミクス下での景気回復が、雇用の改善をもたらしているのに、賃金が抑制されているため消費の伸びが低迷していおり、これを乗り越えないと目標の実質成長率もインフレ率も達成できないまま、再び不況となり、株価や不動産などの資産価格の下落とともに円高デフレに戻ってしまう危険があると前回トムソン・ロイターのコラムで詳述した。

国民所得上の分配の変化を示すのが上段の図である。

国民所得に占める雇用者報酬の比率(青色)は90年代に上昇した後、その後趨勢的に低下している。90年代にこの比率が高かったのは、団塊の世代が年功的な給与体系の中で最も給与水準の高い年代だったという人口動態的な要因が強く働いている。

賃金の変化は企業利益に比べると動きが安定しているので、循環的に雇用者報酬の比率は不況期には上がり、好況時には下がる。そうした循環的な変化を除去した趨勢的な変化として雇用者報酬の比率が下がっている。

もっとも家計には企業部門から配当の形で所得が移転しているので、配当、賃料、利息などの家計財産所得も加えて見るべきだろう(緑色)。それでも趨勢的な下落傾向が見られる。

国民所得分配の詳細を示す「確報」は発表が遅く、2014年までしか利用できないが、2015年第3四半期まで、国民総所得(グロス)に対する雇用者報酬の比率(赤色)で見ると、やはり2013年以降、アベノミクス下で、雇用者報酬の比率は低下している。逆に言うと、企業利益の比率が上がり続けているのだ。

企業利益の推移については以前書いたこちらのブログ、ご参照。

企業利益が上がらないことには経済は成長しないのだが、問題はバランスだ。雇用者報酬の伸びが抑制され、企業利益のみが大きく上伸し、しかも企業部門が設備投資を増やさずに貯蓄を増やす(債務を返済する)現在のパターンでは、短期的にも長期的にも自律的な経済成長率の上昇につながらない。

円安下の価格転嫁の構図も企業利益好調、家計所得不振に作用している

家計所得不振、企業利益好調の構図を生み出している要因は、賃金抑制に加えてもうひとつある。これが今回のブログでの新しい点なのだが、円安とそれに伴う輸入価格の消費者物価への転嫁の構図が、家計の実質所得不振、企業の実質利益好調に働いている。

これが第2の図である。横軸が輸入物価指数の前年同期比の変化、縦軸が消費者物価指数(総合)の同変化である。青色は2009-12年の円高時期の分布、赤色が2013-15年のアベノミクス下での円安時期の分布である。 

輸入価格の変化が消費者物価の変化に波及するまでタイムラグがあるので、図では輸入物価の変化を6か月先行(=消費者物価の変化を6か月遅行)させてある。当然、双方には正の相関関係があるのだが、2013年以降の分布ではそれ以前に比べて、右肩上がりの近似線の傾きが、ぐっと急になっていることに注目頂きたい。

つまり2013年以降は輸入価格の上昇が、それ以前よりずっと消費者に転嫁されるようになっているのだ。一方、外貨建ての輸出価格は2013年以降の円安ではあまり引き下げられていないことが別途確認できる。

その結果、円安による輸出サイドの為替益は企業部門の収益を押上げ(外貨建ての価格の引き下げは近年ではあまりされないので輸出数量の伸びは抑制され、生産増→雇用者所得増の効果は限定されている)、一方輸入再度の価格上昇(為替損)は消費者に(全部ではないが)より転嫁される構図となっている。

これが現下の雇用者報酬の伸びの抑制、企業利益絶好調のトレンドをもたらすひとつの要因になっていると思われる。もちろん、輸入価格の国内価格への転嫁自体が悪いわけではない。むしろ輸出サイドで生じる収益増が家計に還元される経路が十分働いていないことが問題なのだろう。

企業行動の合理性としては、賃金抑制、仕入れ価格アップの価格転嫁はみな合理的なのだが、ミクロの合理性が集合的には望ましくない結果をもたらす合成の誤謬の典型だろうか。 安倍内閣も黒田日銀総裁も、賃金アップに期待する発言を繰り返しているが、賃金アップを促進する政策的な工夫をもっとしないと、景気回復は自律化せずに、脆弱な状態が続いてしまう。

本件に関する私の関連論考


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統計データを恣意的に選択、加工して自分の仮説に都合のよい結果を抽出するのは、研究者として戒めるべきことだが、中にはデータを加工し、自分の偏った政治的な主張にとって都合のよい結果を捻り出す方々もいるので注意しなくてはならない。

そんな典型的な悪しき例を週刊エコノミスト8月11-18日号「学者に聞け、視点争点」「アベノミクスの勝ち組は巨大企業だけ」で見た。個人批判が目的ではないので当該著者の名前は書かないが、著者によって歪められる前のデータの示す本当の姿をここに提示しておこう。

この著者の主張は、アベノミクスによって生じた景気回復は、大企業の利益を増加させただけであり、中小企業は取り残されており、むしろ利益はマイナスにさえなっているという主張が財務省の法人企業統計で「裏付けられる」と言っている。

まず奇妙なことは, ①電力業と不動産業を除外している(除外の理由が述べられているが、私には意味不明)、②大企業として資本金10億円以上の企業を対象にしているのは良いだろうが、中小企業としては資本金1000万円以上1億円以下の企業のみを対象にしており、なぜか1000万円以下の企業が除外されている。

以上の選択的に加工されたデータを使って、「アベノミクスにより、巨大企業の利益は拡大している。それは全体のパイが大きくなったわけではなく、巨大企業に有利なように分配方法を換えた結果に過ぎない」という主張が「データでも裏付けられた」と言っている。しかもアベノミクス期としては2013年度の1年度のデータのみである。

著者が示すデータの詳細は、同雑誌をご覧頂くとして、ここでは2000年度から9月1日に公表された2014年度までのデータに基づき、また電力業と不動産業を除外せずに、かつ中小企業として資本金1億円未満のすべての企業(つまり著者が除外した1000万円以下の企業を含めて)を対象にデータを見ると、どのような姿が浮かぶか、それをグラフで示すことにしよう。

大企業も中小企業も利益の回復・増加度はほぼ同じ
まず以下の図1,2,3は、2000年度から14年度までの営業利益、経常利益、税引き前当期利益の推移を、資本金10億円以上の大企業と1億円未満の中小企業に分けて示した。リーマンショック後の不況の底である2009年度を100として指数化してある。(データは財務省法人統計、金融・保険を除く全産業)(金融・保険が除かれているのは私の選択ではなく、オリジナルデータ自体がそのようなカテゴリーでできているためだ)

2009年度を起点に見ると、営業利益ではやや中小企業の増加度が大企業のそれを上回り、経常利益では双方とも同じ程度、税引き前当期利益で見るとやや大企業の増加度が中小企業を上回る。このトレンドについてアベノミクス以降の2013年度、14年度も変わりはない。 概括して大企業も中小企業も同じ程度に回復、増加している。 ほとんどこれ以上コメントすら不要なほど明瞭だ。

大企業と中小企業の利益率の格差はアベノミクス前から存在しているもの
もちろん、ここで私は利益の時系列的な変化を指摘しているのであって、大企業と中小企業の間にある絶対的な格差を否定しているのではない。その点を見るために、大企業と中小企業の利益率の推移を見てみよう。

図4,5,6は上記と同じ3種の利益の売上高に対する比率(売上利益率)である。これで見ると、いずれの利益率で見ても、「大企業の利益率>中小企業の利益率」が趨勢的に存在していることがわかる。

線形近似線を描くと、売上高・経常利益率は僅かに格差縮小トレンド、売上高・経常利益率と税引き前当期利益率は僅かに格差拡大トレンドを示している。 ただし重要なポイントは、大企業と中小企業の利益率格差は、アベノミクス開始前から存在してものであり、アベノミクス開始で格差拡大に転じたとは、データを見る限り到底言えないということだ。

むしろ利益率格差は、景気回復が持続すると拡大し、景気後退時にはむしろ縮小する循環的な傾向を示しているようであり、2003-07年の景気回復期にも同様の格差拡大が見られ、2009年の不況期に格差は縮小している(ただし1億円未満というデータのカテゴリーは2003年からしかないので、90年代に遡ってそれが循環的なものであること十分に示すことはできない)。

最後に従業員給与・賞与+福利厚生費の推移を見ておこう。図7
この分野でも、給与など増加は大企業ばかりという見方が世間で根強いのだが、データが示す事実はやや異なる。ただしこのデータは総額の変化であって一人当たりの変化ではない点に注意、つまり
「雇用者数×一人当たり人件費」の変化を示している。

図7が示す通り(2009年=100)、資本金10億円以上の大企業に比べて1億円未満の中小企業は2011年度、12年度は、給与・賞与+福利厚生費総額の相対的な増加度がやや大きい。ただし、2013年度、14年度はむしろ違いが縮小し、ほぼ横ばいだ。 

興味深いことに資本金1000万円の小企業は2011年度に大きく増加している。これは中小企業を対象にした雇用助成金の影響かもしれないが、もっと詳しく調べないとわからない

以上、総括するとアベノミクスによる景気回復が大企業ばかりに恩恵を与え、中小企業は置き去りにされているというのは、データを素直に読む限り、その支持を得られないと言えよう。もちろん、アベノミクス以前から大企業と中小企業の格差は存在しており、それが解消に向かっているわけではないが、ことさらに拡大しているものでもないということだ。

むしろ現下の日本経済の問題は、企業部門の利益面での好調さにもかかわらず、それが労賃の増加として家計に十分還流しない点にあると私は考えている。その点は既に以前論じた通りだ。
以下ご参照

法人企業統計は以下のサイトで利用可能

http://bylines.news.yahoo.co.jp/takenakamasaharu/  Yahooニュース個人

                              図1

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図2
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図3
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図4
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図5
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図6
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図7
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毎度のトムソン・ロイター社のコラムです。ただ今掲載されました。


冒頭部分引用:「以下の4つの事情で、中国経済の成長率は深刻な下方屈折を起こしている。構造的な変化に適応しなくてはならない中国の苦しい過程は始まったばかりだ。他の国々も程度の違いこそあれ中国経済の失速から受ける実体経済面の負のインパクトに備える必要がある。また、新興国投資全般は当分の間、高リスク・低リターンの「冬の時代」に入るだろう。順番に説明しよう・・・」


結論部分引用:「今回の中国ショックは投資家層が中国の経済成長率の将来期待(予想)を下方シフトさせた結果であると同時に、BRICSブームに代表される大型新興国投資の「冬の時代」の到来を示唆していると思われる。

これら諸国の株価や対ドル為替相場も、アジア通貨危機時のような激発性の暴落は回避されるかもしれないが、軟調基調が続き、高リスク・低リターンを余儀なくされる期間が長期化しよう。新興国への株式投資をするのであれば、これからが買い場なのかもしれない。ただし、リターンを上げるまでに相当長い期間の辛抱が必要になりそうだ。

一方で、米国で9月に利上げが行われるかどうか、今回の事態で微妙になったと言われるが、2008年の金融危機から7年を経て、今では米国経済に目立った金融的な不均衡や脆弱性は見られない。
記述の通り中国の内需低迷、輸入減少の負の影響度も米国は最も軽微である。

また、日本は追加的な経済対策がなければ対中輸出減少による負の影響をある程度免れない。米国経済全般の相対的な優位が持続することになろう。」

以下掲載の上段の図はロイターと同じです。
下段の図は、OECD合成景気動向指数とMSCI-Emerging ETF(ドル建て)の変化の相関関係を示したものです。ロイターには図表を1つしか掲載できない制約があるので、このブログで掲載しておきます。

一点言い添えると、日本の景気動向指数(先行)がTOPIX株価指数をひとつの項目として含んでいると同様に、OECDの合成景気動向指数も国によって株価指数をひとつの項目として含んでいるので、ある程度の相関関係が出るのは当然です。それでも株価は大局的な景気動向全般に連動していることを散布図は示していると思います。

追記:ロイター社のサイトは他社のサイトへのURLの添付を会社の方針として許容していないので、代わりに本文中で引用した重要な資料や記事のURLをここにはっておきます。
既存大手メディアって、引用が雑だったり、不親切なんですよね(^_^;)

The Guaradian
The Economist
JCER(ただし当該資料の掲載されたフルレポートは会員限りでした)


 
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毎度のトムソン・ロイター社でのコラムです。ただ今掲載されました。
当ブログでは部分的にすでに書いてきたことですが、まとめて論考にしました。
ご覧になってよろしければ、ロイターサイト上で「おすすめ」とかクリック、お願い致します。

冒頭部分引用:「毎度メディアの報道は国内総生産(GDP)に集中するが、同時に内閣府から公表されている国内総所得(GDI)、国民総所得(GNI)も合わせて見ると、現下の日本経済の順風と回復基調をより鮮明に理解することができる。

結論から言うと、2014年4月の消費税率引き上げ後の短期的な景気低迷から抜け出した日本経済にはGDPの変化で見る以上の順風が吹いており、目下の国内要因には特段の悪材料は見当たらない。海外経済の急変がない限り、景気の回復は中期的に持続するだろう。

行き過ぎた円安の悪影響を懸念する声もある。確かに120円台のドル円相場はインフレ調整後の実質で見ると、1980年代前半のレンジとほぼ同じ程度の円安方向へのオーバーシュートであり、長期的には揺り戻しが必至だろう。しかし後述するように、それが日本の交易条件を目立って悪化させているわけではない。」
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本論では具体的に指摘しませんでしたが、4月の家計調査(5月29日公表)では、二人以上世帯の所得は名目も実質もプラスで良いのですが、消費支出がなぜか落ち込んでおり、冴えません。

引用: 
  ・消費支出は,1世帯当たり  300,480円
           前年同月比  実質1.3%の減少      前月比(季節調整値)  実質5.5%の減少
                             名目0.5%の減少
    ・消費支出(除く住居等※)は,1世帯当たり  257,004円
           前年同月比  実質1.4%の増加      前月比(季節調整値)  実質3.5%の減少
                             名目2.2%の増加
    ・勤労者世帯の実収入は,1世帯当たり  476,880円
           前年同月比  実質2.0%の増加
                             名目2.8%の増加
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 まあ、単月のデータですので、実質所得の増加基調が継続すれば、消費もトレンドではプラスになるでしょう・・・と判断して、コラムは日本経済強気見通しで書いています。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/takenakamasaharu/  Yahooニュース個人
↑New!YouTube(ダイビング動画)(^^)v









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実質国民総所得(GDI)の高成長

3月のブログで2015年の日本経済は実質国民所得(GNI)ベースで3%を超える高成長となると書いた。
2015年1-3月期の国民経済計算結果(速報値)が5月20日に発表され、その通りの方向に進んでいることが確認できたので、報告しておこう。

前回説明したことだが、各カテゴリーは以下の通りである。
実質GDP:実質国内総生産 一年間に国内で生産される付加価値の実質総額
実質GDI:実質国内総所得 GDPから交易条件の変化で生じる交易利得(あるいは損失)を加減  
      したもの
実質GNI:実質国民総所得 上記GDI に対外的な所得(主に配当と利息)の受取と支払のネット(つま   
      り国際収支上の所得収支)を加えたもの (昔はこれがGNPと呼ばれていた)

図は実質国民所得(GNI)と実質GDPの前比年率の成長率だ。2015年1-3月の実質GDP成長率はメディアでも報じられている通り+2.4%だった。 一方GNIは+3.7%とGDP伸び率を1.3%超えるものとなった。これは3月のブログで指摘した通り、交易条件が原油価格などの急落で5.9兆円(年換算)改善したことが主因だ。

また2014年10-12月期のGNIは6.1%とさらに高い成長率だった。この期は交易条件の改善はまだほとんどなかったが、一段の円安が進んだことで所得収支(国際収支表の経常収支の一部で海外からの受取利息や配当から支払い分を差し引いた収支)の円建てベースの黒字額が前期比5.6兆円増加した影響が主因である。

内閣府は全てのデータを公表しているのだが、メディアの報道がGDPのみに集中しているのは、私には奇妙なバイアスに思える。GDPに注目するのが国際的に一般化しているとは言え、それは一種の慣習に過ぎない。

経済は複合的多面的現象なのだから、もっと複眼的な視点があってしかるべきなのだが。

在庫変動要因の正しい見方

また実質GDP成長率+2.4%(前期比年率)について、明らかに早とちり、あるいはミスリーディングなコメントがメディアに流れているので、指摘しておこう。

データ公表日の5月20日の日経新聞夕刊では、成長率としては予想平均(+1.5%前後)を上回る数字だが、在庫の増加が大きく(寄与度で+2.0%)、内容的に良くないというエコノミストらのコメントが目立っている(以下参照)。大丈夫かな、この方たち、後からちゃんとデータ見て「しまった!」と思っているんじゃないかな?
 
20日の日経新聞夕刊、引用:「野村証券の木下智夫チーフエコノミスト
1~3月期の実質国内総生産(GDP)が2四半期連続のプラス成長となったのは、民間消費と在庫の伸びが主な要因だ。民間消費は実力をやや上回った数字で、在庫も市場予測を大きく上回った。」

 「BNPパリバ証券チーフエコノミスト 河野龍太郎氏
1~3月の実質GDP成長率の押し上げに大きく寄与したのは在庫の増加で、これを除くと緩やかな回復にとどまった。」
 

以下が在庫変化の実数だ(単位:10億円)。
2014/1-3    -5,150
2014/4-6      +1,074
2014/7-9      -2,131
2014/10-12  -3,229
2015/1-3        -970

在庫の増加はGDPにプラスに寄与するが、それが意図せざる在庫の積み上がりならば、景気の悪化を示唆する。

2014年1-3月は消費税率引き上げ前の売り上げの伸びで在庫は5.1兆円減少、しかし4-6月には1兆円の増加となり、これは売上減少、景気悪化による在庫増だった。その後、在庫の圧縮が起こり、2.1兆円減少、3.2兆円減少と続き、2015年1-3月に減少幅は0.97兆円に減った。

GDPに与える変化としては「在庫減少額の減少=在庫の増加」であり、GDPにプラスに寄与している。しかしそれは2014年4月以降に生じた意図せざる在庫増とは反対で、在庫の圧縮が進み、在庫減少額が小さくなった結果として生じている。

つまりこの在庫変化のデータが正しい限り、景気判断的にはむしろ良い変化を示唆していると考えるのが妥当だろう。(もっともGDP1次速報値の在庫は推計値ですので、改訂値でどう変更されるか、不確実な面は残っている。)

さすがに日経新聞は翌日の朝刊(5月21日)では、その点を報じているが、以下のさらりとし過ぎた解説では、読者は十分に理解できないだろう。

21日の日経新聞朝刊、引用:「在庫は1~3月期も10~12月期も前の期に比べ減ったが、減少幅は1~3月期の方が小さかった。これがGDPの伸び率を高める方向に働いた。」また

また今回から内閣府は在庫変化の内訳も公表するようになった(以下のサイトの最下段)。
「在庫変動の振れがGDPの変化に与える影響が大きくて、四半期予想が難しい。在庫変化の内訳も公表してくれ」という趣旨の要望があったらしい。

4月以降の注目点

さて、今後4月以降のデータで注目は、実質賃金の変化だ。昨年度は名目賃金伸び率が消費税率増税による消費者物価指数の上昇に追いつかず、実質賃金は下がり、これが野党やアンチ・リフレ派のエコノミストらによってアベノミクス批判の材料になった。

今年4月以降のデータは一転、実質賃金の増加(前年同月比)となるだろう。これも以前のブログで予想済みだ(以下参照)。

もっとも消費者は前年同月比の変化に反応するわけではない。変化への反応はもっと短い時間で生じるだろう。実際に、消費者態度指数や景気ウオッチャー調査では既に緩やかな改善傾向が始まっていることが観測できる。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2015/0513watcher/bassui.html (景気ウオッチャー調査)

2015年はやはり日本経済順風の年になりそうだな。
それを素直に喜ぶことのできない民主党など野党の皆様方、アンチ・アベノミクスのエコノミストの皆様方、ご愁傷様です。


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