たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

タグ:株式

ダイヤモンドオンラインへの寄稿です。今朝掲載されました。

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冒頭部分引用:「米国経済の景気がピークアウトしつつあることを示唆する経済指標が出始めているにもかかわらず、7月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げが行われるという金融緩和期待で米国株価は高値を更新した。 

 株価の変化は景気の変化を先取りすることもあるが、逆に遅行することもある。その例として、リーマンショック前の2007年の展開を想起しておくべきだろう。

 その年の夏、すでに住宅ローンの証券化債券などに投資していたパリバ銀行系のヘッジファンドが行き詰まり、「サブプライム危機」の言葉がすでに市場ではキーワードになっていた。ところが、米連邦準備理事会(FRB)による8月の0.5%の政策金利引き下げを好感して、株価は上昇し、高値を付けたのは10月だった。その後、翌2008年のリーマンショックに至る展開はご承知の通りである。

 筆者は昨年1月に米系メディアのコラムで、「米国の次の景気後退が始まるのは2020年前後1年」と予想したが、その基本認識は今も変わっていない。ただし、2019年中の景気後退の可能性は遠のき、2020年中の可能性が一層高くなったと考えている。景気後退に伴って株価も大幅な下落に転じるだろう。そう考える理由と覚悟すべき下げ幅について説明しよう・・・」

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2008年のリーマンショック以降、長期的には持続不可能な信用・債務膨張に支えられた中国経済が、ようやくハードランディング的な債務調整局面に入りつつあるように見える。


私が「中国バブルの『ミンスキーモメント』」 (ロイターコラム、20161月)を書いてから3年である。


中国はその金融システムの国家統制色が強いため、金融システムが資本市場型の米国はもとより、銀行中心型の日本のケースよりも、時間を引き延ばしたスローモーションでバブルはピークに達した後、崩壊するのだともとより予想していたが、ようやくその時が到来するようだ。

そうした状況を描いた直近の記事として福島香織さんの記事を掲載しておこう。

既に世界の各国株式市場と投資家は、中国経済の危機と不況からその国の経済・ビジネスがどの程度影響を受けるかを株価に反映し始めているのではなかろうか。

200708年の米国の金融危機では、証券化された債券を海外の投資家が莫大に購入しており、その価格が暴落することで金融危機の第1波が海外に波及した。しかし中国の場合は、そうした連関は弱い。むしろ「中国経済の失速、不況への移行」海外から中国への輸出の減退という実体経済を通じた波及の方がメインになるだろう。

そこで、各国の対中国輸出の対GDP比率(データは中国の輸入サイドのデータを使用、2015年のデータ)と過去1年間の各国主要株価指数の変化の関係性を検証してみた。中国の輸入に占めるシェアの大きい順に16か国を対象にした。

株価の変化は20192月末時点の前年同期比(%)である。私の考えが正しければ、対中国輸出のGDP比率が高い国ほど、その国の株価指数は相対的に下がっているという負の相関関係があるだずだ。

その結果を散布図と表にしたものを以下に掲載した。結果は私の予想以上に関係性が高く、相関係数(R)は-0.714、決定係数(R2)は0.510である。負の相関の場合、相関係数はゼロからマイナス1までの変域となる。-0.714はかなり高い。決定係数0.510とは、Rの平方根であり、説明度を示すものだ。

対中国輸出のGDP比率が最も高く、株価も相対的に大きく下がっているのが、マレーシア、ベトナム、韓国である。反対にインド、英国、米国は影響度が最も低く、インドと米国の株価指数は前年同月比プラスだ。英国の株価指数がマイナスであるのは、言うまでもなく中国の影響ではなく、合意なきEU離脱リスクを反映したものだろう。日本の受ける影響度はこの16か国の中では平均よりやや若干高い程度だ。

ふ~む、こんなに鮮明に相関関係が出るとは思わなかった。株式市場というのは、非合理的な局面もあるが、大局的にはある意味では素直なんだろうね。


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お知らせ:Yahooブログが2019年12月でサービスを終了するというので、はてなブログに移転することにしました。新規投稿は随時、旧投稿は5月以降に移転する予定です。移転先は以下サイトです。



毎度の講談社、現代ビジネス、マネー現代に掲載されました。
掲載では図表は3つに絞ってありますが、あと2つ補足図表をここに掲載しておきます。


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一部引用:「日経平均株価指数や米国のS&P500などに連動した投資信託やETFで長期分散投資(インデックス投資)を行う個人投資家が日本でも増えてきたようだ。
そこで株価のボラティリティ指数を利用することで、インデックス投資の中長期のリターンを劇的に引き上げる簡単な手法をご紹介しよう・・・

最後に「こんなに簡単に長期の投資リターンが上がるなら、なぜ投資家はみなそうしないのか?」という問いに答えよう。

まず金融機関のディーラーと呼ばれる人達はその職務の性質上、短期売買を運命付けられており、長期投資の手法を利用できない。また生保や年金運用の委託を受ける機関も長期性の資金でありながら、毎期ベンチマーク対比で評価されるため2~3年間もナンピンを継続するような本当の長期投資手法は使えない。それができるのは個人投資家だけなのだ。

またアカデミズムでは「株価指数が示すような市場平均の投資パフォーマンスを長期にわたって上回ることはできない」という効率的市場仮説が依然支配的である。

しかし現実の市場でこの仮説が適用できるのは8~9割程度の平常な局面であり、残り1~2割程度の局面では投資家は過度な悲観や楽観に捕らわれる。

そうした局面では価格形成の合理性が壊れ、株価の過小評価や過大評価が発生する。ボラ指数を手掛かりにそうした極端な局面で逆張り投資することでリターンの向上が実現できるのだ。

筆者が考えるインデックス投資でリターンを向上させる要諦は、①景気後退期に買い、景気回復期に売る、②インデックスがその長期移動平均から乖離度が大きくなったら逆張りする、③本論で述べたボラ指数を重要な判断材料とする、以上の3つである。

筆者自身は3つの観点を総合して投資判断を行っている。ここで示したボラ指数の一定水準で売買を行う試算は、ボラ指数の有効性を検証するためのものであり、実際の運用はもう少し柔軟性があってもいいかもしれない。」

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図表1から3は掲載本文と同じものです。
図表4は本文中でケース④として示した投資の累積投資額と資産時価評価額の推移を示したもの。

図表5は日経平均VIの下位16.5で日経平均ETFを売り、上位33で買った場合に、各売買時点で日経平均の3年移動平均値をどの程度上回っているか(売りの場合)、あるいは下回っているか(買いの場合)の分布を示したものです。

売りの場合は99%で3年移動平均値を上回っており、平均上回り率は17%、買いの場合は89%で3年移動平均値を下回っており、平均下回り率は22.6%です。

つまり日経平均VIの水準を手掛かりに売買することで、中長期的なbuying low selling highが実現できることを示した散布図です。



図表1



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図表2
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図表3
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図表4
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図表5
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講談社、現代ビジネス、マネー現代、今朝掲載されました。

「リーマン級の株価下落で、公的年金の評価損は「40兆円」を超える
それでも長期分散投資を続けるべき理由」

引用:「事前に単年度でどれほどの評価損が生じ得るか試算を示そう。その上で、公的年金の積立金が外国株を含むリスク性資産を保有することには、単に長期的なリターンを向上させる以上の意味があることをご説明しよう・・・」


株価のベアーな雰囲気が広がっている時に火に油を注ぐようで恐縮ですが・・・
「日経平均1万5000円!ドル円1ドル90円かそれ以上の円高!」

竹中正治の紫婆化か?
いやいや、過去の景気循環と株価、円相場の関係性に基づいて見込みを立てれば、その程度の中期循環的な揺れ戻しは自然な結果と言うだけです。
今朝掲載されました。


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引用:「筆者は10円幅かそれ以上の次の大きな動きは円高であり、日本株も円高に連動して下落し、日経平均で2万円割れの下げとなる公算が高いと考えている。その理由をご説明しよう。
ドル円相場はどの程度まで円高に振れるだろうか。景気後退には至らなかったが、中国の景気急減速と株価急落が起こった「チャイナショック」の2015年後半~16年前半、ドル円相場は120円台前半から100円近辺まで円高に振れた。

それを参照して考えると、来年以降、米国の景気後退がはっきり見えて来た段階で前年比10%程度の円高は最低限覚悟すべきだろう。さらにFRBが金利の引き下げに動いてドル円の金利差が縮小すれば、1ドル90円かそれ以上の円高も自然な結果だろう。

仮に米国株が既述の通り1950年以降の平均30%前後の下落を起こすと想定すると、図2の関係から日本株の下落は直近の高値から40%前後は下がることを覚悟する必要があるだろう。

今年の日経平均の高値が24448円なので、40%の下落で14668円となる。私としては次期景気後退時に日本株の底値が日経平均で1万5000円前後までにとどまれば「上出来」だと思っている。」

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毎度のロイターコラムです。
本日昼前に掲載されました。


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「米国株に黄信号、1月の高値超えられない訳=竹中正治氏」

冒頭引用:「[東京 24日] - 米国の株価指数S&P500は今年1月26日に高値2872.87を付けた後、ボラティリティー・インデックス(VIX指数)を巡るショックで久しぶりに高値から10%強の反落となった。

その後もフェイスブックの情報流出問題、トランプ米大統領による「アマゾン・ドット・コムたたき」、「米中貿易戦争」など、投資家心理を冷やす悪材料が相次ぎ、安値の更新はないものの方向感のない上下動が続いている。

今年1月のコラムで当時のVIX指数の歴史的な低水準への下落が、むしろ次の株式市場の激震を示唆する不気味な予兆であると指摘したが、それは早くも2月初旬の「VIXショック」として実現した(参考コラム:「次の米国景気後退と株価下落余地を考える」2018年1月10日付)。

こうした状況下、企業利益予想が前年比で2桁%の増益予想を維持していることが投資家の心の支えになっているようだ。筆者も今年いっぱいは米国景気が失速することはないと考えている。

しかし、米国株が今年1月の高値を年内に大きく更新することはあまり期待していない。むしろ戻り高場面では多少売って米国株式の比率を下げるか、何かしら部分的にヘッジをした方が良いだろうと判断するに至った。この点を説明しよう・・・」

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ご承知の通り米国株の歴史的な高値更新が続いている。「買いたいけど急落が怖くて買えない」あるいは「下落場面を買おうと思っているが、大きな下落がないので買えないまま」という投資家も少なくないだろう。 図表1参照。

たしかにリーマンショックの局面では、S&P500は2007年7月の高値から09年3月の安値まで約50%下落している。円建てで見ると、その時のドル安円高で下落幅はさらに大きかった。 リーマンショックのようなことがそうそう何度も起こるわけではないが、株式は過去大きな下落を繰り返している。 今は景気回復が継続し、今年は巡航速度からの上振れも期待されているが、いずれ景気後退局面になれば、大きな下落は不可避だ。

今年の1月のロイター・コラムに1950年以降の米国景気と株価の変動について以下の様に書いた。

引用:「景気後退が始まった場合、米国株価はどの程度その時の高値から下落するだろうか。1950年までさかのぼって景気回復期の高値から景気後退期にS&P500株価指数がどの程度下がるか見ると、景気回復期の株価の高値から景気後退期の安値までの下落が10回、さらに景気後退にはならなかったが、30%以上の下落が起こったことが2回(1987年と2002年)ある。直近高値からの平均の下落率は31.2%、下落率最大は49.9%(1973―74年)、最小は14%(1959―60年)である

 下落し始めたら売って逃げよう」と考えているのは、短期売買のトレーダーか素人筋だけだ。ちょっと下げ始めたからと言って、それが大きな下落への助走なのか、単なる一時的な小反落なのか、リアルタイムで知る方法などないからだ。 

 30%前後の株価の下落に耐えられないようでは、そもそも長期投資として株式投資をする資格はないのだが、まあ、ここはそう言わずに米国株を対象にポートフォリオの変動リスクを緩和しながら、ある程度高いリターンを確保する定石をご紹介しよう。

 別に特別なことではない。内外の株式から債券までポートフォリオに抱えている機関投資家ならみな承知していることだが、個人投資家でそれを理解して利用している人々は稀だ。

 まず米国株はS&P500に連動するETFを持つとしよう。また、債券は価格と利回りは逆に動き、償還までの期間が長いほど1%の利回りの低下(上昇)がもたらす価格の上昇(下落)は大きくなる。そして景気後退時には、金融が緩和されて利回りが低下するために長期債券価格は上昇する。

 したがって株式と同時に長期固定クーポンの債券を保有していれば、不況時の株価の下落をある程度ヘッジできる。 具体的にそれを示したのが第2図である。 S&P500連動ETFのIVV米国長期国債連動のETFであるIEFの配当込みの資産価格の推移を示した。

 IVVは2007年のピークから09年の底まで約50%下落しているが、IEFは約30%上昇している。したがって双方半々の比率で保有していれば、当時のポートフォリオ価値の減少は約20%で済む。リスク許容度の相対的に小さい人はIEFの比率を上げれば、リスクを低下できる(ただし長期のリターンも低下する)。 

図表2に示した黄色線がIVVとIEFを50:50にした合成ファンドの時価の推移である(全て配当込み)。つまり双方のETFを半々保有すれば、リスクを低下させながら、相対的に高いリターンを得られる。

図表3はIVVとIEFの全年同月比の変化の関係性を示したものだ。負の相関で相関係数は
-0.493である。 
 
図表4に各ETFと比率を変えた合成ファンドのリターン、リスク、Sharp Ratioを計測して(月次データ)一覧にした。 Sharp Ratioというのは、(当該資産のリターン-無リスク資産リターン)/リスク量で計算されるもので、リスク対比のリターンの高低を示すものだ。これを見ると、債券ETFと株式ETFで
50:50程度が最もSharp Ratioが高そうだ。

私自身はリーマンショック時には、S&P500のETF(iShares)と2006年秋に買った米国10年物国債(ゼロクーポン債、利回り5.1%)を60:40(株が60)で持っていたので、株式の評価損を緩和することができた。 

またドル相場の下落については、保有するドル建て金融資産(株と債券)に対してFXで90%比率でドル売りヘッジ持高をキャリーしていたので(キャリーコストはかかったが)、1ドル90円程度までの損失は大半回避できた。その後は分割して買い戻し1ドル80円割れでヘッジゼロにした。 こうしたことは今までの私の著作で述べて来たとおりである。

S&P500 ETFの中核持高は取り崩さずに継続しているが、現在は長期米国債は保有していない。これまでは長期金利が低過ぎる局面だと思っていたからだ。米国の景気回復がもうしばらく続いて10年物利回りが3%に絡んできたら、個別の長期債か、あるいはここで紹介した長期債券ETFを買って利回りを取りながらヘッジに利用しようと思っている。

またドル資産に対する為替のヘッジ率は約90%前後で、110円前後ではあまり動かすつもりはない。為替のヘッジ操作については、昨年のロイターの以下の論考をご参照頂きたい。

ETFについては、S&P500連動ETF(円ベース、為替リスクヘッジなし)は以前から東証で上場されている。米国長期国債連動のETFも昨年から東証で上場されている。以下の東証ETF一覧をご参照頂きたい。

最後に、日本については10年物国債利回りが金融政策で未だにゼロ近辺なので、長期債券の株式持高に対するヘッジ効果は、残念ながら期待できない。

 
図表2
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図表3
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図表4
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毎度のロイター・コラムです。本日夕刻掲載されました。

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結論部分の抜粋:「私は2018年の実質成長率は2.5―3.0%になるだろうとイメージしている(2000―16年の平均は2.0%)。株価が2017年末時点で減税による企業利益の押し上げ効果をどの程度織り込んでいるかについてはなんとも言えないが、おそらく株価もまだ高値更新を続けるだろう。

しかし、大局観としては2009年を底にした米国の景気回復はいよいよ「成熟局面」に入ったと言えるだろう。長期投資の要諦は「陽(陰)の時に陰(陽)の兆しを見る」である。米国の次の景気後退は、トランプ政権の後半である2019―20年のどこかで始まると、これまで大づかみに考えてきた。
今回、もう少しきちんと検討した結果、次期景気後退の始まりは2020年の前後1年というめどが立った。また、景気後退が始まった場合、どの程度の株価下落が起こり得るかも考えておこう。」

「1950年までさかのぼって景気回復期の高値から景気後退期にS&P500株価指数がどの程度下がるか見ると、景気回復期の株価の高値から景気後退期の安値までの下落が10回、さらに景気後退にはならなかったが、30%以上の下落が起こったことが2回(1987年と2002年)ある。直近高値からの平均の下落率は31.2%、下落率最大は49.9%(1973―74年)、最小は14%(1959―60年)である。

もちろん、次の景気後退時の株価下落が、いつ起こり、どの程度になるか、合理的にピンポイント予想する手法はない。景気後退時に大きな下落があり得るからと言って、米国株の投資残高を慌てて手じまいする必要もない。米国株価指数での定額積立投資をしている場合には継続するのが良いだろう。景気後退が始まるまでにまだ相応の時間があり、それまでに米国株がどこまで上がるか、事前には予想困難だからだ。

最も重要なことは大きな下落が起こっても、そこは絶好の買い場であり、米国の株式市場では長期にわたる「buy and hold」(長期保有)戦略が有効であることだ。「米国資本主義はもうおしまいだ」と言わんばかりの悲観論を声高に語る筋がまたぞろ出てくるだろうが、惑わされてはいけない。2008年のリーマンショック時にも、私は各種の著作の中でそう説き、自らも実践した。次の景気後退時の方針も同様である。」

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本ブログで過去何度か取り上げた米国株価指数S&P500を対象にしたShiller PER(CAPE ratio)について再考した結果、こういう使い方をすれば良いのではないかとようやく気が付いたので、まとめておこう。

まずShiller PERについて一から説明する手間は省くので、ご存じない方は以下のwikiでもご参照頂きたい。

またヒストリカルなデータは以下のサイトで手に入る。

Shiller PERへの代表的な批判

Shiller PERに対する代表的な批判は、ShillerPERは長期の平均値が安定していることが想定され、ある程度以上平均値から上方に乖離したら株価は過大評価(売りシグナル)、下方に乖離したら過小評価(買いシグナル)と判断するわけだが、1990年以降は明らかに趨勢的な水準が大きく上方シフトしており、割安割高の基準値としては役に立たなくなっているというものだ。

第1図を見てわかる通り、1989年までの平均値は14.6倍であり、実際の値はその平均値を中心に乖離と回帰を繰り返している。ところが90年以降の平均値は25.4倍であり、伝統的な14.6倍をベースに例えば20倍を超えたら株価は過大評価、売りシグナルと判断すると、90年代以降はほとんど売りシグナル常時点灯中となり、全く投資チャンスがないことになってしまう。

実際、考案者のロバート・シラー氏は、90年代前半にこの倍率が20倍を超えたあたりから(20倍を超えたのは92年12月)S&P500で見た米国株は過大評価されており、買い場ではないという趣旨の「警告」を発し、90年代半ばからのITバブルの投資チャンスを完全にとらえ損なってしまった。

このことは、今でも例えばバートン・マルキールが著作「ウォ―ル街のランダム・ウォーカー」でちょっと意地悪く指摘している。

Shiller PERの90年代以降の上方シフトの原因については、様々な論者が取り上げているようだが、私の知る限りすっきりとした定説があるわけではないようだ(あまりきちんとこの点は文献を読んでいないけどね)。

100年以上も長期にわたって同一平均値が適用できるのか?
 私もShiller PERをどのように参考にしたら良いか、考えて以下のような論考をロイターに書いたことがある。 第2図はその時に図表である。赤い垂直線がその時のShiller PERの水準である。
米国株は割高か?シラーPERの軽視は禁物」2015年2月、ロイターコラム

 引用:「なぜ1990年以降にシラーPERがすう勢的な上方シフトを起こし、それが続いているのか。必ずしも明快に解き明かされていないのだが、すう勢的な企業利益水準も会計制度の変更などによって変わる。景気循環のサイクルの長さもまちまちだ。また、投資家が求める実質リターンの水準自体、過去100年以上にわたって安定しているわけではなかろう。

したがって、シラーPERの水準は各時代のそうした事情に影響を受けていると考えられる。逆に言うと、各時代にそうした事情が働いているにもかかわらず、過去100年以上にわたるシラーPERの平均値一本で割高・割安を判定しようとすること自体に無理があるのだと筆者は考えている

 要するに私の見解としては、株価指数は趨勢的な水準からの乖離と回帰を繰り返すのだが、その趨勢的な水準をShiller PERの単純な長期平均値一本で表現できると考えるのは、論理的には一貫しているかもしれないが、実践的には硬直的過ぎて不確実性の高い現実に対応できないのだ。

Shiller PER自体の長期移動平均値からの乖離を見る

 それではどうしたら、良いか? 実は各方面で使用されている手法を使えばいいのだ。具体的にはShiller PER自体が様々な事情で超長期では変動し得ることを前提に、例えばShiller PER自体の10年移動平均値を計算し、この移動平均値からのその時点のShiller PERの上方、下方への乖離度で判断すれば良いはずだ。

第3図がそれを示したもので、黒の実線がShiller PERの過去10年移動平均値、上下の黄色線はその水準からの一標準偏差乖離の水準を示す。つまりShiller PERは約3分の2の確率で上下の黄色線の範囲に収まり、3分の1の確率でそこからとび出す。上にとび出した時は過大評価=売りシグナル(ピンクカラー)、下にとび出した時は過小評価=買いシグナル(水色カラー)である。S&P500の推移は赤い実線で、右対数目盛で図中に重ねてある。

これを見ると1970年代後半から80年代初頭の株価大幅割安期は青い買いシグナルが頻繁に点灯、80年代末から90年代の大半はピンク・カラーで売りシグナル、リーマンショック後に再び水色で買いシグナルとなっている。 

もちろん、移動平均値として10年期間、あるいはそこからの乖離として一標準偏差で判断するのが最適という保証はない。これはあくまでも例であって、様々なバリエーションが考えれる。

実際に投資パフォーマンスは改善するか?
 それで実際に上記の基準で売買をやってみて、投資パフォーマンスは改善するか、検証する必要がある。そこで1950年1月末から毎月100ドルの定額積み立てを行った場合と、同定額積立に加えて、割高(ピンク)期間は月に100ドル売り、割安(水色)期間には100ドル売った場合の投資パフォーマンスを比べてみた。

定額積立では、2017年8月25日時点で、累積投資額(81,200ドル)に対する時価資産総額(1,924,233ドル)となり、23.7倍になる。 売買を加えた修正積立方式では、累積投資額(69,000ドル)に対する時価資産総額(1,837,356ドル)となり、26.6倍となり、定額積立を上回るリターンをあげた(配当含まず)。

ただしポートフォリオのリスクを勘案する必要がある。リスク量の計測として、時価資産総額/累積投資額の月次データの前月比(%)の標準偏差を計測したところ、定額積立は3.42%、修正積立は3.43%となり、ほとんど同じである。すなわちリターンが向上した分だけ、投資パフォーマンスの向上に成功している。

ちなみ修正積立によるリターンの優位は、最初は小さいが90年代から大きくなり、2017年8月時点のみならず、90年代以降の期間を通じて修正積立のリターンが優位となっている。これは第4図表に時価資産総額/累積投資額の2つの場合の推移比較とその格差を示しているのでわかるだろう。

最後に2017年8月時点の状況については、図表3が示す通り、Shiller PERは一標準偏差の上方の淵近辺にあり、割高を示唆している。つまり既存の米株保有残高が大きくなっていれば、ちょっと売って軽くしておく方が良いよという、私の直感と整合的だ。

私自身としては、自分の目から鱗を落とした再考であるが、世界のどこかでは既に誰かが同じようなことを言っている、書いているかもしれない。日本ではいなさそうだが、米国にはいるかもしれない。
面倒くさいので検索探索しないが、どなたかもし発見したらお知らせ願いたい。

また、今回の再考の結果、ドル円相場の実質相場指数に基づく私のドル建て資産のヘッジ方針についても再考することとなった。それについては、次回ブログにて。


第1図表

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第2図表
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第3図表
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第4図表
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東証に占める外人(非居住者)の売買比率は6~7割と言われ、とにかく外人投資家が買い越すか、売り越すかで日本株は上げも下げも左右されていることは、ご承知の通りだ。しかし、外人投資家の投資パフォーマンス、良いのだろうか? 当然、成功している連中も、失敗している連中も双方いるわけだが、外人投資家層マクロで見て、どうなのか? 

そこで大胆に推計してみた。外人投資家の日本株の売買については、財務省の対内証券投資データを用いる。売買価格については、日経平均の月間高値と安値の平均値を採用する。
つまりある月の外人投資家の日本株売買が、ネット買い越し5000億円なら、その月の日経平均の高値・安値の平均値で5000億円買い越したとして、月間データで累積投資額を計算する。

もちろん、個別には高値圏で買っている投資家から安値圏で買っている投資家まで分布しているわけだが、全体としては平均値近辺で売買していると見て、想定としては妥当だろう。また株式のポートフォリオ内訳も投資家ごとに異なるが、全体としては日経平均に近いポートフォリオ構成となっていると想定するわけだ。

2005年1月から16年12月までの累計投資結果が上段の図である。2016年12月末時点での時価資産総額/累積投資額は1.22倍(配当含まず)、累積投資額は34.8兆円、評価益は7.8兆円である。

果たしてこの投資結果は良いのか、悪いのか?

比較参照として、同じ期間毎月定額を日経平均に投資した場合の計算をしてみよう。2005年1月から毎月2400億円定額で同様に日経平均に投資した場合が下段の図である。累積投資額は34.6兆円で上記とほぼ同じ、評価益は13.7兆円、時価資産総額/累積投資額は1.40倍であり、上記の外人投資家の投資リターンより高い。

(定額積立投資の場合、月間の高値安値は事前にはわからないので、通常は「月末で買う」という想定をするが、ここでは比較のために外人投資家と同じ想定にした。)

外人投資家層全体の投資パフォーマンスは、定額積立投資に劣る! いや、この段階でそう判断するのは早すぎる。外人投資家層はその売買によってポートフォリオのリスクを定額積立投資の場合よりも低下させているかもしれない。それであれば、リターンが低くなることにも合理性があり得る。

そこで双方の時価資産総額/累積投資額の月次のデータの標準偏差を計算した。この値が高いほどポートフォリオのリターンの変動性、つまりリスクは高いことになる。

外人投資家のリスク:0.2937
定額積立投資のリスク:0.2586

ははは、定額積立投資の方がリスク(標準偏差)が低い。

結論として、外人投資家層全体の上記期間の日本株投資のパフォーマンスは、機械的な定額積立投資の場合よりもリスクが高く、リターンが低いということになる。つまり外人投資家は定額積立投資に比べて、安値で売って、高値で買っている部分があり、その分だけ投資のパフォーマンスが低下している。労多くして益少なしということだ。

まあ、これは外人投資家層に限ったことではないだろう。他のセクターでも似たような結果になるのではなかろうか。後日改めて、投資家セクター別のデータを使ってやってみようか。

追報(2017年2月7日)
東証の投資主体別売買の週間データで2005年から全く同様の試算をやってみた。ただし今度はTOPIXを使用している。結果は月間とほぼ同じで、海外投資家の評価損益は7.1兆円(1月20日時点)、時価資産総額/累積投資額比率は1.18倍。一方、週間で定額積立投資した場合の評価損益は14.7兆円、時価資産総額/累積投資額比率は1.37倍となり、海外投資家の方が収益、収益率で劣後している。

また時価資産総額/累積投資額の標準偏差で測ったリスク量も海外投資家が0.275、定額積立投資が0.257となり、前者の方がリスクが高い。

以下、図表を下段に追加しておく。

追記(2017年3月13日)
日経新聞で田村正之さん(編集委員)が、本件について取り上げてくれました。
本件についての論考は、時事通信社の「金融経済ビジネス」2017年3月9日号に掲載されています。
私のホームーページに近日pdfで掲載します。

追記(2017年3月17日)
本件に関する論考、時事通信社の「金融経済ビジネス」2017年3月9日号に掲載されたものをホームページに掲載しました。↓
 


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追加図
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