たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

タグ:練習用

Why is the center-left receding worldwide?
The Japan Timesに初寄稿しました。以下URL

以下に日本語版を掲載しておきます。


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なぜ中道左派は世界的に退潮しているのか 


世界的な中道左派政党の退潮


 日本では中道左派と目された民主党政権から自民党と公明党の連立による安倍内閣に換わって6年目となった。その間、旧民主党は党勢を立て直すどころか分裂し、左派の中核的なメンバーは現在、立憲民主党に集結しているが、支持率は自民党の2割前後の水準で低迷している。


 米国では今年11月の中間選挙で民主党が下院の過半数を取る可能性が高いと言われているが、ポリティカル・コレクトネスをことごとく破りながら当選した共和党トランプ大統領の再選を阻止できるほどの大統領候補を見いだせていない。 欧州各国でも中道左派としての社会民主勢力は退潮が目立ち、党勢を拡大しているのは極右勢力だ。 


その一方で、日米欧とも所得格差の拡大が指摘されている。所得格差を縮小するための所得再分配政策は、もともと左派が重視するものだった。それならば、中道左派にもっと政治的な支持が集まりそうである。ところが事態は反対で、中道左派が退潮しているのはなぜだろうか。もちろん各国各党固有の事情があるのだが、個別事情の違いを越えた共通の政治経済的な背景があるように思える。この問題に対する筆者の説明を提示しよう。 


エレファント・カーブが表す世界経済の構造変化


 第1は「エレファント・カーブ(象の鼻)」と呼ばれる世界経済の構造変化だ。これは代表的には米国のエコノミスト、ブランコ・ミラノビッチが提唱した世界の所得分布の変化である。経済のグローバル化が進んだ90年代以降、新興国の富裕層、中間層の所得の増加が急速に進んだ。その一方、先進国では富裕層が所得と資産を伸ばしたが、中間層以下の所得は停滞した。


これを家計の所得水準を横軸、同所得伸び率を縦軸にしたグラフに表すと、象を横から見た姿に見える。つまり最も所得水準の高い右端の持ち上がった象の鼻先は先進国の富裕層が大半を占め、下がった鼻の付け根は先進国の中間層以下、そして盛り上がった頭部は新興国の所得上位層という形になる。


こうした状況下、先進国の中間層を中心に、中国をはじめ新興国経済の台頭や移民労働者の増加に脅威を感じる人々が増えた。それがナショナリズムと重なり、移民への敵視や対外的な保護主義の声が高まっている。これがいわゆるポピュリズムの動きである。


ところが伝統的な中道左派は、民族、人種、宗教、性別の違いで人が差別されることを否定し、多様性に対して寛容なリベラルな精神を尊重して来たので、そうした移民に対する排外主義的な動きと相性が悪い。その傾向が典型的に現れているのが米国だ。


もっとも全ての国の左派が移民に寛容というほど現実の構図は単純ではなく、欧州では左派が厄介な移民・難民問題に沈黙している場合も少なくないようだ。それでも国内の不満層の支持は、安全保障や経済面での対外的な脅威論の台頭を背景に、中道左派政党よりも右の政党に傾斜している様に見える。 


現実社会のリベラル化


 中道左派退潮の第2の事情は、戦後の世界を振り返ると、先進国を中心に民族、人種、宗教、性別などで差別することを否定するリベラルな価値観が、法制度や社会の慣行として広がってきたことだ。その結果、実に皮肉なことに「リベラルである」というだけでは、先鋭的でも挑戦的でもなくなってしまった。


かつて社会に非リベラルな法制や慣行がはびこっていた時代には、既存の大人社会にそのまま順応することを潔しとしない若者層にとって、左派のリベラルな主張は抗議するための理論的な武器となった。ところが現実社会のリベラル化が進むにつれて、皮肉にも左派の主張は若者層を惹き付ける力を弱めてしまったのではなかろうか。


しかもマルクス主義の流れを汲む西側諸国の最左派は、ソ連崩壊と中国の国家資本主義経済化によってほとんど解体した。1970年代頃までは日本や西欧にあった「資本主義対社会主義」の体制選択という包括的なビジョンを左派は喪失してしまった。すなわち中道左派は、社会主義・共産主義という最左派の極を失うと同時に、現実社会のリベラル化で右への対抗軸もぼやけてしまったのだ。 


政治的な不安定性の高まり


 もっとも極右やポピュリズムが台頭する今日の状況は中道右派にとっても脅威である。日本では無党派層が圧倒的に増加し、米国では共和党の本流からは完全に異質なトランプ大統領が登場し、共和党中道派に動揺と反発が起こった。英国ではまさかのEU離脱が国民投票で多数を占めた。先進国の諸政党は左右ともに政治的な新しい軸を求めて混沌の時代に突入していると言えるだろう。


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毎度のロイター・コラムです。本日午後に掲載されました。

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米株式投資、高値恐怖症に打ち勝つヘッジ手法
冒頭引用:「歴史的な高値更新を続けていた米国株式が、長期金利の上昇(10年物米国債利回り2.85%、2月2日引け)を受けて反落し、神経質な展開となっている。

下落幅はダウで1月の高値から4.1%、S&P500で同じく3.8%にすぎないが、波乱なしの堅調推移が長く続いたので、ちょっと冷や水を浴びた感じなのだろう。本格的な調整・下落局面の始まりか、それとも一時的な小反落で押し目買いの好機か。そんな短期の予想は本当のところは誰にも分からない。
 
当たり外れのある短期の予想に依存した投資姿勢は不安定で長期的にも報われない。むしろ大局観に立ち、米国株と長期債についてポートフォリオ上の比率を見直す形でリスクヘッジを始める局面が到来したように思える。
現下の株価反落の原因とされる長期金利の上昇も、将来の米国株下落への効果的なヘッジ機会を提供してくれる。ドル円相場のリスクヘッジも含めて、この点を考えてみよう・・・」

末尾引用:「筆者のドル円相場に関する中期的なスタンスは、昨年9月のコラム「実質ドル円相場が示唆する円高回帰」(2017年9月12日付)から変わっていない。1973年以来のドル円相場を見ると、実質相場指数がすう勢的な平均値から大きく乖離するドル高(円安)の山は6回、ドル安(円高)の谷は5回あり、現在は6番目のドル高の波の最終局面が始まっていると判断している。

次の米国の景気後退期には再び1ドル90円、80円の水準の円高も自然な結果だろう。もっとも、前掲1月のコラムで書いた通り、米国の次の景気後退が始まるまでには、恐らく1年以上の間があるので、米国の10年物国債利回りの上昇余地もまだあり、一気に円高・ドル安になる可能性はまだ低いだろう。従って、先物予約やFXトレードなどで円高・ドル安へのヘッジができていない投資家にとっては、目先1年かそこらがドル売りヘッジをするラストチャンスになるかもしれない。

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 コラムには書かなかったけど、次の米国景気後退局面、GPIFは長期ドル債も保有しているはずだから(平均残存期間は知らないけど)ドルベースの株価の下落は、ここに書いた通り、ある程度はドル長期債券価格の上昇で相殺できるでしょうが、円高による為替損の発生がむしろ心配です。 

 先物の外貨売りでヘッジすれば、もちろん先物ディスカントの分(今は年率2%強)だけコストが生じ、リターンは下がるけど、持高が莫大なだけに、総計で30兆~40兆円もの評価損が出たら、また左派系野党が目を輝かせて「アベのせいだぁ!」と攻撃するでしょ。それをしのげるのか? 

 もっともGPIFが本気でドル売りヘッジ始めたら、10兆円単位の規模になるでしょうから、それだけで数円は円高に振れそう。ヘッジ率を上げるには時間をかけて、じわじわやるしかない。

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本日(12月24日付)日経新聞が「安倍政権、5年間でこう変わった」と題する図表を掲載しているので、それに関連してコメントしておこう。(上段の図表)

まず図表のデータには雇用に関する以下の変化も加えておきたい。

実質雇用者報酬総額 253.8兆円(2012/4Q) → 265.1兆円(2017/3Q)(11.3兆円増加)

総雇用者数 5551万人(2012/4Q)→ 5839万人(2017/3Q)(288万人増加)
(変化の内訳については、中段の図表をご参照)

 失業率 4.2% → 2.8%(1.4ポイント低下)

言うまでもなく、すべての変化が、安倍政権の政策の結果であるわけではない。例えば少子高齢化による人口減少などは5年程度の政策で目立った変化が生じるものではないからね。

しかし、これまでのいくつかの量的金融緩和の実証分析をベースに考えると、円高の修正やそれに伴う企業利益の増加、株価上昇、雇用の増加などは安倍政権の下でのリフレ政策で(少なくともそれを契機に)生じた変化だと評価できると思う。

ところが、「でも、景気回復の実感がない」という言い方が最近のメディアやアンケート調査の枕言葉の様に使われている(例えば以下の朝日新聞アンケート)。

こうした実感がないという声に関連して、TVなどでは経済評論家が「実質賃金が上がっていませんからね」とかしたり顔でコメントしている。

それならば、以上の雇用、所得、株価の変化が全部逆に動いた場合も「景気後退の実感がない」と言えるのかな? そうじゃないだろ。逆の場合は大さわぎするんだろ。
戯言にしか聞こえないね(^m^)

そう思って聞捨てることもできるんだが、こうした感覚や言説が出回る背後の事情を考えてみようか。

第1は、人間の損失と利得に関する感覚は非対称で、損失する場合は利得の場合の数倍も痛みを感じるということなのだろう。行動経済学でよく知られていることだ。

第2は、世代によってこの面での反応はかなり違ってくることが考えられる。つまり、若手、現役層は過去5年の変化について「就職、転職しやすくなった」とポジティブな反応をする傾向が高いだろう。

一方、既に引退して年金と預貯金の取り崩しで生活している高齢者(そうでない高齢者もいる)は、「年金が減るのか」という不安を抱え、またリフレ政策で物価が本当に上がり始めると、預貯金の実質購買力は減少するからネガティブな評価に傾斜するのだろう。 もちろん、高齢者層でも金融資産を株式などで保有している層は、株価上昇の恩恵を感じているはずだが、そういう方は富裕層などに限られるはずだ。

第3に、都市部と地方の地域格差もこの点でかなりあるだろう。

第4に政治的なバイアスが、「実感がない」の声の拡声器として働く。

最後の点として、景気回復が続いていると言っても「80年代に比べると所得の伸びがずっと低いから実感わかないのは当然」と考える人達もいるだろう。では、逆に80年代に人々は今よりもっと楽観的で経済成長を実感していたんだろうか?

この点で消費者の楽観・悲観のマインドをアンケート調査した「消費者態度指数」(内閣府)の推移を見ると興味深い事実が浮かび上がる。(下段の図表)

消費者態度指数の仕組みについては、以下のサイトをご参照願いたいが、要するに目先について楽観的な人と悲観的な人が半々だと50、楽観派は多いほど100に近づき、悲観派が多いとゼロに近づくようになっている指数である。

これを見ると指数は2013年に跳ね上がった後、14年に下落、底を打った後、じわじわ上がって、現在の水準は44.5(10月)である。 一方、80年代はもっと高かったかというと、データのある1982年から89年までの平均値は実は46.6で、現状と大した変わりはないのだ。

要するに、日本の消費者の楽観・悲観というマインドは、「実質所得の伸び率」という客観的な事実よりも、もっと別の事情に左右されて動いているということだろう。


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追加図
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可処分所得と調整可処分所得の違いについては、以下参照。

今年4-6月期の実質GDP伸び率は2.5%となり、比較的高い伸び率となったが、賃金の伸び率は名目も実質も引き続き低調で、ちょっと上向いている消費もじきに息切れしてしまうのではないかという悲観的な見方もある。 

しかし、希望が持てるのは昨年後半から実質ベースの純輸出(=輸出-輸入)が伸びており、GDPの押し上げ要因となっていることだ。

上段の図は日銀が公表している実質輸出入である(直近データ8月)。実質というのは物価調整後の意味である。2016年後半から輸出が輸入を上回るようになってきた。下段の図は、その前年同月比の変化を示したもので、輸出の伸びが輸入のそれを2016年後半から上回るようになって来ていることがわかる。(このデータは輸出も輸入も2015年度を100とした指数なので、輸出と輸入の落差が国際収支の貿易収支と一致するわけではない点、ご注意ください)。

これは日本経済にとっても、安倍内閣にとっても順風だろう。円安にならないと輸出の伸びが落ちるのではないかと思う人もいるだろうが、そうでもない。2000年代以降の円相場と輸出入の動向を見ると、実質輸出入、あるいは数量ベースの輸出の増減と円相場の変化とはほとんど関係がなく、輸出の増減は海外景気動向(外需)の動きとの相関関係が高い。2016年後半以降、輸出が伸びているのも2015年に不安定化した世界経済が、2016年後半から穏かながら上向いているからだろう。

一方、為替相場との関係では輸出企業を中心に企業利益との関係性が高い。大雑把に言うと、円安では輸出企業は外貨建て価格を下げずに利益率を向上させる。一方、輸入企業は輸入仕入れ価格(円ベース)が上がるが、ある程度は消費者に転嫁できる。その結果、企業部門全体では利益増加となるわけだ。

さらに実質GDP成長率の項目別寄与度で見てみよう。2002年から07年までの景気回復期では、上段図で見てわかる通り、輸出の伸びが輸入を一貫して上回り、純輸出の寄与度は0.8%もあった。
一方で、2013年1Qから16年2Qまでの純輸出寄与度は0.2%にとどまった。

そのためこの時期は、「円安になったのに輸出が伸びない」と言われたわけだが、その主因は①輸出企業が円安になっても外貨建て価格を下げて輸出数量を拡大するよりも、収益性を向上させるような行動をとった ②中国を含む新興国経済の成長が鈍化、あるいは低迷し、世界的にも貿易量が低調だった ③企業が海外生産シフトを進めた等である。

ところが2016年3Qから17年2Qまでの純輸出寄与度は0.6%に上がってきた。おそらく①の事情は変わらないが、②の海外需要が穏やかな回復基調となったことと、③の海外シフトの動きが一服したからではなかろうか。 ちなみに2017年2Qだけの数字を見ると、純輸出寄与度は前期比でマイナスになっているが、2017年1Q比のブレであり、前年同期比では輸出が伸びる傾向は継続している。

輸出の伸びに加えて、雇用者報酬(実質)は2016年1Q以降平均で+2.3%(各四半期の前期比年率換算の平均)と堅調で、家計消費も同+1.4%と持ち直してきた。

来年にかけて世界景気の穏かな回復基調が継続する限り(そうなりそうな雲行きである)、日本も純輸出が景気を押し上げる効果が加わり、実質GDP+2%程度の景気回復が持続するのではなかろうか。 総選挙結果次第の面はあるが、与党の思惑通り勝ちを実現したら、「憲法9条の自衛隊合憲化改正」のみならず、順風を利用して各種の成長戦略、社会保障制度改革を含む難易度の高い改革を実行してほしい。


現代ビジネスへの寄稿、本日掲載されました。
タイトルはやや刺激的ですが、編集サイドのご意向とご理解ください(^^;)
私のメッセージを一番良く表しているのは、サブタイトルの「既存産業の『創造的破壊』が必要だ」でしょう。

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一部引用:「日本経済は長期的には、失業ではなく労働力不足が課題になるステージに移行している。ただし労働力不足と言っても、職業による過不足のばらつきは大きい。その点を見るために、職業別の有効求人倍率と就職件数(月間)(厚生労働省、ハローワーク・データ)の分布を示したのが図2である。

まず目につくのは一番左上に位置する「事務的職業」である(赤色)。就職件数で最大のボリュームゾーンであるが、有効求人倍率は0.4倍と最も低く、雇用需給は著しく余剰に傾斜している。

比較的大きなボリュームゾーンで有効求人倍率が2.0以上(水色)は、「専門的・技術的職業」、「サービスの職業」、「介護関係の職種」、「輸送・機械運転の職業」である(サービスの職業は介護、保健医療、飲食物調理、接客・給仕等からなり、近年追加された「介護関係職種」と重複する)。

こうした求人倍率の分布は、まさに現代のイノベーションが引き起こしている雇用需給構造のシフトを如実に表している。

すなわち、90年代から機械による代替が進んだ定型的な事務労働は、依然大きなボリュームゾーンではあるが、完全に雇用需給が余剰基調である。

一方、人手不足分野では、相対的に高付加価値の専門的・技術的職業と、対人的なサービスの職業(含む介護関係の職種)や輸送・機械運転の業務、ならびに運転や建設など現場業務への二極化が進行している・・・」

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今朝発表され日本の今年4-6月期の実質GDP成長率、 前期比年率で+4.0%、前年同期比+2.1%と高い数字が出た。内訳も良い感じだ。+4.0%の内訳である項目別寄与度は、民間最終消費+2.0%、民間企業設備投資+1.5%、公的固定資本形成+1.0%、純輸出-1.1%など。消費と設備投資の内需主導型成長である。上段の図

日本経済は長期的には失業ではなく、労働力不足が課題になるステージに移行しているのだと思う。ただし労働力不足と言っても、職業による過不足のばらつきは大きい。それは労働需給のミスマッチ問題でもある。その点を見るために職業別の有効求人倍率と就職件数(月間)(厚生労働省、ハローワーク・データ)の分布を示したのが下段の図である。

まず目につくのは一番左上に位置する「事務的職業」である(赤色)。就職件数で最大のボリュームゾーンであるが、有効求人倍率は0.4倍と最も低く、雇用需給は著しく余剰に傾斜している。

比較的大きなボリュームゾーンで有効求人倍率が2.0以上(水色)は、「専門的・技術的職業」、「サービスの職業」、「介護関係の職種」、「輸送・機械運転の職業」である(サービスの職業は介護、保健医療、飲食物調理、接客・給仕等からなり、近年追加された「介護関係職種」と重複する)。

また、民間の転職・求人仲介会社の求人倍率を見ると(DODA転職求人倍率レポート2017年7月)、業種別では「IT・通信系」が5.5倍と突出して高く、「サービス」2.8倍が次となっている。同データを職種別に見ると、「技術系(IT・通信)」6.9倍、「専門職」5.8倍と高く、「事務・アシスタント系」は0.22という低さだ。

こうした求人倍率の分布は、正に現代のイノベーションが引き起こしている雇用需給構造のシフトを如実に表している。すなわち、90年代から機械による代替が進んだ定型的な事務労働は依然大きなボリュームゾーンではあるが、完全に雇用需給が余剰基調である。一方、人手不足分野では、相対的に高付加価値の専門的・技術的職業と、対人的なサービスの職業(含む介護関係の職種)や輸送・機械運転の業務、並びに運転や建設など現場業務への分化が進行している。
 
さらに、リクルートワークス研究所のレポート「働くを再発明する時代がやってくる」(2015年)によると、企業内で事業に活用されていない社員である「雇用保蔵者」は2015年に401万人と推計されるそうだ。これは労働市場に出てきていない労働のミスマッチの存在だ。

今日、AI・ロボット化による労働の代替は、製造業から非製造業全般へ、とりわけ専門的・技術的分野と各種の対人サービス、運転、建設の分野に進もうとしている。こうしたイノベーションの波は、失業率が高い時には「雇用が失われる」とネガティブに受け止められ易いが、現下の人手不足の状況ならば「省力化・効率化」としてポジティブに受け止めることができる。むしろ、そのような変化への積極適応が経済全体で進まなければ、持続的な経済成長が不可能である局面に日本経済は至ったと言えるだろう。



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世の中には強い政治的な色眼鏡でしか経済状況を見ない人達がいる。アンチ安倍政権の立場で極度の色眼鏡をかけている人達にとっては、失業率の低下や有効求人倍率が示す雇用の回復、人手不足も「ウソ」「だまし」と見えるらしい。

そんな事例を幾つか拾って、彼らが「ウソ」という内容がいかに根拠のないトンデモ論であるか確認しておこう。

トンデモ論その1:失業率の低下は団塊の世代など退職による生産年齢人口の減少による見せかけの改善に過ぎない。 http://www.mag2.com/p/money/167311 by 三橋貴明

引用:「日本の完全失業率が3%を切ったのは、アベノミクスのおかげではありません。人口構造の変化により雇用環境が改善している風に「見える」としか説明のしようがありません。
日本の失業率の下落について、安倍政権の経済政策の「おかげ」と、懸命に印象操作を図っている論客が少なくありませんが、もし本当にそうであったとしたら、就業者数が増えるはずです。ところが、現実には就業者数はすでに頭打ちになり、下落を始めています

この方は、多少統計データなども引用(ただし極めて恣意的に解釈)しながら、ひどく歪めた主張をするので要注意だ。

ここで同氏があげている就業者数のデータは、2015年11月から17年2月までの極めて短い期間のもので、しかも就業者の減少が始まっているとして上げられているのは、17年1月~2月のデータだけだ。

季節調整していない就業者データは、毎年1-3月に減少して4-6月期に増える季節的な変動をする。これは日本の年度が3月期末、4月期初になっているから、退職する場合は1-3月が多く、就職する場合は4-6月が多くなるからに過ぎない。

したがって、1-3月のデータで減少しているから就業者数の減少が始まっているというのは、このデータの季節的な変動の特性を知らないのか、あるいは知っていてもわざと無視しているかのどちらかである。

さらに重要なのは、生産年齢人口の減少を見るならば、日本の段階の世代が65歳になったのは2013年前後であるから、2013年を含んだもっと長期のデータで推移を見る必要がある。図1が2002年まで遡った就業者数と雇用者数の推移である。

安倍政権下での失業率の低下が主に生産年齢人口の減少によるものであるならば、総就業者数、総雇用者数は2013年以降減少、あるいは少なくとも横ばいであるはずだが、双方とも2012年を底に増加しているのがわかるだろう。

すなわち2013年以降の失業率の低下が雇用、就業の増加を伴ったものであることは明瞭だ。また前述の通り、就業者数、雇用者数が毎年1-3月に減少し、4-6月に増加する季節的な変動でのこぎりの歯のような形で推移していることも明瞭だ。

また、以前から強調しているように、正規雇用者数は2013年には減少したが、2015年からは目立って前年同期比で増加し続けていることを示すデータも図2で掲載しておこう。

トンデモ論その2:有効求人倍率の上昇は、景気回復の結果ではなく、労働力人口の減少などを反映したものである。 by 野口悠紀雄

引用1:「第1に注目すべきは、求職者の減少の影響が大きいことだ。 有効求人倍率は、(分子である)求人数の増加(つまり、雇用条件の改善)だけでなく、(分母である)求職者の減少(つまり、人手不足の深刻化)によっても上昇する。長期的に見ても有効求人倍率は上昇している。それは、求人数が増えたことにもよるが、労働力人口の減少によって求職者が減ったことの影響もある。」

引用2:「有効求人倍率が上昇しており、失業率が低下している。また、大卒就職率も高い。これらは、景気が回復したためだと解釈されることが多い。 しかし、実はそうではない。有効求人倍率の上昇は、求職者数の減少によって引き起こされている側面も強いのである。つまり、人手不足、労働力不足が深刻化しつつあると解釈することができる。この状況をやや詳しく見よう。」

野口氏は、アンチリフレ派の立場であり、私のような「条件付きリフレ派」の視点からは賛成できない政策主張も多いのだが、データに基づいた議論のできるエコノミストだと思っていた。ところが、上記の主張は「アベノミクス憎し」で目が曇ったとしか思えない。

同氏の認識の歪みは、やはりもっと長期のデータで有効求職者数と失業率の関係を見ると明瞭だ。それが図3と4である。

2003年からの図3の推移を見ると、失業率の変化と有効求職者数の変化がぴったりと連動して変化していることがわかる。2003年から07年までの景気回復期には求職者数は減り、08-09年の不況期に増加し、10年の景気回復期からまた減少トレンドを辿っている。この変化は生産年齢人口の変化とはほとんど関係がない。

図4はそれを散布図にしたものであり、双方の関係性の高さを示す決定係数R2は0.87、相関係数は0.935(最大値1.0)である。これは失業率の変化で有効求職者数の変化の87%を説明できることを意味する。

景気が回復局面では当然失業率は下がるわけだが、有効求職者数も連動して下がる。なぜなら仕事を見つけやすくなり、しかも失業中の人間が減るのだから、ハローワークに職を求めてくる人の数も当然減るのだ。 逆に不況下では、失業者が増えるだけでなく、仕事が見つけ難くなるので、何度もハローワークに来る人が増える。必然的に求職者数は増える。

もちろん、長期的に労働力人口が減れば求職者数の数は減るのは当然なのだが、短期、中期では景気の動向を反映して求職者数が増減する程度の方が遥かに大きいのだ。そして求職者数の減少自体が景気の回復、雇用の回復の結果なのである。

その3:総雇用者数に占める正規雇用者数の比率は下がり続けている。

この点はトンデモ論というよりは、私たちがデータを見る時にその前提となっている条件の変化に気が付かない結果、解釈を誤る例だと言えよう。既にこのブログでも、ロイターの論考でも取り上げた件なので、手短にコメントしてデータを更新した図を掲載しておこう。


引用:「2013年以降の雇用回復について「増えたのは非正規雇用ばかりだ」という政権批判が繰り返されてきた。しかし問題は、正規雇用者比率の増減を、何を分母に判断するかだ。通常は雇用者数全体に対する比率で議論されている。これを見ると確かに非正規雇用者の比率は上がり、正規雇用者比率は低下している。もっとも、それはアベノミクスで始まったことではなく、1990年代からのトレンドだ。

しかし、65歳以上の人口が増える方向に人口構成が大きく変わりつつある日本の状況を考えると、雇用者数全体に対する比率で見ることは必ずしも妥当ではない。通常、正規雇用の対象となるのは学校卒業から引退するまでの生産年齢人口である。就学中の学生が正規雇用であることはあり得ないし、また引退した高齢者が、年金の補完などのために就業する時は、正規雇用でない場合が一般的だからだ。したがって、生産年齢人口に対する同じ年齢層の正規雇用者数の比率を見る必要がある。

それを示したのが下の掲載図だ。見てわかる通り、1990年代をピークに下がるが、2005年を底に上昇に転じている。要するに、生産年齢人口の漸減という人口構成の変化を考慮すれば、安倍政権下でも正規雇用者も含めて雇用の回復が進んでいると言える。」

図5:総雇用者(除く役員)に占める正規雇用者数の比率(長期下げトレンド、足元横ばい)
図6:25歳~64歳人口に占める同年齢層の正規雇用者数の比率(2005年を底に上昇、特に2014年から上昇速度が速くなっている)

また、65歳以上の高齢者の就業者は非正規雇用ばかりかというと、必ずしもそうでもない。65歳以上高齢者のひとつの特徴は企業役員が多いことだ(現在約100万人)。正規雇用従業員に役員数を加えて、65歳以上の総雇用数に対する比率を示したものが図7である。

65歳以上人口に占める就業者(770万人、2016年)の比率は2割余りで、足元では少し上向いている。
同じく雇用者数は501万人(2016年)で、それに占める役員と正規雇用の比率は約4割である(2016年)。

最後に、「本当に人手不足ならどうして賃金がもっと上がらないのか」と思う人もいるだろう。その点は物価の問題との関連でロイターコラムで取り上げた点なので、以下ご参照頂きたい。


追記:2017年7月29日、雇用の回復を「ウソ」と言いたい人達にもうおひとり、追加しておきます。
以下アマゾンのサイト、私のレビューは・・・・わかるよね(^^;)


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図2
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図3
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図4
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図5
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図6
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図7
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以上

今月のトムソン・ロイター社への寄稿論考です。

冒頭引用:「米国では9月のドル金利引き上げが見送られた一方で、12月は金利引き上げを見込む向きが据え置き予想をやや上回っている。日本、欧州ともにマイナス金利からの出口が見えない中で、先進国で米国のみは金利の上昇が展望されている。

 今年前半の米国経済はGDP伸び率に見る限り不冴えだったが、後半から来年にかけては盛り返しを予想する向きもある。超低位安定を続けていた米国の長期金利が来年にかけてどこまで上がるか。それ次第で世界の株価から為替相場まで左右されるだろう。今回は来年にかけてのドル長期金利(10年物米国債利回り)の見通しを考えよう。

 結論から言うと、現在の穏やかな景気回復シナリオが持続する限り、10年物米国債利回りは上昇トレンドを見込むものの、現在の1.6%台から1.62.8%のレンジにとどまり、為替相場を含む金融市場全体への影響は穏やかなものにとどまるだろう。ただしリスクは利回りの下振れではなく、むしろ上振れだろう。また米国経済の景気後退が来年中にも始まるとの予想が一部にはあるが、その可能性は乏しい。その理由を以下ご説明しよう・・・」

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同社サイトには図はひとつしか掲載できないので、このブログに関連参考図を2つ掲載しておきます。
上段の散布図が、ロイター社サイトにも掲載した米国のGDPギャップと長短金利差(財務省証券10年物利回り-3か月物利回り)です。 

下段の図が同じく米国のGDPギャップと物価指数(Personal Consumption Expenditure Price Index excluding
food and energy)の前年同月比(%)です。やはりきれいな相関関係が見られます。2014年以降の数期は物価上昇率が近似線から下にシフトしているのが気になります。 詳細は分析していませんが、食料とエネルギーを除く指数ですが、国際的な天然資源価格の下落の影響を間接的に受けているのかもしれません。

しかし2016年2Qの時点では物価上昇率も持ち直してきているので、今後穏やかながら景気の回復が続けば近似線が示す右肩上がりのトレンドに戻り、GDPギャップが-1.0~0.0のレンジに入ってくると物価指数の上昇率もFRBの目標の2.0%を上回り始める可能性が高いことを近似線(回帰方程式)は示しています。そうなると金利の上昇テンポも早まるでしょう。 

それはいつか?実質GDP成長率2.0%で今後進むと、それは2018年後半、2.5%で進むと2017年後半になります。GDPギャップとは、GDP実績値と潜在GDPのギャップ(比率)であり、潜在GDP自体推計でしかないのですが(それを言えばGDPも推計でしかない)、いろいろ使えてエコノミストとしては面白いものです。


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本日午後、掲載されました。

トムソン・ロイター・コラム

冒頭引用:「2012年11月の総選挙以来、ほぼ3年となるアベノミクスのマクロ経済面の実績をまず手短に総括してみよう。成功分野も不振分野もあるが、目下の日本経済の成長阻害要因となっているのは、企業利益や雇用の回復にもかかわらず起こっている「賃金抑制」だ。

これを乗り越えないと目標の実質成長率もインフレ率も達成できないまま、再び不況となり、株価や不動産などの資産価格の下落とともに円高デフレに戻ってしまう危険がある。

筆者はアベノミクス開始以来、日本経済について楽観的な見通しを維持してきたが、今年の夏以降は中国経済の急失速というリスク要因に加えて、予想以上に執拗(しつよう)な賃金抑制で日本経済の先行きには「黄色信号が点灯した」と判断を修正した。以下、その理由を説明しよう・・・」





私が著作で度々紹介し、ホームページで公開している東京の中古マンション価格指数、賃料指数、そしてPRR(Price Rent Ratio=Price/Rent)のグラフを更新したので、このブログで強調しておこうか。

PRRは私が著作などで繰り返し説明している住宅価格の割高・割安を見抜く指標であり、グラフでは赤線で示してある。株価のPER(株価収益率)に準じた概念だ。

一目でわかる通り、東京で内外の不動産ファンドがプチバブルに踊った2006-07年を超える割高圏に突入している。今回の特徴は賃料の伸びが非常に鈍く、ほとんどフラットに近いことだ。2006-07年の時はもう少し賃料の上昇があったのだが。

理由は明白で、名目賃金の伸びが依然鈍いからだろう。ローンで買ってしまう住宅価格と違って、ローンで賃料を払う人はいないので、賃料の変化は専ら賃金所得の伸びに依存しているということだ。

企業利益の伸びが絶好調なのに、賃金の伸びが冴えない構造については、前回「円安がもたらす国内所得分配への影響」で書いた通りだ。この先、景気の回復がさらに続けば、賃金の伸びももう少し高くなってくる・・・そうすれば賃料ももうちょっと上がる、と予想しているが、それでも既にかなり割高になってしまった価格のほんの一部を正当化するだけだろう。

誰が割高になったマンションを買っているのかについては、例えば日経新聞の以下の記事が報じていることに違和感はない。

「不動産、中国リスクの影 富裕層マネーの退潮懸念」
日本経済新聞(7月10日付)

引用:「都心のマンション価格はリーマン・ショック前と同じ6000万円台に上昇した。「買い手は節税対策の日本の富裕層と海外マネーが中心」(野村証券の福島大輔アナリスト)という不動産市場で「都心立地を好む中国人客は最後の買い手」(大手不動産会社幹部)なのだ。

中国人が日本で不動産を買う際は全額現金で払うケースが多い。個人が中国から資金を海外に持ち出すのは難しいとされるが「海外企業設立や留学資金など名目を変える方法はたくさんある」(不動産関係者)。

上海株相場の崩落が予感させるのは、様々な経路で日本の不動産に流れ込んでいる中国の富裕層マネーが細る懸念だ。」
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超スローモーションで崩壊する中国不動産バブルの最中に、官制株式バブルが超高速で膨張と崩壊を起こした現象は、非常に興味深いが、これを契機にアジアからの不動産マネーが細るのかどうかはよくわからない。むしろ、汚職摘発と不動産バブル崩壊が進むおかげで、ますます海外に逃げる資金が増えるというシナリオもあり得るからだ。

しかし、2007年夏のサブプライム危機を契機に、日本でも外資系の不動産ファンドが一斉に停止、あるいは撤退をしたことを想起しておこうか。まあ、それでもそういう変化に鈍感な投資家、事業家もいたので、私は07年夏秋に2物件高値圏で売り抜くことができたわけだが。

2015年のこんな割高圏で買えば、投資の失敗は約束されているようなものと思うのだが、買っている連中も「2020年のオリンピック前に売り抜く」が合言葉になっているとか。本当に多数派がその気なら、そのシナリオはどこかで崩れるのが必然だろう。 

私自身は2012年から14年に、築浅の物件を今から見るとかなり安めに(リターン高めに)複数買うことができた一方、長く保有した物件を2つ高値圏で売ることができ、ポートフォリオの入れ替え完了。 株価も上がってくれたおかげで、半分以上売って得た資金で、ローンの返済も完了したので、ここは当分様子見といこうか。

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